昇降格のなかった明治安田J1百年構想リーグを経て、8月7日に開幕する2026/27シーズンで真価を問われるチームの一つが、2018年以来のJ1に挑むV・ファーレン長崎だ。
昨シーズンのJ2リーグで2位に入り、自動昇格が決定。J1百年構想リーグWESTでは10チーム中9位。最終順位は17位だった。同じくJ1に昇格したジェフユナイテッド千葉が20位、水戸ホーリーホックが18位となり、長崎は昇格組の中では最も高い順位となったが、それが今季のJ1残留を保証してくれるわけではない。
「今の長崎は波が大きくて、本当にいい時はいいけど、良くない時は難しい状況に陥りがち。勝てない時期に何をするかというのが、すごく大事になってくると思います。そこでズルズル下に行ってしまうと、降格するような状況になってしまう。そうならないようにやっていきたいです」と語気を強めたのが、18年という長いプロキャリアを誇る35歳MF山口蛍である。
ヴィッセル神戸から長崎に赴いてから1年半。確かにチームは前進している。昨年6月に就任した高木琢也監督もプレシーズンの沖縄キャンプで細かい部分を徹底。より攻守両面で安定感のある戦いができるように仕向けている様子だ。それをピッチ上の指揮官としてチームメートに伝えていくのが山口の大きなタスク。しかしながら「自分だけがリーダーシップを示しているだけでは足りない」という思いも少なからずあるようだ。
「若手に対しては、だいぶアプローチはしていると思うので(笑)。神戸の時を振り返っても、最初はおとなしかったけど(酒井)高徳やサコ(大迫勇也)が集まって『同じ価値観を持ったグループは強いな』と感じました。長崎に来てからずっとそういうグループになるように取り組んできました。もちろんもう少し時間がかかるとは思いますけど、自分が周りに気を使いすぎると、自分のことが疎かになってしまう。降格もある中で、チームのことも考えなければいけないけど、もっと自分にわがままになってもいいのかなと最近思っているので、そうしていきたいですね」と山口はフォア・ザ・チームの精神を貫きつつも、一人のプレーヤーとしての自分自身をブラッシュアップさせていく覚悟だ。
というのも、やはり「1年半ぶりのJ1で本気の戦いをするには、今のままでは足りない」という気持ちが強いからだろう。これまでセレッソ大阪、神戸、長崎で過ごし、ハノーファーや日本代表でも戦った経験を誇る山口だが、周りの環境やレベルにパフォーマンスが左右されるケースも確かにあった。最たる例が2014年だ。同年のFIFAワールドカップ ブラジル大会に参戦するなど、日本代表ではいい働きを見せていたが、C大阪では苦境に直面。J2降格を強いられている。そういった悔しさも味わったからこそ「自分自身がもう一段階飛躍して、長崎のチームメートの基準を引き上げたい」と考えているはずだ。
今季はもっともっと積極的にシュートを放ち、チームを勝たせるゴールを奪ってほしい。C大阪時代の2013年、神戸時代の2020年の6得点というのがキャリアハイの得点数だが、10月に36歳になるこのシーズンにそれを超えることができれば、本人も納得できるだろうし、長崎も残留に近づく。その方向に持っていければ理想的だ。
「今の長崎はいいものを持っている選手がたくさんいると思います。でも、個の力だけで局面を打開するのは、別格のマテウス(・ジェズス)以外は難しい。みんなが持つ個をうまく生かせるように、グループとしてまとまってやっていくことが、今の長崎にはすごく大事なんです。少しレベルは違いますけど、ワールドカップでスペインがフランスに勝った試合を見て、よりそう思いました。フランスには個のクオリティを持つタレントが数多くいたのに、スペインを相手に完全に封じ込められた。あのフランスがなぜシュートも全然打てないような状況になるのかを考えた時、やっぱり個とチーム組織の両方が大事だなと。そうなるように努力していきたいですね」と山口は元W杯戦士らしい視点で語気を強めた。
今季はベルギーからJリーグに復帰した大南拓磨、同じくベルギーでのプレー経験がある保田堅心らも加入。山口が示す“高度な世界基準の重要性”を痛感している仲間も増えた。それは大ベテランにとっての追い風だろう。いずれにしても長崎がJ1残留・定着という大目標を果たそうと思うなら、背番号5が躍動し続けなければ難しい。
まずは9日の京都サンガF.C.戦から一気にギアを上げていくしかないのだ。「京都は監督がポポさん(ランコ・ポポヴィッチ監督)に代わったので、どういうサッカーをしてくるか分からないところがあります。ポポさんはセレッソの時に指導を受けましたけど、直近の鹿島でも成績は悪くなかったので、いいチームを作ってくる印象があります。京都もそうでしょうけど、強度が高くて走れないとJ1では勝てない。そこはしっかりやっていきたいと思います」。
こう語気を強め、12年前に師事した指揮官への恩返しを誓った山口蛍。彼がいぶし銀の働きを見せ、長崎、そしてJリーグ全体を大いに盛り上げてくれるのを楽しみに待ちたい。
取材・文=元川悦子
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