新幹線より990円安くて超快適! 近鉄特急の“最上級シート”知ってしまったらもう戻れない!? 「最高に仕事しやすい」vs「マジで何もしたくなくなる」

過去最高売上で注目のゲームとは

近鉄の看板特急「ひのとり」と「しまかぜ」。いずれもプレミアムな座席がウリですが、どちらが優れているでしょうか。

所要時間競争では勝てない…そこで!

 関西大手私鉄、近畿日本鉄道の最近の特急は、座席の豪華さで競い合っているかのようです。2020年にデビューした名阪特急80000系「ひのとり」の両端に付いているプレミアム車両と、2013年に登場した伊勢志摩方面の50000系「しまかぜ」のプレミアムシートがそれです。

 東海道・山陽新幹線に2026年10月1日導入される最上級の個室・半個室サービス「Supreme Class(スプリームクラス)」と違って仕切りはないものの、ともに座り心地では決して引けをとりません。

 それでは「ひのとり」のプレミアム車両と、「しまかぜ」のプレミアムシートではどちらの方が座り心地で勝るのでしょうか。筆者(大塚圭一郎:共同通信社経済部次長)は2026年7~8月に両方を乗り比べたところ、理由があって優劣をつけがたいと実感しました。

 近鉄特急の二枚看板の直接対決に言及する前に、まずは「ひのとり」と同じ区間を走る東海道新幹線とのスペックの違いを検証しましょう。「ひのとり」は近鉄名古屋―大阪難波間の移動に最短でも2時間5分かかり、名古屋―新大阪間を最短47分でつないでいる東海道新幹線「のぞみ」との所要時間競争ではとうてい歯が立ちません。

 その代わり、居住性で東海道新幹線のN700SやN700Aの普通車に勝る座席を、より安価に提供しています。「ひのとり」の開発責任者を務めた近鉄の深井滋雄取締役専務執行役員は、運行開始前の試乗会で筆者に対して「新幹線ほどの速達性を求めず、2時間をくつろいで過ごしたい利用客を是非増やしたい」との戦略を明かしていました。

 座席の前後間隔(シートピッチ)が130cmある「ひのとり」のプレミアム車両を利用する場合にかかる運賃と特別急行料金、特別車両料金の合計は5690円と、「のぞみ」普通車指定席の通常期(6680円)より990円安く設定。東海道新幹線の普通車指定席に近いものの、シートピッチが116cmと12cm上回る「ひのとり」のレギュラー車両ならば4990円と、1690円も節約できます。

 名阪特急は三大都市圏に含まれる中京圏と近畿圏を直結するため、ビジネス客も多く利用します。出張では所要時間で移動手段を決める利用者だけではなく、列車での移動中にパソコンなどを使って仕事をできるかどうかを重視する向きもあります。

 筆者も近畿圏から東京の自宅へ戻る途中で大阪難波から近鉄名古屋まで「ひのとり」のプレミアム車両を予約し、パソコンで作業をしながら過ごすことにしました。すると、豪華さばかりに目が行っていた座席に潜んでいるポテンシャルに気づきました。

個室以外では日本最上級の「仕事モード車両」

 大阪難波で「ひのとり」のプレミアム車両に乗り込み、ハイデッカー構造になった先頭部に向かうために4段のステップを上がって自動扉をくぐりました。すると、天井の間接照明が当たった茶色味を帯びたベージュ色の革張り座席が映えており、まるで観劇のためにVIP席に腰かけるような高揚感に包まれます。

 座席が革張りだったり、肘置きにある操作盤のボタンを押すだけで背もたれの角度を倒せたり、脚を置くことができるレッグレストを備えていたりするのは「しまかぜ」のプレミアムシートと同じです。座席の枕が可動式になっていることや、頭部の脇に付いた読書灯、日差しを避けるための窓のカーテン(ブラインド)を電動で上下できるのも共通です。

 一方、シートピッチの130cmは、「しまかぜ」より5cm広げています。「ひのとり」はレギュラー車両を含めた全座席の背もたれの後ろにバックシェルを付けているのも大きな売りで、「しまかぜ」は備えていません。

 バックシェルがあると背もたれをどんなに倒しても後ろの乗客に響かないため、後ろの乗客に気兼ねをしたり、声をかけたりして背もたれを倒す必要はありません。

 さらに、肘置きに収納している折りたたみ式のテーブルを広げ、載せたパソコンを使い始めると、出張者らにとっての大きな利点が見えてきました。

 それは通路を挟んで1列と2列の座席配置で、シートピッチも広いため、周りの席からはパソコンの画面が見えにくい状態で作業ができるのです。

 これに対して東海道新幹線の普通車はたいてい、通路を挟んで2列と3列の座席があります。隣の席に乗客がいる場合、どうしても画面が見えてしまう状況になりがちです。気兼ねなく仕事をしたい場合には、「ひのとり」のプレミアム車両の方が適しているのは火を見るよりも明らかです。

クッションは「硬い」 それは悪くはないのだが…

 ただ、「ひのとり」のプレミアム車両の座席に腰かけて実感したのは、「しまかぜ」のプレミアムシートに比べると硬いことです。ホールド感を重視した座席で、「しまかぜ」が鉄道車両として初めて設けた腰部のエアクッションを採用し、ソファのような軟らかい座り心地に仕上げているのとはかなり異なります。

 リラックス機能でも、「しまかぜ」に軍配が上がります。座席の操作盤には「リズム」と記されたボタンがあり、これを押すと腰部のエアクッションの空気を出し入れしてマッサージに似た体験ができます。「ひのとり」には「リズム」の機能はなく、付いているのは腰部を温めるシートヒーターです。

 しかしながら、両方の特急としての性格の違いを踏まえると、一長一短と一概には言えません。行楽客が利用する「しまかぜ」は快適にくつろげる座席のニーズが高いのに対し、名阪特急の「ひのとり」は出張者らのビジネス利用が柱の一つとなっているからです。

 筆者の場合は「しまかぜ」のプレミアムシートに身をゆだねると、快適な座り心地によって骨抜きにされ、そのまま何もしたくなくなる「沼」のような状態に陥りました。対照的に、「ひのとり」のプレミアム車両の座席はしっかりと支えてくれるので、移動中に仕事をする環境が整っていました。

 近鉄名古屋への沿線には様々な見所があるため、仕事の手を休めることもしばしばありました。伊賀神戸駅(三重県伊賀市)に停車していた伊賀鉄道の200系忍者列車に目を奪われたり、進んできた近鉄大阪線から名古屋線へ乗り入れる際の急カーブになった中川短絡線(中川デルタ線)で車窓を凝視したり、併走するJR関西本線を走るJR貨物のディーゼル機関車DF200形「エコパワーレッドベア」の貨物列車との“かけっこ”を観察したりといった具合です。

 このように「ひのとり」のプレミアム車両はビジネス利用者もどんとこいという堅実な座席なのに対し、「しまかぜ」のプレミアムシートは行楽客がくつろいで移動するのにうってつけのふかふかな座り心地だと言えます。それぞれの列車の性格を考慮に入れ、用途に合った乗り心地を提供している近鉄特急の緻密なデザインを再認識しました。