なぜ自衛隊は“民生車”で、フランス軍は専用設計なのか? 同じ軍用バギーでも違う考え方とは

好業績迎える日本の尖った業界

近年、世界各国の軍隊ではATV(四輪バギー)やUTV(サイド・バイ・サイド・ビークル)と呼ばれる小型オフロード車の採用が相次いでいますが、そのなかでもフランス軍は専用設計の車両を使うことで有名です。

近年の軍隊で採用が相次ぐ軍用バギーなかでも異彩を放つ存在

 近年、世界各国の軍隊ではATV(四輪バギー)やUTV(サイド・バイ・サイド・ビークル)と呼ばれる小型オフロード車の採用が相次いでいます。

 装甲車ほどの防御力はありませんが、高い機動力を生かして兵員や補給物資、各種装備を迅速に運搬できることから、空挺部隊や特殊部隊を中心に重要な装備となっています。

 そうした車両の中でもかなり特徴的となっているのが、2026年6月下旬にフランス・パリ近郊で開催された防衛装備展示会「ユーロサトリ」で公開された、フランスの車両メーカーUNACの軍用ATV「Fardier(ファルディエ)」(フランス語で荷車や荷運び車という意味)です。

 全長2.6m、全幅1.6mの4輪駆動車で、2名の乗員が乗り込み、約900kgの貨物を積載することができます。また、後部には牽引機構が装備され、400kgの貨物を積載できるトレーラーや、牽引式の迫撃砲を引っ張ることも可能です。さらに助手席と車体上部のフレーム部分には機関銃を設置できるマウントが付けられており、車両に乗った状態からの射撃も可能です。

フランス陸軍では空挺部隊や特殊部隊向けに約300両が発注され、空挺降下後の機動力向上を目的に配備が進められています。コンパクトな車体ながら高い走破性と積載能力を備え、輸送機からの空中投下やヘリコプターによる空輸にも対応します。

 実は、軍用バギーには、ポラリスMRZRのように民生用車両の系譜を持つ車両も多く、既存プラットフォームを軍用化する方式が広く採られています。日本でも陸上自衛隊は、カワサキ製の民生UTVをベースとした「汎用軽機動車」を採用し運用しています。

 民生車ベースは市販車として十分な信頼性があり、調達価格や維持整備コストを抑えやすく、部品の確保もしやすいというメリットがあります。そのため、既存の車両に必要な軍用装備を追加するという考え方は、多くの軍隊にとって合理的な選択肢となっています。

 しかし、UNACの担当者は開口一番、「これは民生車を改造したものではありません」と強調しました。世界の主流が民生車ベースであるなか、なぜフランス軍は、あえて専用設計という道を選んだのでしょうか。

空挺部隊の要求から生まれた「軍専用設計」

 その理由は、「RIDER」という名称にあります。RIDERとは「Rapid Intervention Droppable Equipment for Raiders」の略で、日本語にすると「急襲部隊向け空中投下装備」を意味します。つまり、この車両は最初から空挺部隊や特殊部隊が運用することを前提に開発された軍用システムなのです。

 空挺部隊用の車両には、輸送機からの空中投下やヘリコプターでの空輸に対応できる重量や重心設計、車体強度が求められます。また、武器や弾薬、補給物資を搭載したまま悪路を走破できる積載性能や機動力も必要です。こうした要求を満たそうとすると、市販車を後から軍用化するよりも、専用設計が最も効率的な選択だったと考えられます。

 実際、UNACの担当者は取材で「Army ask. We build.(軍が要求し、我々がそれを造る)」と繰り返しました。この言葉どおり、同社は既存車両を軍向けに改造するのではなく、軍が求める性能を起点に車両そのものを設計しています。その結果として生まれたのがFardierであり、専用設計という選択だったのです。

 こうして開発された専用車台は、そのまま無人車両にも発展しています。UNACはファルディエと車台や駆動系を共通化したUGV(無人地上車両)も開発しており、武器搭載型や物資輸送型、地雷処理型などへ容易に発展させることができます。有人・無人の両方へ展開しやすい点は、最初から軍専用プラットフォームとして設計したからこそ利点です。

 もちろん、自衛隊が民生車ベースを採用したことも合理的な判断があってのものです。

 実績ある市販車を利用すれば調達コストや維持整備の負担を抑えられます。一方でフランス軍は、空挺部隊が求める性能を優先し、その要求を満たすために専用設計という選択をしました。

 これはどちらが優れているという話ではありません。既存の優れた民生車を活用する日本と、必要な性能から車両そのものを設計するフランス。同じ軍用バギーという装備でも、その開発思想はここまで異なっていたのです。