毎日イライラ“開かない踏切”いつ消える?「立体交差の完成まで数十年」 廃止を阻む「5段重ね」の裏事情とは?

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朝の通勤時間にまったく開かない"あの踏切"。邪魔な存在にも思えますが、なぜ高架や地下に変えてしまわないのかと疑問に思ったことはないでしょうか。

7つの踏切を消すのに1600億円⁉ いったいなぜ

 東京都は2025年10月28日、西武新宿線の中井駅から野方駅付近で進めている連続立体交差事業について、事業費を約1635億円に引き上げ、完了時期を2033年度まで7年延長すると発表しました。

 この事業は、約2.4kmの区間を地下化して7か所の踏切を廃止する計画で、当初は2020年度までに約726億円で終わる予定でした。ですが現在では事業費は倍以上、完成時期も大きく延びる見込みとなっています。
 国土交通省によると、1960年には全国に約7万か所以上あった踏切は、立体交差化や統廃合の結果令和4年度には半数以下の約3.2万か所まで減りました。
 それでもなお、東京23区の踏切は2014年度末で620か所。海外と比較すると、フランスのパリ市と周辺3県の約90倍、アメリカのニューヨークの約13倍もあります。
 では、なぜこのような踏切は一斉に廃止されないのでしょうか。そこには、お金の流れをたどると見えてくる“意外な事情”がありました。

費用分担は “5段重ね” 500か所超の「開かずの踏切」が消えないワケ

 踏切をまとめて廃止する切り札は、鉄道を高架や地下に切り替える「連続立体交差事業」です。これは鉄道会社ではなく、自治体が主体となって進める都市計画事業です。

 ここで見落とされがちなのは、工事そのものや工期以上に、用地取得や地下の水道・ガス管などの移設、そして鉄道を止めずに工事する段取りの調整に、多くの時間がかかるという点です。
 鉄道は街の動脈で、原則として運行を止められません。そのため、すぐ隣に仮の線路を敷いて列車を通しながら、もとの線路の場所に高架橋を建てるといった段階的な工事が必要です。
 例として小田急線の代々木上原〜梅ヶ丘間の工事を見てみると、その事業期間は平成16年度から平成30年度まで約14年、事業費は約1653億円に上りました。
 都市部の連続立体交差事業では、完成までに10年以上、場合によっては20年前後を要することが珍しくないのです。
 さらに、事業費の負担は何重にも分かれています。東京都建設局の資料では、東京23区の場合、事業費の85%を都市側、15%を鉄道事業者側が負担する原則です。
 都市側の内訳も、国の補助金が55%、残り45%が地方自治体の負担。さらに東京では、地方負担分のうち都が70%、地元の区市が30%を受け持ちます。
 つまり、国・都・区市・鉄道会社が何重にも重なる構造で、合意形成や予算確保に時間がかかるのです。
 ここで改めて知っておきたいのが、対策を急ぐべき踏切の多さです。
 国土交通省によると、ピーク1時間あたりの遮断時間が40分以上となる「開かずの踏切」は、令和3年9月末時点で全国に500か所以上。こうした踏切を含む「緊急に対策の検討が必要な踏切(カルテ踏切)」は1336か所にのぼります。
 踏切をめぐる事故も後を絶ちません。横浜市鶴見区の生見尾(うみお)踏切では、2024年に死亡事故が相次ぎ、廃止が議論される事態となりました。
 それでもこういった踏切が廃止されない理由は、制度と受益のバランスにあります。渋滞解消や街の一体化で恩恵を受けるのは、主に沿線住民と自治体です。
 鉄道会社にも事故減少などのメリットはありますが、負担割合が1割程度にとどめられているのは、受益の比重が自治体側に大きいと考えられているためです。
 つまり、地元の合意形成や予算確保がまとまらなければ、そもそも計画が動き出しません。国交省も、踏切の廃止に時間がかかる場所では歩道の拡幅や周辺道路の整備といった、より早く一定の効果が見込まれる“速効対策”を組み合わせる方針です。
 朝に開かない“あの踏切”が消えるまでには、ときに数十年の歳月がかかります。それは工事の難しさだけではなく、都市の歴史と関係者の事情を映す鏡でもあるのです。