戦車の砲身は、ライフリング(溝)が刻まれていない滑腔砲です。この形式は19世紀以前のトレンドでしたが、溝付きの普及により一度は廃れ、また主流になったのです。
ついにイギリスも伝統のライフル砲を不採用に
イギリスの兵器関連企業RBSL(ラインメタル・BAEシステムズ・ランド)が開発を進めている、イギリス陸軍向け主力戦車「チャレンジャー3」が2026年4月、イギリス国防省や陸軍関係者によるテストで、優れた防弾性能を持ち、ロシアの最新鋭戦車T-14「アルマータ」をも「凌駕する」という評価を得たことが報じられました。
「チャレンジャー3」は2027年頃から運用されるとみられています。この戦車はイギリス軍にとって、新型戦車以上の大きな意味があります。戦車砲の種類に関して、北大西洋条約機構(NATO)加盟国など、ほかの西側陣営の国と足並みを揃えることになったからです。
「ライフル砲」とは、砲身内部に溝(ライフリング)が施された砲全般を指し、砲身内部に溝が入っていないツルツルなものは「滑腔砲」と呼びます。そもそも、砲や銃など火器の歴史を振り返ると、滑腔砲の方が先に登場し、その後はライフル砲が主流となったものの、戦車砲については滑腔砲へと“先祖返り”しているのです。
戦車は、第一次世界大戦中の1916年9月に世界で初めて実戦投入されました。当時、命中精度と射程に優れることから、砲兵の装備する野戦砲はほぼ全て砲身内に溝が刻まれていました。
ライフルという技術に関しては、砲弾が先込め式だった時代から既にありました。ただ、溝が刻まれていると弾を奥に押し込みにくく、装填に手間取るほか、砲身の耐久力に問題があるといった理由で、ライフル砲の使用は限定的でした。しかし、19世紀中頃以降に砲尾を開閉できる後装式大砲が登場すると、射撃・砲撃の精度が高いライフル砲は瞬く間に広がりました。当然、戦車は登場当初から後装式の砲が搭載されていたため、最初からライフル砲を使用していました。
第二次世界大戦になると砲身は急速に大口径化していきますが、砲はライフル砲のままでした。しかし戦後しばらくすると、大きな変化を迫られることになります。APFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)と呼ばれる種類の砲弾が登場したからです。
この砲弾は、分厚くなる戦車の装甲をいかに容易に貫通させるかに主眼が置かれた砲弾です。それまでの徹甲弾と違い、発射後に装弾筒からタングステンなど硬い素材で作られた侵徹体と呼ばれる矢のような弾体が分離するタイプの砲弾となっています。
APFSDSは細長いため、着弾時の速度が速く、着弾面積も通常の装甲貫通用徹甲弾よりも小さいのが特徴です。そのため一点に力を集中することができ、装甲への貫通力が格段に向上しています。APFSDS自体はライフル砲でも使用可能ですが、無駄な回転が加わることで威力が減衰してしまうという問題がありました。
ソ連が実は最初に採用した技術だった!
この問題を最初に解決したのは西側諸国ではなく、戦後に東側陣営の中心的存在となったソビエト連邦でした。同国陸軍は1961年、世界に先駆けてAPFSDSをT-62戦車に採用しました。
同戦車ではAPFSDSの威力を損なわずに使用するため、戦車砲「55口径115mm U-5TS」を、内部がツルツルな滑腔砲としました。また滑腔砲には、砲弾を高速化しやすいという利点のほか、ライフル砲のように砲弾が砲身内で回転して砲身を摩耗させないため、砲身寿命が長いという利点もありました。
このT-62の情報を受けた西側諸国は、それまで標準だったイギリス製105mm戦車砲「ロイヤル・オードナンス L7」というライフル砲を更新する必要に迫られます。
当初は1964年からアメリカと西ドイツが新型戦車および戦車砲を共同開発する方針で進められましたが、後に性能要求の不一致から断念されました。ただ、このとき西ドイツ側が提案した120mm滑腔砲は、同国のラインメタル社で研究が継続され、後に「120mm L44」として結実し、1979年に配備を開始した西ドイツの「レオパルト2」に装備されました。
この砲はAPFSDSのほか、成形炸薬弾(多目的対戦車榴弾)なども使用できます。さらに、戦車が走行中に射撃を行う「行進間射撃」においても、120mmという大口径でありながら高い命中精度を誇ります。
同時期に誕生したアメリカ軍のM1「エイブラムス」戦車は、当初105mm戦車砲を使用していましたが、火力強化型のM1A1には「120mm L44」をライセンス生産した「M256」を採用しました。その後、西側陣営のほとんどの国で「120mm L44」はライセンス生産されることとなり、西側戦車砲のスタンダードとなります。日本の陸上自衛隊も同様で、90式戦車の砲に同砲のライセンス生産品を採用しました。さらに、10式戦車やフランスの「ルクレール」などに搭載されている戦車砲も、国産ではありますが同系統の設計思想に基づいています。
これらの砲は製造国こそ異なるものの、NATO規格の砲弾と互換性があります。そのため、複数の国が共同作戦を行う場合にも砲弾を共有できるという利点があります。また、射撃統制システムについても一定の互換性が確保されています。「チャレンジャー」シリーズはこれまで砲の種類が異なるため、他国との共通化に制約がありましたが、「チャレンジャー3」は他の西側戦車と同じ系統の砲を採用するため、運用面で大きなメリットがあります。
なお、滑腔砲が戦車に採用された当初の弱点として、装弾筒と砲身の間に隙間があると弾道が不安定になるという問題がありました。しかし、この点も技術の進歩により、現在では極めて高い密閉性で発射できるようになっています。イギリス軍の「チャレンジャー3」が配備されれば、西側主要国の主力戦車はほぼすべて滑腔砲となるため、画期的な技術革新がない限り、滑腔砲の優位は当面続くと考えられます。
【ついに火を噴いた!】英国戦車として初めて“ツルツル砲”で射撃したチャレンジャー3戦車(動画)