四国新幹線も東九州新幹線も“きっと揉める” 北陸新幹線も蒸し返した「軋轢を生む仕組み」を紐解く 今までどうルート決めてきたの?

食料品消費税1% 飲食業影響は?

北陸新幹線の敦賀以西のルートが、一応の決着を見ました。ずっと以前に決まっていたはずなのに蒸し返され、なぜここまで揉めるのでしょうか。「揉めやすい構造」をひも解くと、「誰のため」という疑問にも突き当たります。

なぜ決まらない? 整備新幹線の「三層のルール」

 北陸新幹線の敦賀~新大阪間のルートをめぐって2026年7月15日、与党整備委員会が「小浜・京都ルート」の京都市内をJR桂川駅経由とする「桂川案」で合意しました。ただし着工の最終決定ではなく、「今後、着工5条件の充足を図るルート」という位置づけです。京都市側の懸念解消などが、なお課題として残ります。

 この北陸新幹線は「どこを通るか」が、何度も蒸し返されてきました。なぜこうも揉めるのでしょうか。

 高速鉄道のルート選定では、速達性だけでなく、沿線・中間都市の需要と収益性、ネットワークとしての効果、建設費、環境・社会的影響などを総合的に評価します。1972年に国が最初に北陸新幹線を構想した段階では、敦賀以西の具体的な経由地は定まっていませんでした。

 これに対し「米原ルート」は敦賀から米原駅で東海道新幹線に接続でき、建設距離を最小化できる案で有力視されていましたが、強い働きかけで1973年、全幹法に基づく整備計画に福井県小浜市経由が追加されました。そして半世紀後に再び米原ルートが提起されたのです。

 整備新幹線には、三層のルールがあります。

 第一に、新幹線整備の骨格を定める全国新幹線鉄道整備法(全幹法)があり、改正には国会審議と議決が要るため簡単には変わりません。

 第二に、建設費を国と地元の負担比率(国3分の2、地方3分の1)は、法律ではなく政令で定められています。政令は内閣が決めるだけで成立し、国会決議は不要です。法律より軽く、変更のハードルも低い規範です。

 第三に、どのルートにするか、いつ着工するかという最も実質的な判断は、法定手続きだけでルートが自動的に決まるわけではなく、政府・与党の合意が政治判断として大きな役割を果たしてきました。今回の桂川案も、この政治的合意です。法律ではないので、政権や与党の顔ぶれが変われば、決着したはずの話でも覆る可能性があります。

 整備新幹線は、政府・与党の合意によって着工順位や財源スキームが大きく左右され、凍結・再開も政治判断によって動いてきたのです。着工5条件(安定的な財源見通しの確保、収支採算性、投資効果、JRの同意、並行在来線の経営分離についての沿線自治体の同意)は法律に記載されておらず、この政治的合意になります。

「軋轢を生む仕組み」を維持しながら作られてきた新幹線

 1970年に全幹法が施行された当初は、整備新幹線建設を路線によって国鉄や日本鉄道建設公団(現:鉄道・運輸機構)が整備する仕組みでした。1973年に整備5線(北海道・東北・北陸・九州・西九州新幹線)の計画が決定されますが、石油ショックと狂乱物価で頓挫し、1982年に整備計画は凍結、1987年には国鉄が多額の債務を抱え解体されます。

 この教訓から「第二の国鉄は作らない」という原則が生まれ、1989年には旧財源スキームが決まり、日本鉄道建設公団が建設・施設保有して、JRは受益の範囲内で貸付料を支払う仕組みへと移っていきます。法律の枠組みを維持しながら、政治的合意で機動的にコントロールし、実績を積み上げてきたのです。

 都道府県の負担も今は全幹法により固められ、「新幹線がその土地を通るか」だけで生じ、便益の大小は考慮されません。これが軋轢を生んでいます。

 米原ルートが通る滋賀県は、既に東海道新幹線と北陸本線で京阪神・北陸の双方にアクセスできます。仮に北陸新幹線が通っても時間短縮などの便益はわずかですが、建設費や並行在来線の扱いなど、新たな負担が生じる恐れがあります。

 同じ問題は、京都ルートにも潜みます。小浜から京都市内(桂川)までは人口の希薄な山地をトンネルで抜けます。沿線の利用見込みは薄く、恩恵は新駅周辺に限られます。滋賀にせよ京都にせよ、分岐点に近い区間ほど負担に比べ便益が少なく見えやすい構造になります。

 西九州新幹線も同じ構造で、佐賀県が着工に慎重なのも、既存の特急の速達性に加え、巨額の県負担や在来線の利便性低下などに比べ、便益が十分大きいとは考えていないためです

 もう一つの障壁が運行です。東海道新幹線は1時間最大17本という過密ダイヤで運行されており、JR東海は米原ルートとなった場合の直通運転について「乗り入れる余地がない」「信号システムが異なる」ために到底困難としています。

もはや「日本のための新幹線」とも言い切れない構造

 さらに厄介なのが、法律の建てつけです。

 全幹法第1条は、新幹線整備を「国民経済の発展及び地域の振興」という国民全体への広い便益で正当化しています。ところがこの目的を根拠に負担を課す第13条・施行令第8条は、「新幹線鉄道の存する都道府県」というだけで負担額を機械的に決め、その自治体が実際に国民経済の発展にどれだけ資するかは一切確認しません。負担を強制する根拠と、負担額を決める基準がつながっていないのです。

 しかも、この仕組みで生まれる利益の受け皿であるJRは、1987年の分割民営時には国が全株式を持つ組織でしたが、その後の上場で株主は外国人にも広がり、JR九州の外国人持株比率はかつて最大約4割に上りました(2026年3月は約26%)。法律の目的規定は書き換えられていませんが、実際の利益の受け皿は変化しているのです。

 国土交通省は2026年8月、半世紀以上動きのなかった新たな整備新幹線について「四国新幹線」と「東九州新幹線」を調査対象に選び、事業者の公募を始めました。ルートや駅が具体化する段階になれば、「誰が負担し、誰が得るのか」が問われるでしょう。

 新幹線の議論は、「法律の話か、政令の話か、政治家の申し合わせか」、そして「誰が主語か」を分けて見ると、対立の構造が違って見えてくるはずです。