「覚悟を持って提案します」 自衛隊の「空飛ぶ管制塔」=米国製の牙城を覆す? 防衛大手・サーブ日本人新社長に聞く

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北欧の防衛大手サーブの日本法人に初の日本人社長が就任。東アジアの安全保障環境が厳しさを増すなか、新社長が日本の防衛力向上へ提案するものとして語ったのは、戦闘機ではなく早期警戒管制機「グローバルアイ」でした。

「かつてないほど緊張度は増している」

 北欧スウェーデンの防衛・航空宇宙大手サーブの日本法人(サーブ・テクノロジーズ・ジャパン)の代表取締役に、日本人として初めて宇梶慧氏が就任しました。サーブはこれまでも数々の装備品が自衛隊に採用されていますが、東アジアのみならず世界の安全保障環境が厳しさを増す中、同社が日本人社長を起用した意味、そして同社がこれから、日本の防衛力向上へどのような手段を提案しようとしているのでしょうか。

 単独インタビューで宇梶・新日本法人社長が語ったのは、自衛隊に欠かせない、最も重要な装備品の1つでした。

――代表取締役に就任したと2026年3月に発表がありました。サーブの意思として何を感じるでしょうか。

 日本人として初めての就任は、サーブ並びにスウェーデンが、日本へより深く、かつ長期的なコミットメント(ビジネスの場で“責任を持つ”“約束をする”などの意味)を示したということです。日本法人を株式会社としているのも、いわゆる現地事務所と違う、日本とより長く、強く付き合い、日本の役にサーブが立とうとしていることの現われです。そのため、私自身も「私でなければ」という覚悟で臨んでいます。

――サーブの社風をどのように感じていますか。

 風通しが非常によく、即断、即決ができるうえ、上下関係もフラットと感じています。ともかく合理的であり、若い社員も言うべきことは言い、そして、職場の「温度感」も守っている。これらの企業風土が、製品を生む「モノづくり」に反映されていると思います。

 例えば、グリペン戦闘機は優秀な性能を持ちつつも、相手のレーダーに映りにくいステルス性能はそれほど高くありません。しかし、リアルタイムで情報共有を行うネットワークセントリックウォーフェア(NCW)や電子戦環境下での戦いに秀でています。各国がステルス性能を追う中、こうした思い切ったコンセプトで機体をつくり上げたのは、風通しの良い社風の下で、合理的にモノづくりを考えた結果といえるでしょう。

――現在のアジア地域の安全保障環境をどのように感じていますか。

 総論として戦後、かつてないほど緊張の度合いは増しています。その要因を概観すると近隣諸国の覇権主義が強くなっていることと、東南アジア諸国が政治的・経済的に発展している中で、国家間をめぐる構造が複雑化しているためと感じています。

――欧州へ目を向けると、日本とEUに防衛産業の協力を拡大する動きがあります。

 双方が協力を深化させ、AI(人工知能)など先端技術分野を中心に、パートナーシップを具体的なプログラムレベルで広めていく動きがあるのは聞いています。日米同盟がアジア地域の基盤、基軸なのは今後も変わらないと思います。そこへ日本とEUの間で何ができるかを考えると、パートナーはアメリカのみにとどまらない、というのが今の日本の立場と思います。

 日米同盟を補完し、より日本の安全保障態勢を柔軟に、強くする選択肢をヨーロッパが提供する。その形の1つとして、サーブによる事業協力の拡大の機会もあると考えます。

狙うのは早期警戒管制機

――サーブが日本の安全保障へ資する製品として、提案を考えているのは何ですか。

 日本の防衛力向上に間違いなく資する、我々が提案したいと思っているのは、AEW&C(早期警戒管制機)「グローバルアイ」です。

 グローバルアイは日本のこれからの安全保障態勢の強じん化へ寄与すると確信しています。サーブのミッションとして「提案し始めています」が現在のところです。サーブとして、日本の防空能力を高めるグローバルアイの提案は大きなミッションと考えています。

