地下駅の出入口に「わざと段差」なぜある? 万が一の事態に備えた地下鉄の“砦”

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地下鉄は、大雨が降ると水がなだれ込みそうにも思えます。ところが街なかには、それを防ぐための仕掛けがいくつも隠れています。どのような備えがあるのでしょうか。

出入口の段差は水を防ぐ砦

 2024年8月21日の夕方、東京の23区西部を中心に激しい雨が降りました。気象庁の東京都気象速報によると、港区付近では午後7時までの1時間に約100mmの猛烈な雨を解析し、記録的短時間大雨情報が発表されています。このとき東京メトロ市ケ谷駅と麻布十番駅、都営地下鉄国立競技場駅の構内に雨水が流れ込みました。

 水を防ぐための工夫は、街のあちこちに仕込まれています。まず注目したいのが、地下駅です。地上の階段の出入口が、歩道より少し高くなっていることに気付いたことはないでしょうか。東京メトロによると、浸水のおそれがある出入口を歩道より高い位置に設けることも、浸水対策の一つ。この“ちょっとした段差”が、道路にあふれた水の流入を防いでいます。

 さらに出入口には、水をせき止める止水板を設置できる場所があります。同社によると、止水板はアルミ製のパネルを2~3段設置して、水の流入を防ぐものです。

 より水位が高くなりそうな場所では、出入口をまるごと閉じる防水扉も備えています。段差、止水板、防水扉。場所に応じたこうした仕掛けが、地上からの水を食い止める最初の砦です。

換気口とトンネルにも仕掛け

 水が入り込む場所は、駅の出入口だけではありません。歩道には、地下の空気を入れ替えるための換気口があります。ここもまた、水の通り道になりかねない弱点です。

 そこで換気口には、浸水防止機が備えられています。東京メトロによると、感知器を備えた浸水防止機を整備しており、大雨の情報を受けた場合は遠隔操作で事前に換気口を閉鎖します。

 さらに、電車が地上に顔を出すトンネルの坑口や、トンネルの内部にも備えがあります。坑口には防水壁や防水ゲートが置かれ、トンネル内の要所には断面をまるごと閉じる防水ゲートが設けられています。万が一の浸水時にも、被害が路線全体へ広がらないよう食い止める役割です。

 こうした対策が一段と強化されたきっかけが、大規模水害の想定でした。中央防災会議の専門調査会は2009年、200年に1度の洪水で東京都北区志茂付近の荒川堤防が決壊し、止水対策が当時と同程度だった場合、17路線97駅、約147kmが浸水するケースを公表しました。

 その後、東京メトロは同調査会の最終報告や東京都の洪水ハザードマップを踏まえ、想定浸水深に応じて水深6mの水圧に対応できる浸水防止機への更新を進めてきました。従来は2m対応です。出入口でも止水板のかさ上げや完全防水化を行い、必要に応じて建て替えています。

 ただし、これだけの備えがあっても絶対ではありません。東京メトロは、荒川の氾濫など甚大な水害への対策を引き続き進めるとしています。

 東京都下水道局は現在、区部全域で1時間75mmの降雨に対応することを目標に、浸水リスクの高い地区などを重点化して施設整備を進めています。下水道の処理能力を超える雨が短時間に集中すると、道路などに水があふれる内水氾濫が起こることがあります。

 実は麻布十番駅は、2004(平成16)年10月9日にも台風22号による古川の氾濫で3番出入口から雨水が流入し、南北線が一時、全線で運転を見合わせています。地下と水の攻防は、今も続いているのです。

 被害は東京だけの話ではありません。2000(平成12)年9月11日の東海豪雨では、名古屋市営地下鉄塩釜口駅で、高さ約50cmの止水板を水が越え、地下2階のホームまで流れ込みました。

 何気なく通っている駅の入口や歩道の換気口には、地下の乗客を守る“見えない砦”が張り巡らされています。それでも自然の力を完全に抑え込むのは難しく、備えは今も少しずつ強くされ続けているのです。