川崎汽船は2026年6月13日、エジプト・カイロ向けの地下鉄車両(近畿車輛製)を大型自動車船に積み込む作業を公開しました。緊迫する中東情勢を受け「喜望峰ルート」で運ばれる巨大プロジェクトの舞台裏を取材しました。
神戸・六甲アイランドで自動車船に電車を積み込む
邦船大手の川崎汽船は2026年6月13日、神戸港六甲アイランド(神戸市)でエジプト・カイロ向けの地下鉄車両を、自動車船「OCEANUS HIGHWAY(オーケアノス・ハイウェイ)」へ積み込む様子を報公開しました。
同社は自動車船を使用した大型・重量(High & Heavy)貨物の海上輸送に大きな強みを持っており、より大きく重い貨物を取り扱うための設備投資を進めていく計画です。現場で説明にあたっていたROROマーケティングチームの田中大輔チーム長は、「大型・重量貨物は裾野が非常に広く、成長余地がまだまだある」と述べ、同分野に対する期待感を強調していました。
川崎汽船が輸送を担っているのは、近畿車輛が製造したカイロ地下鉄4号線向けの鉄道車両です。カイロ地下鉄4号線は総事業費4000億円をかけたビッグプロジェクト。現在、第1期整備事業としてカイロ中心部から大カイロ都市圏の南西部に位置するピラミッド地区のあいだで工事が進められており、完成すれば16駅、約19kmの新路線が誕生します。部分開業は2028年中ごろ、全線完工は2030年3月を予定しており、将来的にはカイロ東側のニューカイロ、さらには建設中の新行政首都まで延伸する構想もあります。
三菱商事マシナリ・インフラプロジェクト本部の梅原賢一副本部長は「大エジプト博物館の前やピラミッドの前を通っており、観光にも非常に貢献する路線として期待されている」と建設の意義を強調します。
ピラミッドを結ぶ「カイロ地下鉄」の全貌
カイロ地下鉄4号線は、JICA(国際協力機構)の円借款事業による支援で建設が進められており、同路線に投入する車両184両を三菱商事と近畿車輛がエジプト運輸省トンネル公団(NAT)から受注していました。
「車両の契約金額は400億円。8両1編成で走る車両を23編成導入することになっている。また三菱商事は線路や電力、信号設備、通信設備、自動改札、車両基地などをターンキーとして契約するパッケージがあり、これを約900億円で請け負っている」(梅原副本部長)
大型・重量貨物の輸送に対応する川崎汽船の自動車船は、このカイロ地下鉄4号線向け車両を最大16両積載することができます。すでに、今年(2026年)3月には第1編成が神戸港で船積みされ、エジプト・アレクサンドリア港に向けて出港しています。
今回、神戸港に寄港して地下鉄車両を積み込んだのは、6900台積みの自動車船「OCEANUS HIGHWAY」です。総トン数7万5259総トン、全長199.95m、幅38mで、GHG(温室効果ガス)の排出を抑えるためLNG(液化天然ガス)を燃料として使用する新鋭船です。従来船と比べてメインデッキを大型化するとともに、ランプウェイの角度を緩やかにし、強度もアップすることで大型・重量貨物の積載に対応しているのが特徴です。
近畿車輛を出場して神戸港の六甲アイランドまで陸上輸送された地下鉄車両は、クレーンで62フィート(約18.9m)サイズのロールトレーラー(マフィートレーラー)に据え付けられます。
ロールトレーラーは、自走できない重量物や長尺物を輸送するために使われる台車で、上に地下鉄車両がしっかりと固定された後、特殊な牽引車両「タグマスター」によって船尾のランプウェイを通じて船内へと積み込まれていました。
紅海を迂回し、喜望峰を経由する長旅へ
「準備作業の時間が最もかかる」と川崎汽船関西支店の岡本龍太副支店長は話します。また「車両をトレーラーに乗せる作業にはいろいろ確認する点が多いため、メーカーも一緒に来て結合などもしている。8両でほぼ1日かかる」とも述べていました。
「OCEANUS HIGHWAY」は神戸港を出港すると、広島港やシンガポール港などに寄港。アフリカ大陸最南端の喜望峰を回ってジブラルタル海峡から地中海へと入り、東進したのちアレクサンドリア港で地下鉄車両を降ろします。短絡ルートであるスエズ運河を通らないのは現在、フーシ派の武力攻撃に伴って、紅海とアデン湾を結ぶバブ・エル・マンデブ海峡が通航できないためです。
「日本から喜望峰経由でアレクサンドリアまでだと、だいたい2か月ぐらいかかります。スエズ運河を通ることはかなりのリスク。当社と日本郵船、商船三井の大手3社は通らないようにしている」(岡本副支店長)
川崎汽船の自動車船事業は2026年3月期の売上高で約37%を占めており、単体のセグメントとしては最大です。同社の中期経営計画では、自動車船事業について成長を牽引する事業の1つとして位置づけており、なかでも大型・重量貨物の拡大・多角化を具体的な施策として設定しています。
今後は、より重い、より長い荷物を積める荷役機器の開発や、保有する自動車船を約6000台積みから今の最大船型である7000台超えのものに置き換えていくことで、輸送品質の担保が重要な大型・重量貨物の分野で顧客のニーズを取り込んでいく計画です。
田中チーム長は「今回のカイロ地下鉄プロジェクトも、JICAが支援するODA案件であり、三菱商事や近畿車輛と共に一丸となって取り組むプロジェクトだ。日本の産業の国際競争力を下支えするようなところを担っていきたい」と話していました。
【動画で見る】長~い鉄道車両を自動車運搬船にバックで積み込みます!