砲弾より安い!? あり得ないコスパの英国産「超音速ミサイル」日本に猛アピール 横にも縦にもめっちゃ飛ぶ!? 島嶼防衛の切り札かも

約50年ぶり 小売業に迫る大改革

ウクライナ戦争で再評価される「砲兵火力」。しかし日本には、広大な海と島々という特有の地理的事情があります。陸上自衛隊が持つ火砲の射程不足を解決するかもしれない、イギリス生まれのユニークな兵器が登場しました。

ウクライナで再認識された“火砲のチカラ” 日本の事情は?

 2022年2月に始まったウクライナ戦争は、開戦からすでに4年以上が経過しているものの、終結の見通しは未だ見えてきません。戦場において、ウクライナ軍を支えているのは各種火砲による火力支援、つまり砲兵火力です。

 公開情報に基づく分析によると、ウクライナ軍は1日あたり2000発から7000発の各種砲弾を発射しているとみられています。陣地に突撃してくる敵部隊の阻止や、逆に反撃を行う際の敵陣地の制圧といった局面において、砲兵部隊の支援は非常に重要です。

対するロシア軍も、1日あたり1万発から1万5000発の砲弾を発射していると分析されており、ウクライナ軍とロシア軍の双方にとって、砲兵部隊は無くてはならない存在といえます。

 こうしたウクライナにおける戦訓を踏まえ、ヨーロッパ各国では砲兵部隊に関する再評価が急速に進んでいます。

 たとえば、NATO(北大西洋条約機構)およびEU(ヨーロッパ連合)加盟国は砲弾の生産量増加を急ピッチで進めているほか、ドイツやイギリスでは砲弾に加えりゅう弾砲の製造規模を拡大するなど、防衛産業の強化という文脈で集中的な投資が行われています。またウクライナと隣接するポーランドも、韓国から約200門のK9自走りゅう弾砲導入しており、各国で砲兵部隊の規模と質、さらに砲弾の生産能力拡大が進められているのです。

 一方で、日本でも同様に砲兵戦力の重要性が再評価されつつあるものの、現在直面している安全保障環境の違いから、ヨーロッパ各国と比較した場合に温度差があることは否めません。

 ヨーロッパの場合、最大の脅威となるロシアとは陸続きです。つまり、主戦場は広大な陸上地帯ということになります。対して日本の場合、最大の脅威とみられる中国とは東シナ海を隔てて対峙しており、有事の際には南西諸島への着上陸侵攻が懸念されています。つまり、主戦場は広大な海とそこに浮かぶ島々ということになります。

隣の島まで弾が届きません!

 現在、陸上自衛隊では、155mmりゅう弾砲FH70、99式自走155mmりゅう弾砲、19式装輪自走155mmりゅう弾砲という3種類のりゅう弾砲を運用しており、それらの射程は通常砲弾を使用した場合で約30km、射程延伸弾で約40kmとされています。

 南西諸島に含まれる島のうち、石垣島や宮古島のような一定の面積を有する島であれば、島内に陣地を構築してりゅう弾砲を展開させることも可能かもしれませんが、与那国島のような比較的小さい島では困難です。

 その場合、別の島に展開したりゅう弾砲による射撃が求められますが、問題はその距離です。南西諸島は島と島の間が非常に離れており、たとえば宮古島と石垣島で115km、石垣島と与那国島では120kmもの距離があります。つまり、これらの島のいずれかに敵が侵攻してきた場合、別の島から砲撃をすることは、現状では不可能です。

 島嶼部への侵攻に対処するために、陸上自衛隊では九州など遠距離から南西諸島の主要な島嶼部を射程に収める25式高速滑空弾の配備を開始しています。ただ、一つの発射機に2発しか搭載できず、再装填にも長時間を要する25式は、りゅう弾砲と比べると継続的な火力発揮が難しく、またミサイル自体も砲弾と比較すれば非常に高価です。

コスパのいい“超音速ミサイル”という選択肢

 そこで、こうした島嶼間での射撃を可能とする弾薬を、イギリスの新興企業であるティベリウス(Tiberius)社が提案しています。それが、低価格超音速ミサイルの「セプター(Sceptre)」です。

 セプターは、155mmりゅう弾砲から発射可能なラムジェット推進の超音速誘導ミサイルという非常にユニークな兵器で、飛翔速度はマッハ3以上、射程は140km以上で、半数必中界(CEP:目標を中心とした半径で発射した半数の着弾が見込める範囲を表したもの)は3.5mとされています。

 スペック以上に何よりも特徴的なのは、既存のりゅう弾砲で運用可能という点です。来日したティベリウス社の幹部に筆者(稲葉義泰:軍事ライター)が取材したところによると、セプターは陸上自衛隊が運用するFH70、およびその後継装備である19式装輪自走155mmりゅう弾砲から発射可能であるとのこと。

 加えて、発射前にミサイルに埋め込まれたNFC(近距離無線通信)チップへ携帯端末をかざすことで目標座標を入力する以外は、通常の砲弾を装填し、発射する動作と違いはないそうです。

横だけじゃない!「めっちゃ高く飛ぶ」だから強い!

