環境問題に配慮した新たなエンジンや技術が評価された2010年代に、ヤマハ・XSR900はあえて「古き良きイメージ」として登場し、ファンを魅了しました。今夏には新型モデルの発売も控えています。
レトロではなく、むしろロードスポーツモデルとして誕生
ヤマハが2026年6月30日、155ccバイクの新モデル「XSR155」を日本で発売します。原付二種のXSR125が持つ手軽さや扱いやすさはそのままに、高速道路の走行も可能な軽二輪クラスのモデルだとして、すでに大きな話題になっています。
XSRシリーズで最初に登場したのは、2016年のXSR900です。2010年代中盤はバイク、クルマとも世界的な環境問題への配慮から未来に向けた新たなエンジンに注目が集まり、EV、スマート技術、ハイブリッドなどが高く評価された時代です。
多くの乗りものの外観が未来に向けたデザインを採用した時代に、XSR900は古き良き正統的なバイクのイメージを堂々と打ち出したネイキッドモデルで、旧車ファンからも高評価を受けた1台でした。
XSR900のパッと見た印象は「レトロな感じ」です。しかし、ヤマハの開発者は「レトロにアジャストしたわけではない」といいます。その言葉通り、外観こそオーセンティックな印象を強く受けますが、実は古くから続くヤマハのロードスポーツモデルの系譜を汲んだコンセプトのようです。
「XS」は1970年以降のヤマハのロードモデルに冠されたもので、「R」はレースを意味します。つまり「XSR」とは、昔ながらのトコトコのんびり走るバイクを目指したわけではなく、むしろ高いパフォーマンスを実現させるために開発されたことが伝わってきます。
実際、XSR900のベースとなったのは、同社のストリートファイターモデル「MT-09」でした。つまり外見こそ古き良きバイクのイメージですが、その中身は最新技術がふんだんに取り入れられていて、そんじょそこらのロードレーサーには出せないパフォーマンスも十分な1台だったというわけです。
結果的に、XSR900は高評価を受け、初代発売の翌年の2017年にはXSR700 ABSをリリースします。また、2019年にはアジア向けにXSR155を、2021年にはフランス向けにXSR125を発売しました。そして、2023年には日本国内仕様でもXSR125 ABSが登場し、高排気量ユーザーだけでなくあらゆるユーザーに「XSRの魅力」を提案するに至りました。
原付二種のCSR125 ABSは発売開始からすぐに大ヒットに
特にユーザーが多い原付二種モデルのXSR125 ABSは、発売開始からなんと1000台オーバーのバックオーダーを受けるなど、当初ヤマハが掲げた「年間計画販売台数3000台」を上回る売れ行きとなりました。
2025年には「日本バイクオブザイヤー2025」の大賞に輝き、今なおその熱い注目が衰えない事態となっています。
XSRシリーズが高評価な理由を考えてみると、まず前述のような「元々のコンセプト」にブレがないことが挙げられます。ベースモデルのポテンシャルの高さと、細部までこだわり抜いて完成させたXSRの作りが、現行の他車より抜きん出た魅力となっているのでしょう。そして、実は同クラスに類車がなく、独自の魅力を放っている点も高評価につながっているのではないかと思います。
また高いポテンシャルの一方で、本モデルの「レトロな外観」も冒頭で触れたように旧車ファンをも魅了することになりました。ここはヤマハの緻密な計算があったようにも思いますが、「なかなかあざとく、しかしかなりレベルの高い1台」というのが筆者のXSRシリーズに対する印象です。
ところで、大ヒット中のXSR125 ABSの原付二種クラスでは、ご存知の通り、ホンダではここ数年ハンターカブ、ダックス、モンキーといったアイコニックモデルがヒットし続けています。
これらは1970年代初頭に国内外でヒットしたホンダを象徴するレジャーバイクがルーツですが、この流れに対してヤマハはXSR125 ABSという硬派なロードモデルで市場に勝負した格好になります。遊ぶためのバイク vs. 硬派なロードモデル……これはまさしく「1970年代前半の両社の構図」に似ているように感じるのは筆者(松田義人、ライター・編集者)だけでしょうか。
ともあれ、バイクファンは筆者も含めて「思い出補正」もあって「昔のバイクは良かったなぁ」と思いがちですが、「今のバイク」も実はかなり面白いことをXSRシリーズが示してくれています。そして、XR155登場後、今のバイクの魅力と楽しさがさらに広まっていく予感もします。