走行中のバスの屋根を見てみると、そこに数字や文字が描かれた車両をたまに見かけます。どういう理由で描かれているのでしょうか。
上空に対して示す“安全のサイン”
日夜人々の交通の足として使われている路線バス、実はその屋根には変わった特徴が存在します。事業者によりますが、屋根の上に文字や数字といったものが描かれているのです。
大阪シティバスなどの路線バスは、そういった装飾を持つ代表例です。屋根には事業者名を示すアルファベットや車両番号などが、大きく描かれていることがあります。
こうした屋根上の表記は、緊急車両で使われる「対空表示」に近い考え方です。消防車や救急車などの屋根には「対空表示」と呼ばれる表記があります。これは災害現場などで、上空のヘリコプターやドローンなどから車両を確認する際に、所属や車両の種類をわかりやすくするものです。
京都府警では「警ら用無線自動車等への車両識別標識の表示について」として屋根上の表示が定められています。これは車両の屋根に番号や記号を表記するルールであり、警察用航空機と地上の警察車両との連携を効率的にする目的があります。
つまり、消防車や救急車などで広く使われてきた仕組みを、一般のバスにも応用した例といえるでしょう。ですが、緊急車両でもない路線バスに、なぜこういった表示が必要なのでしょうか。
テロ対策を軸とした“識別の工夫”
バス専門誌の記事では、屋根に文字を入れている事業者の代表例として、大阪シティバスが挙げられています。同記事では、大阪シティバスの資料に屋根の文字が「テロ対策」として明記されているとしています。
運行中の路線バスが万が一、事件や事故、テロといった非常事態に巻き込まれたとします。捜索のために空からヘリコプターが駆けつけても、車両に書かれた小さな営業所名や車両番号を読み取ることは非常に困難です。
そこで逆転の発想として、スペースのある屋根に大きな文字を描いておきます。そうすると、上空から「どの事業者の、どの車両か」を確認しやすくなります。警察や消防などが現場で対応するときにも、空から車両を識別することが容易になります。大規模な事故や災害の現場では、地上の状況を上空から把握する活動は欠かせません。そういったシチュエーションに、こうした表示が役立つ想定がされています。
ですが、すべてのバスの屋根にこういった表示があるわけではありません。バス全体としては文字のない屋根のほうが多く、表示の有無は事業者の判断に任されています。緊急車両のようにルールで必須と定められてはいないためです。あくまでも、テロ対策や災害時の支援を強く意識する事業者が、独自に採り入れている工夫といえるでしょう。
大阪シティバス以外にも、屋根に文字や番号を描くバス事業者はあります。ただしこちらも、表示の内容は事業者によって異なります。事業者名と車両番号を組み合わせたものや、車両番号のみのもの。路線の愛称やロゴに近いものなど、ひねりを加えたものも含めて多種多様です。
街の路線バスに描かれた、地上からは見えない文字や記号。そこには、いざという時の安全を確保する工夫が施されています。