 りゅう弾砲から発射されたセプターは、高度約30kmまで急上昇します。そこでGPSによる誘導を受けて目標の正確な位置を把握し、以降は内蔵式のIMU(慣性計測装置)により目標へと滑空していきます。ここで重要なのが、既存の誘導砲弾との差異です。

 たとえば、アメリカ陸軍が運用しウクライナにも供与されたエクスカリバーは、目標への誘導をGPSにより行います。しかし、ウクライナ戦争でロシア軍がGPS妨害システムを多用したことで、その誘導性能が著しく低下することが確認されています。

 これは、砲弾の到達高度が約6km程度であるのに対して、GPS妨害の有効高度は約10kmにまで及ぶため、正確な位置情報が取得できなくなることが原因です。これと同様の問題は、陸上自衛隊が試験導入を決定した誘導砲弾のヴルカーノにおいても、当てはまり得ます。

 対して、セプターは高度30kmという妨害が及ばない高高度でGPSによる位置情報を取得し、滑空時にはIMUにより誘導を行うため、GPS妨害による影響を受けないとのこと。加えて、通常の誘導砲弾では放物線のような弾道軌道を描いて飛翔するのに対して、セプターは滑空飛翔をするため目標を直上あるいは背後からも攻撃することが可能だといいます。

 そのうえ、射程は150km以上を目指して開発が進められているため、これが実現すればある程度の島嶼間射撃も可能です。また、ティベリウス社では移動目標を攻撃可能なセンサーを搭載するタイプの開発も予定しており、りゅう弾砲による対艦攻撃も可能となるかもしれません。

 ティベリウス社の担当者によると、セプターの開発は順調に進んでいます。2026年4月に、アメリカのニューメキシコ州にて155mmりゅう弾砲からの発射およびラムジェットエンジンの点火試験に成功。6月には中東にて射程80kmの発射試験、そして8月には中東およびウクライナの射撃試験場において射程120kmかつ目標への誘導も含めた発射試験を実施予定とのことです。

日本をハブに市場開拓目指す!?

 また、セプターはウクライナ戦争のように大量の弾薬を消費するような戦場においての使用を前提として設計されています。そこで重要なのが価格です。

 構造の簡素化などにより、セプターは従来の誘導砲弾(概ね10万米ドル前後)よりも低価格な5万米ドル(約800万円)を目標に開発が進められています。また、ラムジェットエンジン用の燃料として、入手が困難なかつ高価な固体ロケット燃料ではなく、液体燃料(ジェット燃料)を採用していることもポイントだといいます。

 さらに、ティベリウス社の幹部によると、すでに同社は日本のほぼすべての砲弾・弾薬メーカーと接触しており、そのうちのいくつかとは提携に関する議論も進められていると言います。もし日本企業との提携が決定されれば、陸上自衛隊がセプターの導入を決定した際に日本企業による安定した国内生産が可能となるだけではなく、海外への輸出の道も開けてきます。

 じつは、ティベリウス社は日本をインド太平洋市場におけるハブと位置付けており、日本企業製の部品や独自のセンサーを搭載した「日本仕様」のものを含め、日本で製造した製品を各国へと輸出することを目指しているそうです。

 日本がハブとして選ばれた理由について、第一に国内に有望な顧客(防衛省・自衛隊)がいること、第二に製造能力(精密加工技術を有する防衛関連企業)があること、第三に試験・評価能力があることという三点を挙げ、さらに外国製品の知的財産権保護に関する状況や地政学的な位置関係なども考慮されたといいます。

 ティベリウス社は、すでにイギリス国防省からセプターの開発および試験に関する契約を獲得しているほか、オーストラリア国防省が主導する「低コスト長射程火力(Low-Cost Mass Fires)プログラム」にも参画しています。また、台湾に関しても有望な市場として関係当局と協議を進めているといいます。

 今後の南西諸島防衛を考えるうえで、セプターのような長射程かつ低価格な誘導兵器は必要不可欠といえます。さらに、防衛産業を輸出産業へと成長させるためにも、このような企業間連携は日本にとっても魅力的といえそうです。