「経済安保」旗印、結集訴え=高市首相、中国威圧に対抗―揺れる米国、成否不透明

成長局面を迎える日本の電子部品

 【ハノイ時事】高市早苗首相が「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」構想の進化を打ち出したのは、国際秩序の動揺を踏まえ、経済安全保障を新たな結集軸として掲げる必要があると判断したためだ。経済的威圧を強める中国への対抗が念頭にあるが、FOIPを共に推進してきた米国の外交姿勢は揺れており、成否は見通せない。
 「FOIP提唱から10年。環境は大きく変わったが、妥当性は揺らがない。FOIPを進化させる」。首相は2日、ベトナムの首都ハノイの大学で外交をテーマにスピーチし、こう宣言した。
 FOIPは2016年に安倍晋三首相(当時)が提唱した構想だ。自由、法の支配、市場経済などを掲げて地域の安定的な発展を目指すとうたったが、「戦略」と当初呼ばれていた事実が示唆する通り、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」への対抗概念の位置付けだったのは間違いない。
 岸田文雄首相(当時)が23年に行動計画を発表するなど、以降の政権もFOIPを積極的に推進。しかし、近年は「新味が薄れつつあった」(外務省幹部)。高市首相は昨年10月に就任すると「FOIPの打ち出しが弱い」と問題視し、「FOIP3.0」の提唱に向けて準備を始めた。
 新FOIPの背景にあるのは、安倍外交の「継承」をアピールする狙いに加え、威圧的行動を強める中国への懸念だ。同国は埋蔵量1位を誇るレアアース(希土類)の輸出規制を「武器化」。日本にも、首相の「台湾有事」発言に反発してレアアースを含む軍民両用品の輸出を制限している。
 レアアース以外にも、国際社会ではイランのホルムズ海峡封鎖を受けて原油輸送が混乱しており、サプライチェーン(供給網)の脆弱(ぜいじゃく)性が安保上の課題として意識されつつある。日本政府関係者は「価値観だけでなく実利に力点を置く」と新FOIPの「肝」を解説した。
 もっとも、新FOIPがかつてほど各国に受け入れられるかは未知数だ。1期目のトランプ米大統領は安倍氏のFOIPを自国の戦略として採用。東南アジア諸国連合(ASEAN)はFOIPに似た「インド太平洋に関するASEANアウトルック(AOIP)」を発表した。
 しかし、中国は当時より力を増し、ASEAN各国は中国との距離感に敏感になる。4月のベトナム新指導部発足後、最高指導者トー・ラム共産党書記長兼国家主席が最初に訪れたのも中国。首相は演説で「FOIPは誰かに何かを押し付けるものではない」と不安払拭に努めた。
 旗振り役だったトランプ氏自身がイランを攻撃したり、各国に関税を一方的に課したりし、法の支配や市場経済に反する行動を取っていることも懸念材料だ。外務省幹部によると、日本政府はFOIPの進化を事前に米国に説明。首相は次回の会談でトランプ氏に直接伝える構えだが、足並みをどこまでそろえられるかは不透明だ。 
〔写真説明〕高市早苗首相(写真右)と安倍晋三元首相