南米ペルーで日系3世の右派ケイコ・フジモリ氏(51)が大統領に就任した。強いリーダーシップを発揮した一方、「独裁者」とも非難された父親の故アルベルト・フジモリ元大統領のイメージを長女ケイコ氏に重ねる人も多く、大統領選は薄氷の勝利。早くも短命政権を予想する声も上がるが、首都リマ近郊にある「ケイコ地区」の住民は、特別な思いを持って門出を見詰めている。
◇「ケイコ地区」
首都リマ中心部から約30キロ。ベンタニリャ北部の砂漠地帯には、丘の斜面に張り付くように簡素な家屋が並んでいる。その一角にあるのが「ケイコ地区」。住民は低所得者が多く、板とトタンで組まれただけの家も目立つ。
地区のリーダー、ヘラシオ・マイラさん(58)によると、一帯はもともと何もない砂山だった。より良い仕事を求め、地方からリマに出てきた人たちが住宅不足などにより郊外に追いやられ、1994年ごろからこの場所を不法占拠するようになった。最初の住民は50人程度で、水道も電気もない過酷な環境だったという。
「入植」から30年以上が経過し、現在は約1250世帯、6000人が暮らしている。住宅地は拡張を続け、隣には「ケイコ地区2」もできた。家屋の建て替えも進み、新築の2階建てコンクリート住宅も。マイラさんは、発展を誇らしく思う一方、地区内でインフラ格差が広がっていることに懸念を抱いている。
◇貧しい人のための政治を
マイラさんによると、アルベルト氏がこの地区を訪れたのは、再選を目指す選挙戦のさなかの95年だった。当時「ファーストレディー」を務めていたケイコ氏を帯同させ、家屋が建っている未利用地の所有権を住民に認めると約束。フジモリ親子への感謝の気持ちを込めて、住民は集落名を「ケイコ・ソフィア・フジモリ地区」と定めた。
翌96年、アルベルト氏は、一定の条件を満たせば不法占拠地の所有権を住民に移す法律を成立させた。ケイコ地区の住民は、公的に地権者と認められることとなった。
「安心して暮らせるようになっただけではない。土地を担保にお金を借り、子供の教育資金を工面することができた」とマイラさん。その後「元大統領の直接命令」で、地区には上下水道が引かれたほか、運動場も整備されたという。
13歳の娘と暮らすルシア・カルデナさん(45)は「元大統領のおかげでこの地区はすごく良くなった。だから、ここに住んでいる人たちの大半はケイコの支持者」と説明。妹のテレッサさん(43)は「元大統領は地方の子供や、貧しい人のために政治をした。ケイコも父親のような政治を」と期待を寄せる。
◇知ってもらいたい
住民たちの今の願いは、ケイコ氏に大統領としていま一度地区を訪問してもらうことだ。道路の舗装やガス管の整備、斜面の補強など、力を借りたい課題は山ほどある。
マイラさんは「ここに来て、私たちがどういう生活をしているか改めて知ってもらいたい。まだ必要なものがたくさんある」と力を込める。就任演説で掲げた「全ての国民のための政治」を本当に実現できるか、ケイコ氏の手腕が問われる。
〔写真説明〕「ケイコ地区」付近に掲示された大統領選ポスター。フジモリ親子が写っている=7月30日、リマ近郊
〔写真説明〕「ケイコ地区」のリーダー、ヘラシオ・マイラさん=7月30日、リマ近郊
〔写真説明〕「ケイコ地区」にある自宅の前に立つルシア・カルデナさん=7月30日、リマ近郊