ホンダの新型BEV「スーパーワン」は、軽の「N-ONE e:」をベースとしながら、白ナンバー車として作られた異色の小型スポーツカーです。購入補助金の高額さも話題となりましたが、走りの面ではどのような実力を持っているのでしょうか。
軽の枠を“あえて”超えたワケ
ホンダが2026年5月に発売した小型BEV(バッテリー式電気自動車)の「スーパーワン」は、国や地方自治体などからの補助金の後押しもあり、受注台数が6月上旬時点で1.1万台を突破するなど好調な滑り出しを見せています。“ホットハッチ”という呼称がピッタリな走りの楽しさと個性を持つ話題のモデルですが、見た目はもちろん、乗り味の面ではどのような魅力を持っているのでしょうか。公道での試乗を通じて検証していきます。
スーパーワンは「e: Dash BOOSTER」をコンセプトに、操る喜びを五感で体感できるBEVとして開発されました。ベースとなったのは軽乗用タイプのBEV「N-ONE e:」ですが、そのメカニズムはハードウェア・ソフトウェアの両面で、大きく変更を受けています。
まず見た目でわかりやすいのがボディサイズのアップです。寸法は全長3580mm、全幅1575mm、全高1615mmと、N-ONE e:に対して全長で185mm、全幅が100mm、全高は70mm大きくなっています。また、主に全幅の拡大に伴ってトレッドも50mm拡げられています。
このサイズ変更からもわかる通り、スーパーワンは軽自動車よりも大きな、いわゆる“白ナンバー”のモデルです。「なぜ、軽自動車であるというメリットを手放したのか。商品としての競争力が弱くなってしまうのでは?」と疑問に思う人もいるかもしれません。
しかしホンダによると、スーパーワンは初めから軽規格をオーバーすることを前提としたクルマではなかったといいます。
本モデルはN-ONE e:をベースとした試作車をいくつか作り、この小型BEVのプラットフォームをどのような方向性で活かすか、模索していく過程で企画されたとのこと。テストを進めていくなかで、このプラットフォームが「走りの楽しさ」でも高いポテンシャルを持っているのに気づいたのが、企画のキッカケだったそうです。
そしてプラットフォームの素性の良さを引き出す仕様を検討した結果、スーパーワンは必然的に軽規格より大きなサイズになりました。発売直後、補助金の額の高さでも大きな話題を集めましたが、当然これは狙ったワケではありません。どちらかと言えば、開発陣の作りたいものを軽EVベースで作ったら、高額な補助金という予想外の恩恵も受けたというのがより正確でしょう。
クルマとしての基本性能が高い!
次に、スーパーワンのメカニズムを解説していきます。ハードウェア面ではシャシー関係の変更が特に大きく、専用セッティングのサスペンションや強化されたリアアクスル、高剛性のハブなどが採用されています。また、専用デザインのホイールには185/55R15のタイヤが組み合わされ、インチアップとワイド化が図られています。
反対にパワーユニットは、バッテリーもモーターもN-ONE e:と同じもの。変更はソフトウェア制御のみに留まっていますが、最高出力はN-ONE:eの47kWに対し、スーパーワンは「BOOST」モードを選択した際に、軽の自主規制値を超える70kWを発揮するようになっています。また、変速システムには新型「プレリュード」で初採用された「S+shift」のように、仮想の7段変速が味わえるようにもなっています。
実際に試乗してみての第一印象は「スポーツカー的な乗り味が濃い!」でした。ステアリングはシャープかつクイックに反応し、サスペンションも突き上げ感をやや抑えつつ、強めの減衰力で引き締められているのがわかりました。スポーツカーが好きな人ならば、一般公道を普通に走るだけでも非日常的で“ファン”な乗り味が実感できるでしょう。
ワインディングロードを楽しみながら、走行モードを「SPORT」モードへ変更します。このモードになると出力はそのままで、仮想の変速と疑似的なエンジンサウンドを楽しめるようになります。まるでマニュアル式のトランスミッションを積んでいるかのような演出はさすがです。シフトアップ時のフィーリングの完成度もさることながら、シフトダウン時にエンジンブレーキが効くような制御も自然に再現されています。
このSPORTモードでも充分楽しいですが、極めつけは最高出力を発揮する「BOOST」モードでしょう。程よくパワーが上乗せされるので、「やっぱりこっちの方が楽しさでは上」と思わせてくれます。
一方で、BOOSTモードは出力の最大値が解放されるだけなので、アクセルの踏み方にさえ気をつけていれば、航続距離が減らないのもポイントです。エンジンサウンドも大きくなるため、普段から「常時BOOSTモード」もアリだと感じました。
しかし、ワインディングでの試乗を通じて、筆者(西川昇吾:モータージャーナリスト)が最も魅力的に感じたのはクルマの軽さです。1090kgという車重はBEVとしてはトップレベルで軽く、基本性能である「走る・曲がる・止まる」の高レベル化に寄与しています。スーパーワンの楽しさ、気持ちよさはドライブモードの制御ではなく、この軽さが基礎なのだと思いました。
ひとつだけ惜しいなと感じたのは、疑似エンジンサウンドの音質。スーパーワンの室内に響いたのは大排気量エンジンのようなサウンドでしたが、ホンダの小型スポーツカーとなると、個人的には自然吸気のVTECエンジンのようなサウンドが望ましいという考えです。これは採用されているサウンドプロセッサーというハードウェアの問題で、ソフトウェアの書き換えによる変更が難しいとのことですが、オプションでいいので、違うサウンドも楽しめたらより面白いなと思いました。
近年は国産メーカーからも多くのBEVが販売されていますが、日本製BEVのなかでも、スーパーワンほど個性の際立ったモデルもなかなか思い当たりません。愛される要素を充分持ったクルマだからこそ、各々のユーザーに合わせてカスタマイズしたくなる1台でもあります。エンジンサウンドも含め、カスタマイズ方向でのオプションやアップデートがこれから充実していくことに期待したいです。