――グローバルアイの特徴として挙げられるのは、中身の警戒管制システムはサーブ製ですが機体自体は別のメーカー製です。

 機体自体はカナダのボンバルディア社のグローバル6500ビジネスジェット機で、これを基に早期警戒管制システムを搭載していますが、ブラジルのエンブラエル製の機体に搭載した実績もあります。航空自衛隊で現在使われている早期警戒管制機E-767は老朽化の声も聞こえています。このため、機種更新構想が浮上するなら、今後10年の間になるのではないか、と想像しています。サーブが日本にあり続ける以上はグローバルアイを提案していく覚悟を持って臨んでいます。

――安全保障環境の緊張化にともない、海外から日本へ、防衛装備品の売り込みは激しくなると思います。サーブはどんなアドバンテージを持っていますか。

 2月末に起こったアメリカとイスラエルによるイラン攻撃で、反撃を受けたサウジアラビアは、装備するサーブ製の早期警戒管制機を(インタビューが行われた4月下旬現在)1機も破壊されていません。地上で機体を複数の基地に置き、攻撃を受けるリスクを減らす分散運用を徹底しているからです。サーブ製の早期警戒管制機はこうした分散運用に長けています。スウェーデンの人口自体が約1000万人であることから、装備はシンプルに効率よく、使い勝手が良いように仕上げているのも特徴です。

――サーブの海外展開を見ると進出した国の企業と協力関係を築くのに秀でていると感じます。日本でもこれは活かしますか。

 活かしたいと思います。サーブには、海外市場で「パートナーシップ・ファースト」を心掛ける企業哲学があります。スウェーデン以外の企業は「自身がまず進出していく。それがうまくいかなければ『連携』を図る」動きを取りもしますが、サーブはまず進出した国の企業と提携を心掛けます。また、サーブはヨーロッパ域内にとどまらず、アジアなど地域ごとにサプライチェーン(部品供給網)を持ちたいと考えています。これは1つの地域に固まることによる地政学的リスクを回避し、スウェーデン自身のためにもなります。そのためもあり、日本の企業とのコラボレーションもサーブ日本法人のミッションになります。

取材を終えて…堅実で「欠かせない存在」

 長年サーブという企業を観察し続けて思うのは、進出した国で着実にビジネス基盤を築く堅実さがあるということ。そして、進出した国でひときわ脚光を浴びる海外企業の主役とはならないものの、その国にとって「欠かせない存在」になる、ということです。

 宇梶氏の起用はそのサーブが日本市場を重視し、これから「欠かせない存在」を確固たるものにする意思表示なのは間違いありません。そこで、宇梶氏がグローバルアイを第一のセールス品目に挙げたのは注目すべきことです。

 グローバルアイは2025年6月にフランスが採用を決めるなど、近年の早期警戒管制機市場における注目株です。しかし、日本は日米同盟の下、アメリカ軍とのインターオペラビリティー(相互運用性)を重視し、航空自衛隊の「眼」となる現在の早期警戒管制機はアメリカ製のE-767・E-2C/Dを使用しています。

 とはいえ、ロシアによるウクライナ侵攻やアメリカとイスラエルによるイランへの攻撃を見れば、世界の安全保障環境は混沌とし先行きの予測は困難です。日本は日米同盟を保ちつつも、ほかの同志国と結びつきを広く強めていかねばなりません。スウェーデンも日本にとっての同志国です。今後は、アメリカ製以外の防衛装備品が導入される機会は増える可能性もあります。

 宇梶新社長が「覚悟」という言葉をインタビュー中に用いたのは2回。新社長として臨む姿勢とグローバルアイの提案で、でした。宇梶・新社長はアメリカ製以外の装備品の導入拡大を見越しているのかもしれず、サーブとスウェーデンが培った分散運用のノウハウは自衛隊にもメリットがあると考えていると思われます。

 E-767の後継機への関心はいずれ高まるでしょう。その時に、サーブ日本法人がどのように動くのかが、日本がアメリカ以外の国と如何に連携を強めたかを図る指標にもなります。