なぜ日本に「消防飛行機」はないのか? 相次ぐ山林火災、ヘリでの対応は限界なのでは… 課題あるが再検討すべき理由

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近年、岩手県で平成以降最大規模の山林火災が相次ぎ、自衛隊ヘリによる空中消火の限界も浮き彫りになっています。被害の甚大化を防ぐため、飛行艇など「消防用固定翼機」導入の可能性や課題について解説します。

近年相次ぐ大規模な山林火災

 世界だけでなく日本でも近年、大規模な山林火災が頻発しています。今年(2026年)4月22日に発生し5月29日に鎮火の宣言があった岩手県大槌町の山林火災では約1633ヘクタールを焼失し、平成以降、国内で2番目の焼失面積となりました。

 こうした山林火災が起きると、自治体の消防・防災ヘリコプターに加え、地方自治体の首長からの災害派遣要請を受け、自衛隊のヘリコプターが空中消火に参加しています。

 今回の大槌町の山林火災では、4月23日の空中消火を開始してから5月2日の災害派遣撤収要請までの間、陸上自衛隊第9飛行隊(八戸)のUH-1多用途ヘリと第1ヘリコプター団(木更津)のCH-47輸送ヘリ、航空自衛隊三沢ヘリコプター空輸隊のCH-47輸送ヘリが最大時には9機態勢で空中消火を行い、延べ859回、約3818tを散水しました。

 このほか、第9飛行隊のUH-1が空中統制や上空偵察、陸上自衛隊東北方面航空隊(霞目)のUH-1が映像伝送などで支援に当たっています。

 また、平成以降で国内最大となる約3370ヘクタールの焼失面積となった昨年(2025年)2月の大船渡市の山林火災においても、陸上自衛隊第9飛行隊のUH-1と第1ヘリコプター団のCH-47、航空自衛隊入間ヘリコプター空輸隊のCH-47が最大時11機態勢で、延べ1296回、約6480tを散水しています。

ヘリコプターの空中消火で十分か?

 このように全国で相次ぐ山林火災に対してヘリコプターによる空中消火活動が行われていますが、昨年2月の大船渡市の山林火災では、住民1人が死亡し、約90棟の建物に被害が出ました。

 山林火災では空中だけでなく地上からの消火活動も重要ですが、消防車両が火元付近まで近づけないほか、急斜面では消防隊員がタンクを背負って消火にあたるなど、市街地の火災に比べ鎮火までに時間がかかります。一方、空中消火では、ヘリコプターは飛行速度が遅いため、風がない時に大量に散水すると、水が塊となって落ちることから、下に集落や活動中の消防隊員がいると散水できないといった制約があります。

 こうした欠点を考えると、ヘリコプターより速く、より多くの水を搭載可能な「消防用固定翼機」を空中消火活動に使ったら、という考えが出てきます。では、アメリカやカナダ、地中海沿岸諸国などで実績のある消防用固定翼機が、なぜ日本ではこれまで使われてこなかったのでしょうか。

 その理由として挙げられているのが、山が急峻で谷が深い地形や、集落が山に近い、火災現場が狭い、といった日本の山林火災特有の制約です。このような環境下では、固定翼機が得意とする「面での大量散水」より「ピンポイントでの散水」が適しており、ゆえにヘリコプターが多用されてきました。

 また、ヘリコプターと違い固定翼機には滑走路が必要ですが、日本の地方空港には大量の給水を短時間で行える施設がないなど、消防用固定翼機の活動拠点として用いるのに不十分な面も挙げられます。さらに、夜間の運用制限がある空港では、24時間態勢での対応が困難という課題もあります。

最適な消防用固定翼機は?

 こうした制約から、日本では消防用固定翼機が使われてきませんでした。しかし、最近の山林火災を見ると、人家まで延焼する前に、まずは消防用固定翼機を投入し短時間で大量の散水によって火勢を弱めるべきと、筆者(小林春彦:月刊『軍事研究』記者)は考えます。

 では、どのような機種が最適なのかを考えると、CH-47の空中消火用バケットの約7.6tを上回る搭載量や、海や湖から一度に大量の水を取水できる特長から、まずは新明和工業が長年にわたり研究してきた消防飛行艇が候補として挙げられるでしょう。

 同社は、海上自衛隊のPS-1哨戒飛行艇1号機を改造し、貯水タンク、取水口と放水扉を取り付け、1976年と1978年に空中消火実験を実施した結果、開発可能という結論に達しました。その後継であるUS-2についても消防飛行艇として転用可能か社内研究を行っており、現在は約15tの水を搭載できると結論付けられています。加えて、ロシアのベリエフBe-200ESのようなターボファンエンジンの消防飛行艇と違い、US-2は約90km/hという極低速で飛行できるため、ヘリコプターに近い、かなりピンポイントな散水も可能です。

 ただし、消防飛行艇の実現にあたっては、改造開発費から運用・維持費、さらには消防庁か防衛省・自衛隊か、あるいは新たな組織が運用するのかといった諸問題が障害となり、今日に至っています。

 こうした課題を解消できるメドが立たない現状では、日本に消防専用機が定着するのは困難です。そこで次善の選択肢として、ロッキード・マーチンC-130やエアバスA400Mのように、機体の改造なしに空中消火システムを搭載可能なターボプロップ戦術輸送機を使い、必要に応じて空中消火活動に活用することが考えられます。

 4月から国会では、防災対策の司令塔機能を担う「防災庁」設置法案が審議されています。このタイミングを捉えて、被害が甚大化する傾向にある山林火災に備え、固定翼消防機の導入を再び検討しても良いのかもしれません。