現代戦では「電気」の確保が死活問題です。ドローンや電子機器の普及で軍隊はバッテリーに大きく依存。戦車が“電源車”の役割を担う可能性も検討されています。
最新装備マシマシで電力不足のジレンマ
「艦内にはほとんどコンセントがありません。バッテリーなど事前準備をお願いします」
海上自衛隊の艦艇の取材で、注意事項にあった一文です。カメラ、スマートフォン、ノートPCなど、現代の取材機材はすべて電力を必要とします。取材先で電源を確保できるかどうかは、かなり重要な問題です。
これは取材に限った話ではありません。スマートフォンのバッテリー残量を気にするのは、もはや習慣です。旅行で新幹線や高速バスに乗ると、無意識に電源ポートを探しています。災害時の避難情報には充電できる場所の案内は必須です。日常生活はバッテリーに依存して成立しているのです。
そして、軍隊も想像以上に「バッテリー依存症」です。現代戦では、弾薬や燃料だけでなく、「電気がなければ戦えない」という状況が生まれています。
戦争において補給が重要なのは、昔から変わりません。なかでも「石油の一滴は血の一滴」といわれたように、近代戦では燃料の確保が戦闘継続能力を左右し、国の戦略策定レベルまで基本中の基本になっています。
現場レベルではもっと深刻です。イラク戦争で燃費の悪いM1エイブラムス戦車を運用する戦車部隊の指揮官が一番頭を悩ませたのは、敵と戦うことではなく、いつどこで燃料を補給するかという問題でした。
ところが現代戦ではそこに「電気」が加わります。特にドローンが大量に使われる現代戦では、指揮官にとって重要なのは、何機のドローンを保有しているかだけではありません。必要なときに飛ばすためのバッテリーをどれだけ用意し、充電し、交換できるかが問題なのです。バッテリーを充電するには発電機が必要で、発電機を動かしているのは多くの場合燃料です。
作戦上は10機を飛ばしたくても、バッテリーが足りなければ、実際に飛ばせるのは5機かもしれません。飛ばすドローンの数が作戦要求ではなく、「用意できたバッテリー」に左右されるのです。
燃料も電気も前線の指揮官が要求した量がそのまま届くことはめったにありません。発電機がいくつ手元にあって、発電機用燃料がどのくらいあるのか。充電できるバッテリーはいくつあるのか。充電時間はどのくらいかかるのか。指揮官や補給担当者の悩みの種は増えています。「石油の一滴は血の一滴」なら、現代戦では「1Ah(アンペア時)も血の一滴」なのです。
装甲車は「戦場を走る充電スポット」に
現代の軍隊はコンピューター化、デジタル化が促進され、必要とする電力は増える一方です。アメリカ陸軍も戦場の「電力事情」をいかに改善するかを真剣に検討しています。
M1エイブラムス戦車やM2ブラッドレー歩兵戦闘車など、20世紀に設計された兵器は、近代化改修によって電子機器を次々と追加してきました。高性能なセンサーや通信機器、コンピューターなどを搭載すれば、当然ながら必要な電力も増えます。
しかし、車体が持つ発電能力や電力容量には限界があります。「装備を追加することはできても、それを動かす電気をどうするのか」という問題が生まれているのです。20世紀型のM1戦車やM2装甲車では、発電機やバッテリーを増設するのはもう限界に達しているとされます。戦場では外部から電力を安定的に供給してもらえるとは限りません。
問題は、戦車や装甲車だけではありません。歩兵も「コンピューター化」され、個人が携行する電子機器が増えています。しかし、人間が二本の脚で運べるバッテリーの量には限界があります。そこで装甲車の役割も変わろうとしています。
M2ブラッドレーのような歩兵戦闘車は、これまで歩兵を戦場まで運ぶプラットフォームでした。しかしコンピューター化された歩兵を運用するためには、「人を運ぶ」だけでなく、「電力を供給する」プラットフォームとしての役割も必要になっています。M1戦車の最新バージョンM1A3やM2の後継となるXM30装甲車には、電源車のように外部への電源供給能力も期待されています。
戦場で使われるエネルギーが石油から電力へ広がっていますが、バッテリーや発電機は石油よりもかさばります。液体燃料である石油は、依然として高いエネルギー密度を持つ最も効率的なエネルギー供給手段です。
だからアメリカ陸軍は、戦場で必要となるエネルギーをどのように蓄え、輸送し、配分するのかという問題そのものに取り組んでいます。新兵器だけでなく、それを動かし続けるためのエネルギー供給について、産業界にも協力を呼び掛けています。
戦車や歩兵がデジタル化されて高機能高性能となり、無人アセットが増えても、それを動かすエネルギーを前線まで届けられなければ戦闘力にはなりません。戦場にコンセントはありません。現代戦は「電源を確保するところ」から始まります。