日本の経費負担で在日米軍基地の防護能力を強化する案が検討されています。一見すると日本の予算がアメリカに吸い取られるようにも見えますが、実はこれ、自衛隊にとっても大きな意味を持つようです。
同盟強靭化予算で米軍施設を強化へ
共同通信が2026年4月25日に報じたところによると、日本政府は「在日米軍駐留経費負担の日米交渉で、日本側が負担する形でアメリカ軍施設の防護強化を提案する検討に入った」といいます。
この報道によると、ここでいうアメリカ軍施設の防護強化とは、有事に際して米軍基地が攻撃を受けたときに、その被害を極小化するための「抗たん性」を強化する取り組みのことを指すようです。しかし、じつはこれは目新しい話ではなく、すでに数年前には日本政府がその方針を国会で明らかにしています。
2021年12月、日本政府はそれまで「思いやり予算」の俗称で知られてきた在日米軍駐留経費負担について、その通称を「同盟強靭化予算」とすることを決定しました。それまで、在日米軍の駐留を支援することに重きを置いた経費負担だったものを、日米同盟の抑止力や対処力を強化し、同盟関係を一層強める基盤を構築することに主眼を置くものとするため、名称を変更したといいます。
具体的には、アメリカ軍施設などで生じる光熱水料の負担については大幅に削減する一方、在日米軍のみならず、自衛隊の即応性およびアメリカ軍との相互運用性の強化にも資する訓練資機材調達費の項目を新設するとともに、在日米軍の即応性とその抗堪性強化に資する施設整備を重点的に推進することとしました。
そして、この中の「在日米軍の即応性とその抗堪性強化に資する施設整備」が、今回報じられた内容に該当します。それでは、この施設整備とはどのような内容を指すのでしょうか。これについて、2022年3月18日に日本政府は国会で次のように答弁しています。
「我が国を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増す中、在日米軍があらゆる事態に適時適切に対応できるよう、必要な基盤をしっかり整備していくことは極めて重要です。かかる観点から、提供施設整備についても、例えば、航空機掩体や整備用格納庫等の整備といった在日米軍の即応性の向上及び施設・区域の抗堪性強化に資する事業を重点的に推進することとしたものです」(第208回国会 参議院 本会議 第8号 令和4年3月18日 林芳正外務大臣答弁)
つまり、基地が攻撃を受けた際の航空機への被害を極小化できるようにする航空機掩体などを日本の防衛予算によって整備しよう、というわけです。
近年のアメリカによるイラン攻撃に際して、イラン側の反撃によりアメリカ軍の航空機が地上で撃破されるという事案が発生しています。仮に、中国とアメリカおよび日本の間で武力紛争が発生するとなれば、こうした状況が日本のアメリカ軍基地においても生じることは確実です。そこで、敵の攻撃に対する抗堪性の強化は、その重要性が日に日に増していると言えます。
しかし、一見するとこれではアメリカに日本の予算が吸い取られてしまうのではないか、と懸念する見方もあるかもしれません。
しかし、この施設整備は日本の建設会社が請け負うことになるため、そのための予算は日本のなかで循環することになります。つまり、これはアメリカ軍の能力強化につながると同時に、日本国内の建設業界に対する需要拡大にもつながる、というわけです。
米軍基地の強化が自衛隊にもたらす“恩恵”
じつは、このアメリカ軍基地における航空機掩体などの整備は、自衛隊にとっても非常に大きな意味を持つことになると筆者(稲葉義泰:軍事ライター)は考えます。
自衛隊では、2022年12月に閣議決定された防衛力整備計画において、防衛施設強靭化のために2023年度から2027年度までの5年間で約4兆円の予算を投じることとしており、そのなかにミサイル攻撃などへの抗堪性強化といった、今回と同趣旨の施策も含まれています。
しかし、この抗たん性強化については、その他の施策と比べて若干消極的な印象を受けます。
というのも、この防衛施設強靭化の中で最も多くの予算が割り当てられているのは老朽化した施設の更新や集約整理、重要施設の地下化などで、その金額は5年間で約1兆7000億円にのぼります。一方で、抗堪性強化に資する取り組みに割り当てられているのは5年間で約4000億円、つまり全体の1割程度の金額に過ぎません。
しかも、その内容にも若干問題があるように思われます。防衛省が明らかにしているところによると、この抗堪性強化に含まれているのは主に主要司令部の地下化、航空機を分散して配置するための分散パッドの整備や航空機隠蔽用施設(衛星による上空からの監視を避けるための簡易的な覆い)などで、航空機用掩体については緊急発進用の戦闘機を格納するための「アラートハンガー」の掩体化が盛り込まれているのみです。
航空機隠蔽用施設はテントやシェードのようなものに過ぎず、敵の攻撃に堪えうるものではありません。つまり、直接的に敵の攻撃から航空機を防護するための施策については、極めて限定的な内容にとどまっているわけです。
これにはいくつか理由が考えられますが、一つには基地の敷地不足が挙げられます。航空機用掩体は、分散パッドや航空機隠蔽用施設などと比べてより多くの敷地を必要とします。現在、航空自衛隊の基地にはそれを造成するための十分な敷地面積がなく、また周辺の土地を買収して基地面積を拡大するのも困難なため、航空機用掩体の大規模な整備が難しいのです。
そこで、在日米軍施設の抗堪性強化が重要になってきます。有事の際、自衛隊の航空機は全国の基地や民間空港等への分散展開により地上での被害を極小化することになると思われますが、そこには在日米軍基地も含まれる可能性があります。もし、在日米軍の嘉手納基地や岩国基地、厚木基地や三沢基地などに新たに航空機用掩体を増設することができれば、航空自衛隊の戦闘機をそこへ収容することも考えられます。
もちろん、これと並行して、たとえ少数でも航空自衛隊の基地内に航空機用掩体を増設すべきだと筆者は考えますが、いずれにせよ有事の際に運用可能な戦闘機を1機でも増やすためには、このような取り組みをさらに進めるべきではないでしょうか。