整備新幹線の貸付料をめぐり、国と、運行を担うJR各社の間で、開業31年目以降の考え方について見解が分かれています。「できるだけ多く払ってほしい」国と、「安くしてほしい」JR側、それぞれの言い分を見ていきます。
貸付料はどう決まる?
整備新幹線の31年目以降の貸付料をめぐって、国とJRが交通政策審議会の「今後の整備新幹線の貸付のあり方に関する小委員会」で激しい議論を続けています。「できるだけお金を取りたい国」と「できるだけお金を払いたくないJR」はどのような主張をしているのでしょうか。
まずは前提となる仕組みから確認しましょう。整備新幹線とは、1973(昭和48)年に全国新幹線鉄道整備法の整備計画が決定した5路線約1500kmを指します。東北、上越新幹線の次に建設する予定でしたが、国鉄の経営悪化を受け1982(昭和57)年に凍結されました。
国鉄分割民営化を控えた1987(昭和62)年1月に凍結は解除されますが、民営化したばかりのJRに収益性の低い新幹線を建設する体力も義理もありません。収益性の低い「政治路線」を無理に押し付ければ、国鉄の二の舞です。そこで整備新幹線は国と地方の税金を投入した公共事業として建設することになります。
整備新幹線は、鉄道・運輸機構が整備主体として建設し、JRが営業主体として運行する「上下分離方式」です。税金を使って建設した以上、JRは整備新幹線で儲けることは許されません。同時に「第二の国鉄を作らない」ためには、JRが損をすることがあってもいけません。
受益は「新幹線を整備した場合(With)」と「しない場合(Without)」の利益の差です。受益は「開業区間」「関連線区(新幹線・在来線)」「並行在来線」それぞれの収入と費用の変動を計算しますが、新幹線開業による利益増と、並行在来線分離による損失減がほとんどを占めます。貸付料は開業後30年間の受益を平均した数値の範囲内で設定します。
国の主張は大きく3点
整備新幹線の整備スキームは非常に複雑なので詳しい経緯は省きますが、現状では各線区の貸付料690億5千万円、公共事業費として国が約800億円、地方が約400億円、合計約1900億円が整備新幹線の財源です。今後も北海道新幹線新函館北斗~札幌間、北陸新幹線敦賀~新大阪間、西九州新幹線新鳥栖~武雄温泉間に多額の費用がかかります。
最初に開業した北陸新幹線(長野新幹線)高崎~長野間の貸付料は年間175億円で、全体の4分の1を占める「稼ぎ頭」です。2027年で30年目を迎えますが、31年目以降の貸付料の取り扱いはまだ何も決まっていません。そこで設置されたのが、冒頭に記した小委員会です。
国が「できるだけお金を取りたい」のは、整備新幹線に充当する予算を確保したいからです。もう一つはJRに追加負担を求めることで国費の支出を抑制したいという財務省の立場もあります。31年目以降も収入を確保するだけでなく、より多い額を取りたいと考えています。
国の主張は大きく次の3点です。第1に「整備財源としての貸付料の長期的かつ安定的な確保」、第2に「適正な受益の把握と貸付料への反映」、第3は大規模改修など「将来的な課題への備え」です。
国とJRで一致しているのは、30年が経過して「開業しなかった場合」という比較対象が成り立たないため、31年目以降は現行のWith/Without方式の算定は困難との認識です。国は不動産賃料の考え方を参考とした算定方法にすべき、JR側は施設の状態に見合った維持管理等に要する費用をベースとした算定方法にすべき、と主張しています。
JR側は今後、施設の老朽化に伴う日常的な維持管理費や更新工事費(老朽取替)の増加、自然災害発生リスクへの追加対応費用の増加で受益が減少するため、貸付料は下がるはずと主張します。一方、整備新幹線は工法を改良しており、今後30年は既設線と同様の大規模改修は必要ないというのが国の立場です。
国は現在の貸付料は不当に安いと考えています。例えば、北陸新幹線高崎~金沢間の利用実績は貸付料算定の根拠となる需要予測から2~6割上回っており、これを含めれば追加で年176億円を得られたとしています。
過去の「合意文書」も論点に
接続利益(新たな線区が開業することによって既存線区に追加的に生じる収益)の扱いも見解が分かれます。現状では営業主体の営業エリアのみが関連線区として受益算定の対象ですが、2社にまたがる北陸新幹線、東北新幹線と北海道新幹線は延伸開業が既存線区に大きな影響を与えます。
JR東日本は北陸新幹線長野~金沢間延伸開業、北海道新幹線新青森~新函館北斗間開業にあたり、「自社エリアに隣接する区間」として例外的に貸付料の増額を受け入れましたが、経営コントロールが及ばない他社区間には貸付料は発生しないとの立場です。
つまり「他社エリアの新幹線」である敦賀~新大阪間、新函館北斗~札幌間が開業してもJR東日本の貸付料は一定です。しかし、実際には同社区間の旅客流動は根底から変わるでしょう。もし全線同時開業だったら新大阪、札幌まで「隣接する区間」として認めたでしょうか。整備方法によって変わってしまうのだとしたら違和感があります。
大きな争点が整備新幹線の駅で展開する不動産、ホテル、商業店舗など関連事業の収益の扱いです。国はこれも受益に算定すべきと主張します。しかしJR側からすれば、公共事業の整備新幹線とは異なり、関連事業は自己資金で行った投資です。後から貸付料の対象とするのは、民間企業の投資判断を覆すものであり、乱暴な議論です。何もしない方が得になってしまったら駅は発展しないでしょう。
話をさらにややこしくするのは、JR東日本が1991(平成3)年に当時の運輸省と交わした「合意文書」の存在です。「現行制度の受益に基づく貸付料支払いは開業後30年間で終了すること」「31年目以降の取扱いは施設の状態に見合った維持管理等に要する費用を根拠とすること」など、JR側の主張に沿った内容で合意しているのです。国の主張は正式に交わされた行政契約を反故にするものです。
とはいえ、考えなければならない問題もあります。例えば30年定額の貸付料は、物価安定・低金利の過去30年間は問題になりませんでしたが、今後のインフレ・高金利時代においては、定額では目減りしていきます。物価に連動した貸付料の変化はあってしかるべきでしょう。整備新幹線から得られる「投資の果実」は、公共事業である以上、国民に正当に還元されるべきというのは筋論であり正論です。
国交省・財務省は国民の代表として、JRは民営企業として株主と利用者のため、それぞれに通すべき筋があります。しかし、議論にも筋があります。これまでの合意を根底から覆してしまっては、まとまるものもまとまりません。タイムリミットが迫る中、どのように着地するのか、できるのか、今後の動きに注目です。