えっ、これ風船!? 本物そっくりの偽兵器が展示会に出現 最新のデコイは通信まで偽装して相手をだます?

AI普及で需要拡大の機器とは?

欺瞞によく使われるものとして、空気で膨らませたインフレータブル(バルーン式)のデコイというものがありますが、いまや目覚ましい進化をみせています。

近くで見ても「HIMARS」そのもの…しかし!

 2022年2月に始まったウクライナ戦争では、巡航ミサイルや弾道ミサイル、自爆ドローンによる基地攻撃が日常的に行われています。そのため、航空機やミサイル発射機をいかに隠すかだけでなく、「偽物を並べて敵の攻撃を誘導する」という欺瞞(デセプション)の重要性も急速に高まっています。

 その欺瞞によく使われるものとして、空気で膨らませたインフレータブル(バルーン式)のデコイというものがありますが、いまや目覚ましい進化をみせています。日本においても、2024年以降に陸上自衛隊が少数のバルーンデコイを導入しています。また、2026年8月31日に公表された令和9年度概算要求にも、正式に「デコイ(おとり)の取得」が盛り込まれました。

 2026年6月にフランス・パリ近郊で開催された防衛装備展示会「ユーロサトリ」の会場では現在の最新バルーンデコイが展示されていました。

 それはアメリカ製のロケット・ミサイル発射装置である「HIMARS(ハイマース)」の形を模していました。HIMARSといえば、ウクライナ戦争でロシア軍の弾薬庫や司令部を精密攻撃したことで世界的に知られるようになりましたが、その外見は遠目では本物と見間違う外見ですが、近づいて触ってみると空気で膨らんだダミーであることが分かります。

 このバルーンデコイを展示していたのはアメリカのI2K Defenseという会社になります。同社は戦車や装甲車、航空機、ミサイル発射機など、さまざまな兵器を実物大で再現する軍用デコイ(囮)を開発しています。しかも、現代の軍用デコイは、見た目だけを真似た単なる巨大な風船ではありません。

 同社によると、この軍用デコイは外観だけでなく、赤外線センサーや合成開口レーダー(SAR)、レーダー反射断面積(RCS)まで本物に近い特徴を再現しています。各種ISR(情報・監視・偵察)システムから見ても、本物と見分けることは容易ではないといいます。
 さらに特徴的なのが、RF(無線周波数)機能です。

特殊な機器を追加することで、車両や戦術作戦指揮所(TOC)が発する通信電波まで模擬できます。敵の電子偵察装置には、実際に部隊が通信しているように映るため、攻撃目標だけでなく、部隊が活動しているように見せかけることも可能になります。

衛星やドローンだけでなく、電波情報を収集する電子戦能力まで欺瞞できることから、同社はこれを「フルシグネチャーマネジメント」と説明していました。

航空機も約1000万円で製作可能

 I2K Defenseでは航空機や戦車、装甲車など世界各国の装備を製作しており、筆者が「航空自衛隊のF-2戦闘機のような独自仕様の機体でも対応できるのか」と尋ねると、「もちろん可能です」と即答しました。

 設計には約14営業日、試作機は60~90日程度で完成するとのこと。価格は車両タイプが約3万4000ドル(約500万円)、航空機タイプでも約8万~10万ドル(約1200万~1500万円)程度で、決して安くはありませんが、本物の兵器とは比較にならないほど低価格です。

 担当者は「世界中のあらゆる航空機を製作できます」と自信を見せていました。

 敵の精密攻撃能力が飛躍的に向上した現在、本物を守るために「あえて偽物を並べる」という発想は、もはや特殊なものではありません。高価なミサイルを安価なデコイへ誘導できれば、防御側は極めて有利なコスト交換を実現できます。

空気で膨らませた「風船」が、数十億円もする兵器を守る――。そんな一見奇妙な発想が、いまや現代戦では現実的な防衛手段として重要性を増しています。