ボルボの新世代フラッグシップBEVとなる「EX90」と「ES90」を乗り比べます。共通のプラットフォームからなるSUVとセダンの2台は、どのような異なる世界観を持つのでしょうか。
SUVとセダン 2種の最高級モデルが登場
ボルボの新世代BEV(バッテリー式電気自動車)で、同社のフラッグシップモデルとなるSUV「EX90」と高級セダン「ES90」が、ついに日本へ上陸しました。2026年7月8日に日本同時発売となった両車は、ボディタイプこそ大きく異なるものの、車両プラットフォームをはじめさまざまな構成部品を共有しています。
では、この2モデルの味付けにはどのような違いがあるのでしょうか。公道で乗り比べをしながら分析していきます。
電動化を進めるボルボにとって、両車はそれぞれEX90が従来の「XC90」、ES90が「S90」のBEV版とも言えますが、ともにボルボの新世代技術がテンコ盛りのクルマとなっています。その核となるのが、新開発された車両プラットフォーム「SPA2アーキテクチャ」です。
この新プラットフォームはBEVモデル専用のもので、重たい大容量バッテリーを搭載しつつ高い走行性能を実現するため、足回りのアーム類といった各部の剛性アップなど、さまざまな強化が行われています。また、充電システムのキャパシティも将来の技術進化を見据え、現在のシステムで一般的な400V級の2倍となる、800V級の高電圧に対応。さらに車体側の設計もBEV用に最適化し、シャシー全体で電費性能の向上を図っています。
両車はハードウェアだけでなく、進化したソフトウェアも共有しています。それが次世代のコアコンピューターである「Hugin Core」です。これまで駆動システムや運転支援技術、バッテリー管理などは、車体の各所に搭載された100を超えるコンピューターによって制御されていました。しかし、これらのコンピューター群を1つにまとめた「Hugin Core」の搭載により、文字通りの“統合制御”が実現したのです。
「Hugin Core」の採用は、ボルボが本格的なSDV(ソフトウェア定義型車両)を市場投入したことを意味します。「Hugin Core」は今後登場する同社のBEVモデルにも採用される予定。「Hugin Core」を通じて、ほかのモデルで得た知見も踏まえたアップデートが施されていけば、最新技術を中長期的なスパンで享受し続けられるでしょう。
ちなみに日本市場への投入は同時となった両車ですが、このうちEX90はすでに欧米で販売・納車が2024年にスタートしています。一方、ES90は2025年末ごろよりグローバルでのデリバリーが始まったばかりのモデル。プラットフォームやコアコンピューターが共通のため、2台は「ボディ以外は同じ」クルマにも見えるかもしれませんが、後発となるES90のほうが細かなアップデートが進んでいると言えます。
大まかな方向性は似通っている
では実際に2台を乗り比べながら、それぞれに共通する特徴と異なる特徴を見ていきます。
まず、大まかなモデルの方向性は2台とも似通っています。どちらも「ドライビングを楽しむのではなく、快適でリラックスした移動体験を楽しむ」ためのクルマです。
2台とも車重が重たく、タイヤの扁平も薄いため、乗り心地には不利な条件ばかりが揃っていますが、乗員に不快なショックをまったく感じさせない優れたシャシー性能と高い静粛性を実現しており、素晴らしいコンフォート性能を有していました。
ただし、運転していて楽しいという気持ちは正直あまり感じませんでした。ステアリングインフォメーションは薄く、フロントタイヤと密にコミュニケーションが取れる雰囲気ではありません。ワインディングでは、速めのペースでも少ないロール感でサラッとコーナーリングをこなすので驚きましたが、あまりにもあっけなすぎて、情緒的な盛り上がりは感じ取れませんでした。
どちらも高出力なモーターを搭載し、ES90に至っては0-100km/h加速が4.0秒という俊足ぶりですが、「クルマとの対話を楽しむ」といったものは期待しない方がいいでしょう。
一方「快適な移動空間」としての両車の価値を、さらに昇華させているのがオーディオシステムです。オーディオシステムは英国の高級ブランド、Bowers & Wilkinsのもので、これには同じく英国の有名レコーディングスタジオである、アビー・ロード・スタジオと共同開発した「アビー・ロード・スタジオ・モード」が備わっています。
筆者(西川昇吾:モータージャーナリスト)はオーディオマニアでもありますが、これほどまでに奥行きを感じられるカーオーディオは初めてでした。「静かで快適な移動空間で音楽を楽しむ」というのが、ボルボの次世代フラッグシップBEVの求める世界観なのかもしれません。
「高級サルーン」としても優れるES90
大まかな方向性は似ていますが、乗り比べていくと、両車に若干のキャラクターの違いも感じ取れました。後発のES90のほうが製品として洗練されているというのもありますが、高級セダンとして設計されているだけに、快適性能でより優れているのはES90といった印象です。
それはリアシートに座るとハッキリと伝わってきます。EX90が3列シートSUVでES90は2列シートの5人乗りということが大きく影響していますが、ES90は足元がかなり広々としており、フロントシートがかなり遠く感じます。運転席よりも後部座席に乗りたいと思わせてくれたのは、圧倒的にES90でした。
ES90は従来的な高級セダンよりやや全高がハイトで、かつ車体後部にはハッチゲートを持ちます。ボルボはこの独特なボディ形状のES90を「フラグシップ・クロスオーバー」と表現していますが、サルーン的な性格もきちんと残されており、やはりショーファーカーの色が濃いとも思わされました。
ドライバーズカーとしての性格はあまりないEX90とES90ですが、とにかく「静かで快適な移動」ができる乗りものとして見れば、ともに優れた性能を持つクルマだと筆者は感じました。