海上自衛隊で退役が進む、あぶくま型護衛艦のフィリピン海軍への移転(輸出)に向けた協議が急ピッチで進んでいます。とはいえ、就役から35年経過し老朽化した艦をフィリピンはなぜ欲しがるのでしょうか。
中古護衛艦の引き渡しに向けて具体的な議論スタート!
小泉進次郎防衛大臣は2026年5月5日、訪問先のフィリピンの首都マニラでフェルディナンド・ロムアルデス・マルコス大統領を表敬後、ギルベルト・テオドロ国防大臣と日比防衛相会談を行い、防衛装備・技術協力のさらなる推進に関する共同声明に署名しました。
この日比防衛相会談には、齋藤 聡海上幕僚長も陪席し、4月21日に一部改正されたばかりの防衛装備移転三原則と運用指針を踏まえ、フィリピンへのあぶくま型護衛艦およびTC-90練習機を含む防衛装備品の早期移転に向けて、具体的な議論を開始していくことで一致しています。また、議論を進めるため、日比両国防衛当局の政策、運用、装備部門を含む作業部会(ワーキンググループ)を設置することも決まりました。
従来、防衛装備移転三原則と運用指針には、非殺傷装備に限定するという、いわゆる5類型(救難、輸送、警戒、監視、掃海)のみの制約がありましたが、今回の一部改正によってこれが撤廃され、殺傷・破壊能力を持つすべての完成品や部品の移転(輸出)が可能になっています。
この新たな三原則と運用指針の下で、初めての国産防衛装備品の移転が実現するのか、あぶくま型護衛艦のフィリピンへの移転をめぐる最新状況を概観してみましょう。
そもそも、フィリピンは日本にとってシーレーンの要衝に位置する戦略的に重要な国です。そして、フィリピンも加盟するASEAN(東南アジア諸国連合)諸国は近年、南シナ海の南沙(スプラトリー)諸島や西沙(パラセル)諸島の領有権をめぐって中国と対立し、衝突事案も頻発しています。
そのため、フィリピン政府は、従来重視してきた国内治安から領土防衛に軸足を移し、海軍力と空軍力の近代化に努めています。
近代化進めるフィリピン海軍の事情
こうしたフィリピン政府の動きの中で、日本は8年前の2018年に海上自衛隊の中古のTC-90練習機5機と関係地上器材をフィリピン海軍に無償譲渡するかたちで近代化に協力しました。なお、フィリピン海軍はこうして手に入れたTC-90を哨戒機として運用しています。
しかし予算の制約などにより、海軍力の近代化は十分な内容とは言えません。現有の水上艦艇でいえば、対艦ミサイルを搭載するのは、韓国製のホセ・リサール級フリゲート2隻と、その発展型ミゲル・マルバル級コルベット2隻の、計4隻のみです。
そこで、フィリピン海軍は、もがみ型護衛艦の能力向上型である「令和6年度型護衛艦(4800トン型)」の就役に合わせて順次退役する予定の、あぶくま型護衛艦の入手に関心を示すようになりました。
あぶくま型護衛艦は、1989年度から93年度にかけて計6隻が就役した、あさぎり型護衛艦と並ぶ最古参の護衛艦です。近海・沿岸防衛用として建造されたため、基準排水量は2000トンと比較的小さく、ヘリコプターの搭載能力はありません。しかし、62口径76mm速射砲1門、艦対艦ミサイル装置1式、アスロック対潜ロケットの発射装置1基、3連装短魚雷発射管2基、高性能20mm機関砲(CIWS)1基などを装備するため、フィリピン海軍が入手できれば短期間で水上打撃力の強化につながるでしょう。
そのため、昨年(2025年)7月には、中谷 元防衛大臣(当時)とテオドロ国防大臣が6月上旬にシンガポールにおける会談で中古護衛艦の輸出について確認したことが報じられました。また8月には、フィリピン海軍の関係者が佐世保基地であぶくま型の2番艦「じんつう」を視察しています。
ただし、昨年夏の時点では、少なくとも兵装か通信器材などで何らかの「共同開発」の形態をとり、改訂前の防衛装備移転三原則と運用指針に抵触しないようにすることが必須でした。
フィリピン海軍への移転、残る課題とは
今回の5類型撤廃で、こうした制約がなくなったため、フィリピン海軍へのあぶくま型護衛艦の移転(輸出)は早期に実現する可能性が高くなっています。では、具体的な移転内容はどうなっているのでしょうか。
現時点で判明しているのは、日本側が防衛政策局長、フィリピン側は調達・リソース管理担当次官が長を務める新設のワーキンググループにおける議論を通じて早期の決定を目指すということだけです。ちなみに一部メディアでは、フィリピン海軍高官が3隻を確保したいとの意向を示しているとの報道も見られます。
また、すでに就役している韓国製のフリゲートとあぶくま型護衛艦では、搭載する対艦/対空ミサイルが異なっていますが、そのまま使い続けるのか、将来的にどちらかに合わせるのかに関しても気になるところです。
加えて、ワーキンググループの議論で、避けて通れないのが移転後の維持整備の問題です。特にあぶくま型護衛艦は主機にディーゼルエンジンとガスタービンエンジンを併用しています。
フィリピン海軍には、あぶくま型と同じくディーゼルエンジンとガスタービンエンジンを併用する艦として、アメリカ沿岸警備隊を退役したハミルトン級カッターを再就役させたデル・ピラール級哨戒艦(3隻)や、韓国海軍を退役した浦項級コルベットを再就役させたコンラード・ヤップ級哨戒艦(1隻)があります。しかし、これらが搭載するのはアメリカ製のガスタービンであるのに対して、あぶくま型のものはイギリス製(日本でライセンス生産)です。
また、ディーゼルエンジンの方は三菱製です。日本でしっかり整備して引き渡したとしても、使い続けるためにはメンテナンスフリーというわけにはいきません。
フィリピン海軍があぶくま型護衛艦を長期にわたって運用していくためには、フィリピン国内の維持整備基盤を構築することがカギとなるでしょう。
こうしたことを鑑みると、日比両政府が合意しても、今後は民間の造船会社どうしで、高いレベルで協力関係を築けるか、そこも肝要になりそうです。