FIFAワールドカップ2026の開幕まで残り約1カ月となった中、共催国の1つでもあるメキシコ代表に、緊張感が走っている。
メキシコサッカー連盟(FMF)は現地時間6日、声明を発表した。同リリースの中には、FIFAワールドカップ2026開幕に向けて、リーガMX(メキシコ1部リーグ)の各クラブに所属する選手たちを対象としたメキシコ代表の合宿が現地時間6日の20時よりスタートすることが記載されている。それだけではない。FMFは次のような文言で、選手たちに“警鐘”を鳴らした。
「招集された全選手は、メキシコシティのハイパフォーマンスセンター(※編注:合宿地)に集合すること。コーチングスタッフ陣は、本日の集合に欠席した選手の、ワールドカップ本大会のメンバー入りを認めない」
このような厳しい文言がFMFから発信されるのは異例と言える。なぜ、このような事態に至ったのか。
FMFは現地時間28日、国内合宿に臨むメキシコ代表のメンバー20名を発表した。うち、12名の選手はFIFAワールドカップ2026のメキシコ代表入りが事実上内定している形での選出で、“海外組”の選手たちについては、FIFA(国際サッカー連盟)の大会規定に従い、6月1日に提出される最終登録メンバーに組み込まれる予定だと明かされていた。残る8名は、4年後に控えた次回のワールドカップに向けた代表チームの強化という観点から、今回の合宿に参加することとなる。なお、合宿期間内では、22日にガーナ代表と、30日にオーストラリア代表と、6月4日にはセルビア代表との国際親善試合も予定されている。
ただし、この合宿は、当然ながらインターナショナルマッチウィーク期間外の開催となる。現在、リーガMXはシーズンの真っ只中にあり、メキシコ代表に選出される選手たちは、各クラブの主力であるケースがほとんど。現在、リーガMXはクラウスーラ(後期リーグ)のプレーオフが開催されており、メキシコ代表の合宿がスタートする6日には、CONCACAFチャンピオンズカップの準決勝も行われる。
このような状況ではあるものの、『エル・パイス』のメキシコ版によると、FMF側は、メキシコ代表の事前合宿メンバーに選ばれた選手たちは、代表合宿期間に行われるクラブチームの公式戦に出場しないことで、リーガMX側と事前に合意に至っていたという。実際、今年に入ってから、インターナショナルマッチウィーク期間外に国際親善試合も行われているが、リーガMXは日程を調整しながら、メキシコ代表チームに協力する姿勢を貫いてきた。
だが、CONCACAFチャンピオンズカップで準決勝まで駒を進めたトルーカを率いるアントニオ・モハメド監督が5日、驚きの発言を残す。『エル・パイス』のメキシコ版によると、CONCACAFチャンピオンズカップ準決勝セカンドレグのロサンゼルスFC戦、そしてメキシコ代表の事前合宿の始動を翌日に控えた中、メキシコ代表のメンバーに選出されたDFヘスス・ガジャルドとFWアレクシス・ベガの姿が、前日練習を行うトルーカの面々の中にあったという。そして、モハメド監督は次のような言葉を発した。
「明日、彼らが試合を見に来るのか、それともプレーしに来るのか見てみよう。もし見に来るなら、彼らをピッチに立たせるつもりだ。プレーするか否かは誰にも分からない」
当然、この発言は、FMF側、そして所属選手を代表チームに送り出した各クラブの関係者の反感を買った。モハメド監督の発言の後、グアダラハラのオーナーを務めるアマウリー・ベルガラ氏は「合意は、関係者全員の尊重があって初めて有効となる。私は(グアダラハラの)スポーツディレクターに、明日も選手たちにクラブの施設に集合するよう指示した」とコメントを発表した。
グアダラハラはリーガMXクラウスーラのプレーオフを戦っているが、今回のメキシコ代表合宿に5名の選手が選ばれていることもあり、大幅な戦力ダウンを強いられていた。2日に行われたUANLティグレス戦では、メキシコ代表に選ばれた5名の選手が欠場し、試合も1-3と敗北。トルーカの“奇行”が認められるのであれば、グアダラハラもメキシコ代表には協力しない姿勢を公にしていた。
このような背景から、先のFMFの発言がなされた。『エル・パイス』によると、メキシコ代表を率いるハビエル・アギーレ監督は6日、事態の沈静化を目的とした会見を開いたが、次のような言葉を発したのみで、駆けつけた記者陣からの質疑応答の時間も設けられなかったようだ。
「今日は大事な日だ。ワールドカップは今日から始まる。我々は皆とても喜んでいる。我々の声明は非常に明確だ。来ない者はワールドカップから除外される。我々は柔軟に対応するつもりはない。だが、今のところは誰も合意を破っておらず、すべては我々が署名した通りに進んでいる」
なお、グアダラハラはアギーレ監督の会見後、「チーバス(※同クラブの愛称)では、選手たちがワールドカップでメキシコ代表としてプレーしたいという気持ちを尊重しており、その可能性を妨げるようなことは決してしない。したがって、選手たちは予定通り、適切な方法でトレーニングキャンプに合流することになる」とコメントを発表している。
先の発言の対象者となったトルーカの2名(ベガ、ガジャルド)についても、CONCACAFチャンピオンズカップ準決勝セカンドレグのロサンゼルスFC戦には出場していない。『エル・パイス』によって、事前合宿に合流したことが伝えられた。なお、主力2名を欠いたトルーカも、ロサンゼルスFCとのセカンドレグを4-0で制し、逆転でのファイナル進出を掴んでいる。
一連の騒動からおよそ24時間が経過したいま、FMFは公式SNSを通して合宿がスタートしたことを報告。メキシコ代表に選ばれた選手たちが食事を取る様子を公開し、“違反”によって外れる選手がいなかったことを明らかにした。
だが、『エル・パイス』は「メキシコ代表チームの歴史上、監督とメキシコのクラブの間で、選手招集をめぐって“脅迫”が交わされたことは一度もなかった」と伝えている。FIFAワールドカップ2026の開幕まで残りわずかとなった中で、メキシコサッカー界に緊張感が走っているのは否定できないかもしれない。
【画像】メキシコ代表の事前合宿がスタート