「典型的なバイク事故」を技術で減らす クルマの性能試験31年目の初導入! しかし“最もヤバいケース”が対象外!? 国交省が慎重になるワケ

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自動車アセスメントで、2026年度から対バイク右直事故の試験が初めて導入されます。しかし、評価委員会では慎重論が根強く、最もダメージの大きい事故のリスクが積み残されています。

自動車×バイクでいちばん多い事故を“技術”で減らす

 独立行政法人 自動車事故対策機構が行う自動車アセスメントに、「衝突被害軽減ブレーキ」の性能評価として「対バイクの右直事故」試験が2026年度、初めて盛り込まれました。星の数で性能評価されることでもおなじみの自動車アセスが始まって31年目の“快挙”です。

 交差点における直進車の進路を右折車が妨害する「右直事故」について、財団法人交通事故総合分析センター(ITARDA)は2011年のレポートの中で、「バイクが第2当事者の場合、相手(第1当事者)は9割が四輪車」と分析しています。第1当事者とは事故原因となる責任の最も重い当事者のことで、右直事故は深刻な死傷事故に陥るリスクが非常に高いケースです。

 数多くの交通事故の中でも、右直事故を抑制することは、ドライバーの運転リスクを軽減することに直結するのですが、事故原因についてITARDAは「人的事故要因は8割強が発見の遅れ」、安全確認不十分であると警告しています。右折車のドライバーは直進してくるバイクを“見落とし”やすく、そのため事故で大きな責任を負うことになってしまうのが現実です。

 この人的要因を、車両の安全性能でサポートすることができれば、ドライバーの運転リスクの軽減に直結することはまちがいありません。

 対バイクの挙動を感知して運転支援する車両は市販されていますが、自動車アセスで車両が感知する対象は歩行者と自転車だけで、2025年度まで対バイクは性能評価の対象としていませんでした。重大事故につながりやすいケースが抜け落ちていたのです。

 交通モードすべてを対象とした性能評価ができるようになったことで、交通事故防止を真剣に考える自動車ユーザーにとって、名実ともに安心できる車両の選択肢ができたと言ってもよいでしょう。

 しかし、これでもなお、重大なポイントが積み残されてしまっていることは、先進安全技術の限界を如実に占めています。

「いちばん深刻なパターン」は評価対象外 ナゼ!?

 対バイク右直事故の試験方法は、想定する衝突のタイミングによって3種類の交差ポイントが考えられました。

(1)四輪車フロント中央部分に衝突(EuroNCAP相当)
(2)四輪車フロント左側コーナーに衝突
(3)四輪車前軸の左側端(左側面フロントオーバーハング部)

 四輪車がバイクの進路の手前で停止すれば事故は起きませんが、バイクに気が付かず進路上に入ってしまったシナリオが(1)です。四輪車がさらに深く交差点に進入した場合、車体が右折のため大きく切れ込むので、(2)のようにフロント左側のコーナーに衝突。四輪車が交差点に最も深く進入することで、フロントではなくサイドに衝突したパターンが(3)です。

 交差ポイントは、四輪車が交差点に入るタイミングが、(1)が最も遅く、(3)が最も早く設定されています。自動車アセスメントでは交通事故の「社会損失額」が基準です。社会的損失は(3)のケースが最も高いのですが、2026年度に対バイク試験で導入されるのは、(1)と(2)だけです。

 対バイク右直事故の試験導入を決めた評価検討会では、座長の水野幸治名古屋大学大学院教授が交差ポイント(3)の試験方法策定に迫っています。

「社会損失額では交差ポイント(3)がマジョリティーを占めているので、いつ入れるかという点は残りますが、導入することについてはよろしいですか。自動車アセスメントではやはり死亡事故、重傷事故を減らすのが第一です。そのあたりを踏まえて、2028年をターゲットに、ワーキング(※分科会のこと)に試験方法を作っていただく。ちゃんとワーキングに依頼することを考えているのですけれどもいかがでしょうか」(2025年第2回検討会)

 有識者には、試験方法を確立することで技術革新を促したい、その準備として自動車アセスでの対応を急ぐべきべき、という考え方があります。これに対して国土交通省物流・自動車局は慎重な言動を記録に留めました。

「2028年度をめどに考えることに特に異存はありませんが、どの技術でこの交差ポイント(3)を回避するかによっても、いつ頃、カバーできるかは変わってくると思いますので、そこはワーキングで一度ご議論させていただいて、もし2028年度が難しいということであれば、柔軟に対応させていただくことにしたいと思っています」

国交省が消極的になる「大きな理由」とは

 対バイク右直事故の性能評価に国交省が消極的な理由は、技術的な課題にあると言います。

「(車体側面に衝突する)交差ポイント(3)の回避は、バイクの直進に対して予測が必要なため、AEBS(先進緊急ブレーキシステム/Advanced Emergency Braking System)では対応できないとされています。また、右折しようとする前方の車両が、後方の車両で予期できず、追突の恐れがあるという声もありました。ドライバーレスの自動運転の実現を待つ必要があるという意見もあります」(自動車アセスメント担当者)

 交差ポイント(3)に対応する市販車が存在しないことで、評価試験について議論することは時期尚早という声があります。一方で、人間の運転で新技術の作動を確認することができれば、車種ごとの性能差を情報提供できるので議論を続けるべき、という考え方もあります。交差ポイント(3)を自動車アセスメントのロードマップに記載できるか否かは、2026年7月開催予定の評価検討会を待たなければなりません。

 運転支援の範囲には限界があることを、すべてのユーザーが知っているわけではありません。自動車アセスが☆の評価で優れた安全性能を示すことは重要ですが、同時に「この技術では防げない事故がある」という事実を積極的に伝えることも、アセスの役割ではないでしょうか。それこそが、ドライバーの正しい判断と、より慎重な運転につながるはずです。