記録的な猛暑が続くと、鉄道は「レール温度の上昇」で止まることがあります。じつは暑さで線路そのものが曲がることもあるのです。鉄道会社はどんな手で夏を乗り切っているのでしょうか。
線路が「暑さで曲がる」って本当? 25mのレールが伸びる量は
気象庁が2026年8月に発表した資料によると、7月中旬と下旬の西日本の平均気温は、統計を開始した1946年以降でもっとも高い記録となりました。
そんな酷暑のなか、レール温度の上昇による徐行や運転見合わせが起きています。そこで鉄道会社では、冬に使う設備を線路の冷却に活用するなどして、暑さ対策を行っていました。
そもそも、線路のレールは鉄でできているため、暑い日には伸び、寒い日には縮みます。
日本民営鉄道協会の鉄道用語事典では、レールの温度が10度のときに25mだったものが40度になると、9mm近く伸びる計算になると紹介されています。実際にはまくらぎに固定されているため、これほど自由には伸びません。
問題は、伸びたくても伸びられないレールの内部に、強い力がたまっていくことです。この力が大きくなると、条件によってはレールが横方向へ曲がる「張り出し」(軌道座屈)が起こるおそれがあります。
2026年7月23日には、JR東海の在来線で初めて、レール温度の上昇が原因となる運転見合わせが起きました。高山線と飯田線の一部区間でレール温度が基準値を超え、上下線とも1時間半あまり運転を見合わせたと、中日新聞が7月23日に報じています。
では、こうした事態を防ぐため、鉄道会社はどんな手を打っているのでしょうか。
「規制値」を超えたら徐行や運休 冬の装置を夏に動かす会社も
鉄道会社ではレール温度を管理し、温度の上昇に応じて徐行や運転見合わせを行う場合があります。規制の内容は、会社や線区によって異なります。
鉄道総合技術研究所によると、一般的なレールの設計上の上限温度は60度とされています。気温が40度前後でも、日射を受けるレールは気温以上に熱くなることがあるのです。
運休や遅れをできるだけ減らすため、各社はさまざまな暑さ対策を打っています。なかでもユニークなのが、本来は冬に使う散水式の消雪設備を夏にも活用する方法です。
雪の多い地域には、レールやポイント(分岐器)へ散水して雪を消す設備があります。その散水を、夏はレール冷却に使う例があるのです。
富山地方鉄道では2025年7月28日、富山市内の交差点でレールが変形し、市内電車の一部区間で約7時間運転を見合わせました。この日の富山市の最高気温は36.4度だったと、地元TV局が翌日、報じています。
また別の局では、融雪装置でレールに水をかける対策を鉄軌道線の全線で実施したと、報じていました。
こうした散水による冷却は、富山地方鉄道だけの例ではありません。JR東日本グループの技術情報サイトでも、消雪ノズルの用途としてポイントの消雪などと並んで「猛暑のレール冷却」が挙げられています。冬の相棒を夏にも働かせる、いわば”二刀流”の使い方です。
散水のほかに、レールそのものを熱くしにくくする工夫もあります。
「白いレール」も登場 世界が挑む猛暑との闘い
そのひとつが、レールに特殊な塗料を塗る方法です。建設会社のNIPPOは、太陽光に含まれる熱を反射する「遮熱塗料」をレールの側面に塗る工法を実用化しています。
同社の技術者が専門誌で報告した実際の線路での試験では、7〜10度ほどレール温度を下げる効果が確認されたとしています。屋根や道路で使われてきた暑さ対策を、レールに応用したものです。
なお、同じ考え方は海外にもあり、イギリスで鉄道インフラを管理するネットワーク・レイルは、レールを白く塗る対策を続けています。同社によると、直射日光を浴びたレールは外気温より最大20度高くなることがあり、白く塗ったレールはそうでないものより通常5〜10度低くなるといいます。
レール温度の上昇による徐行や運転見合わせは利用者には不便ですが、その裏には、張り出しなどによる事故を未然に防ぐという安全上の理由があります。
冬に使う散水式の消雪設備を夏の冷却にも活用し、レールには遮熱塗料を塗る。季節をまたいで知恵をめぐらせる鉄道の”暑さとの闘い”は、これからますます存在感を増していきそうです。