北朝鮮などの極超音速兵器に対抗すべく、日米で共同開発が進む新型迎撃ミサイル「GPI」。その開発を担う米防衛大手企業の日本トップが、日本企業との協業における“文化の違い”や連携の実際について語りました。
三菱重工だけじゃない! 日本企業と連携深める米防衛大手企業
日本を取り巻く安全保障環境は、年々その厳しさを増しています。とくに、北朝鮮や中国が開発および実戦配備を進める「極超音速滑空兵器(HGV)」は、従来の弾道ミサイル防衛(BMD)システムでは対応が難しいとされ、対処が急がれる喫緊の課題と言えます。
そのHGVに対処するため、2023年に日米共同開発が決定されたのが新型の迎撃ミサイル、「滑空段階迎撃体(GPI)」です。開発企業を決めるコンペが行われ、アメリカの大手防衛関連企業であるノースロップ・グラマン社の設計コンセプト案が採用。2026年現在、日本からは三菱重工が、アメリカからはノースロップ・グラマン社が、それぞれの担当箇所に関する開発に携わっています。
筆者(稲葉義泰:軍事ライター)は、現在まさにGPIプロジェクトを日本とともに進めているノースロップ・グラマン社の日本支社で代表を務めるリサ・ブラウン氏に、日本企業との協業などについてインタビューしました。
まず、ノースロップ・グラマン社は現在、GPIプログラムでタッグを組む三菱重工のみならず、その他多くの日本企業とも協業を進めているといいます。
「私たちは日本で多くのプログラムを抱えています。すでに受注し、日本企業とともに順調に実行しているものもあれば、まだ開発段階にあり、契約段階に至っていないものもあります。
まず、GPIに関しては日米両政府間の共同開発プログラムであり、とても順調に進行しています。三菱重工は素晴らしいパートナーです。一方で、三菱電機との間では弊社製の防空戦闘指揮システムである『統合戦闘指揮システム(IBCS)』に関する協業のための覚書(MOU)を締結しています。こちらはまだビジネス開発の段階であり、正式な契約には至っていません。
IBCSは、『あらゆるセンサー』と『あらゆる迎撃手段』を連接し、一体的な防空戦闘を可能とするものです。我々としては、日本がIBCSを採用してくださることを期待しています。これは、日本が現在防空システムの中枢として運用している『自動警戒管制システム(JADGE)』と連携し、それを強化するものです。今後数か月から1年の間に何らかの決定が下されるであろうことを心待ちにしています。
また、昨年12月にはIHIともMOUを締結しました。これは、(ミサイルやロケットの推進剤として用いられる)固体ロケットモーターに関して、お互いの生産能力を補完しあう共同生産や、共同開発などを行うためのものです」
中小企業との連携も 米国流「大企業と小企業の付き合い方」とは
こうした大手企業との協業に加え、ノースロップ・グラマン社では日本の中小企業やスタートアップ企業とも連携強化を模索していると、ブラウン氏は説明します。
「弊社の東京オフィスには、日本の中小企業やスタートアップ企業に関するリサーチを行う担当者がいます。これは、我々にとって優れたパートナーとなりうる企業を見極めるためのものです。現在、このリサーチ対象企業リストには約40社がリストアップされています。
我々は実際にそれらの企業を訪問して面談を行い、彼らの能力や考え方、手掛けているプロジェクトなどを調査し、技術の共同開発や製品の採用などを含め、弊社のビジネスとうまく結びつけられないかを模索しています。これまでのところ、5~6社ほど有望な企業を見つけています。
こうした取り組みは、私が日本支社に着任した2024年に日本側の高官と議論をした際、中小企業やスタートアップ企業も潜在的なパートナーとして視野に入れるよう促されたことからスタートしたものです」
さらに、アメリカでは中小企業やスタートアップ企業と大企業との協業が制度的に奨励されており、ノースロップ・グラマン社もそうした協業形態にノウハウがあるとブラウン氏は言います。
「アメリカでは、多くの大規模な契約において『契約全体の10~30%ほどを中小企業に発注しなければならない』という要件が課されています。そのため、私たちはそうした協業に慣れているのです。
たとえばミサイルの開発であれ、あるいはソフトウェアの開発であれ、こうした非常に大規模なプロジェクトを勝ち取るためには、その要件を満たすために日常的に外部の小さな企業と協力していく必要があります。
彼らは大企業でないからこそ、動きが迅速である場合もあります。小さな会社と協力することは多くの場合、我々にとって一種の戦略的優位性をもたらします」
また、ブラウン氏によるとアメリカでは大企業が中小企業などを支援するプログラムも存在しており、それが日本においても有用なのではないか指摘します。
「アメリカでは、一部の機関において『メンター・プロテジェ(指導・育成)』プログラムが導入されています。これは、大企業が小さな企業にノウハウを教えることでインセンティブを得られる仕組みです。日本にはそうしたプログラムはまだ存在しないと思いますが、決して悪いアイデアではないと思います」
まるで「走るクルマのタイヤ交換」 日米ビジネス文化の壁を乗り越えるカギとは
このように、大小さまざまな日本企業との協業を進めるノースロップ・グラマン社ですが、ときに日米の考え方の違いなどが顕在化することもあるとか。ブラウン氏は、日米両政府間の「契約に関する認識」の違いを例にこう説明します。
「米国政府は、契約内容を変更することに慣れています。彼らはスケジュールを変更し、我々に対して費用や期間、人的リソースなどに変化が生じるかを尋ねてきます。また、中国や北朝鮮の脅威が当初の契約締結時とは異なる方向へ進化していると判断すれば、技術的な要求事項を変更することもあります。
日本企業が米国政府の契約に参加する際、こうした契約のあり方に少し驚かれることがあります。日本企業は『契約書は作成され、合意も得られたのだからこの内容は維持されるべきだ』と考えます。しかし、米国側は『いや、変更しますよ。クルマが道路を走っている最中にタイヤを交換するようなものです』と言うわけです。さらに『ただし、クルマを走らせ続け、予算を超過させないようにするのは契約業者である御社の役目ですよ』というスタンスを取ります。
つまり、あるプロジェクトに参画した場合、『どれほどの変更が必要とされるか』についての前提のレベルが、日米間では異なるのだと思います」
その上で、まさにそうした日米間の認識の差異が一見すると問題となり得るGPIプログラムを例にとり、信頼関係と対話がそうした差異を乗り越えるカギになると、ブラウン氏は言います。
「GPIの素晴らしいところは、我々と三菱重工がお互いを信頼しあっていて、長年にわたる良好な関係を築いている点にあります。だからこそ、我々はお互いに『これは上手くいかないかもしれない』とか『あなたの政府の言っているここが分からない』といったようにストレートな対話を行うことができるのです。我々はいわば、お互いの政府の意図を説明する翻訳者になっているのです」
日本政府は、防衛産業をある種の成長産業へと押し上げることを意図し、今後は海外への防衛装備品輸出を強く推進する方針です。しかし、輸出先国政府の契約に関する考え方や商習慣が、必ずしも日本と全く同じというわけではないでしょう。ノースロップ・グラマン社は、まさにそうした認識の差異を埋めるための仲介役を、GPIプログラムにおいて担っていると言えます。
【動画で見る】独占取材! ノースロップ・グラマン日本法人トップが語る「日米共同開発と防衛戦略」