アメリカ空軍では、機体を押したり引いたりして移動させるトーイングトラクターを無人化させるプランが試みられています。
地味だけど重要…航空機を押すクルマにも変化
実は地上で戦闘機や輸送機などの航空機は細かい動きをとることができません。そのため運用に欠かせない存在があります。機体を押したり引いたりして移動させるトーイングトラクターです。アメリカ空軍では、ここ最近その役割の一部をロボット化された新しい装備へ置き換える動きが進みつつあります。
アメリカ空軍州兵・予備役の試験評価機関であるANG AFRC テスト・センター(AATC)は2026年、TowFLEXX製「TF-5 エアクラフト・ポジショナー」と呼ばれる電動航空機移動システムの評価を完了し、第162戦闘航空団へ3台を納入したと発表しました。
TF-5は全長2.6m、高さ50cmと小さく、従来のトーイングトラクターのようにドライバーが乗る運転席はなく、低床でキャスター付きの台車のようにも見える独特な外観をしています。
航空機のノーズギア(前脚)を保持して機体を移動させることができ、最大牽引能力は約60トンもあるため、これまでの試験でF-16の様な単座機から、F-22といった双発ステルス戦闘機まで幅広い機種を牽引しています。
操作端末を使った無線操作ですが、従来のトーイングトラクターと比べて細かな位置調整がしやすく、効率的な機体移動が可能です。また、バッテリー内蔵の電動式のため、格納庫内といった屋内での使用にも利点があります。
アメリカ空軍ではTF-5のような航空機移動システムを数年前より各地の基地で試験しており、メーカーによると同社製システムは米軍や海外ユーザーを含め150台以上が導入済みだそうです。
なぜ導入? 背景にある「戦闘機を支える装備」の変化
では、なぜ空軍は航空機を動かす機材を無人化しようとしているのでしょうか?
従来型のトーイングトラクターは大型エンジンや牽引バーを必要とし、格納庫内では切り返しや人員確保が必要になる場面もあり、排気ガスも悩みの種でした。一方TF-5は電動式で排気ガスを出さず、細かな位置調整も可能とされています。
ただ、単純な効率化を目指したものではありません。AATCは航空機の移動能力そのものを運用能力の一部と捉えています。機体を短時間で正確に移動させることができれば、格納庫内の収容効率向上や整備時間短縮につながり、結果として出撃可能な機数や展開速度にも影響します。
さらに、このような地上機材更新の背景として考えられるのが、近年アメリカ空軍が重視しているACE(迅速な戦闘展開)構想です。
巡航ミサイルや弾道ミサイル、さらに各種ドローンの普及によって、有事においては大規模な航空基地そのものが攻撃対象となる可能性が高まっています。このためアメリカ空軍は、有事には戦力を複数拠点へ分散し、小規模基地や民間空港なども活用しながら航空機を運用する考え方を進めています。その場合、整備機材や地上支援装備も空輸などによって前方展開する必要があり、従来型の大型トーイングトラクターは輸送や展開の負担になり得ます。一方で、小型・電動で少人数運用が可能なTF-5のような装備は、小型で輸送もしやすいため、新しい運用思想とも相性が良い可能性があります。
現時点でTF-5や同種の電動航空機移動システムは、アメリカ空軍全体の標準装備として正式採用されたわけではありません。一方で今回評価を行ったAATCは、新技術や新装備を試験し、現場への導入までつなげる役割を担う組織です。すでに実運用部隊への納入や整備員教育も始まっており、今後の評価結果次第では、こうした装備の導入が他部隊へ広がっていく可能性もあります。
戦闘機だけでなく、それを支える地上装備もまた、新しい戦い方に合わせて変わり始めているのかもしれません。