東西冷戦の時代、平和国家のイメージが強いスウェーデンで、核爆弾を搭載する攻撃機が計画されていました。アメリカの試作機F-107Aにそっくりな姿だったとされる、幻の機体「サーブ36」です。
サーブ伝統のデルタ翼をもっていた
核兵器が実際に使える攻撃手段としてまだ考えられていた東西冷戦の頃、アメリカでは核爆弾搭載用のF-107A戦闘機が試作されました。F-107Aは背中に空気取り入れ口を持つ変わった姿をしていましたが、これとそっくりな核攻撃機が、平和国家のイメージが強く2024年まで軍事非同盟を掲げていたスウェーデンでも計画されていました。サーブ35、37戦闘機の間を埋める「サーブ36」とされた機体です。
「サーブ36」は正式採用には至りませんでしたが、機体の計画図、あるいは想像図が残っており、いずれもサーブ製のほかの戦闘機(35ドラケン、37ビゲン、39グリペン)と同じようにデルタ(三角)翼を備えています。ただ、空気取り入れ口の位置は複数案が存在したようで、その中には、外観上突飛とも思われるものがありました。
それは、空気取り入れ口を操縦室の後ろに背負うように設置するというものです。
背中に空気取り入れ口を設けた機体としては、アメリカで実際に試作されたF-107Aが知られています。操縦室の後ろに空気取り入れ口があると、操縦士が緊急脱出する際に危険と思われますが、それでもこの位置としたのは、胴体下の空気取り入れ口などに気流を乱されず、核爆弾を安定して投下するためだったとされています。
サーブ36の開発が検討されたのは1950年代でした。スウェーデン国内の博物館に展示された、空気取り入れ口が背中にある設計案のイラストを見ると、胴体中央に大きな切り欠きが設けられ、大型の爆弾、あるいはミサイルに類するものが描かれていて、胴体下面は平たんになっています。真横から見た全体図が特にF-107Aにそっくりなため、サーブ36も同じように安定した核爆弾の投下のため空気取り入れ口を背中に付けたのでしょう。
攻撃機も核開発も放棄
残された資料からは、サーブ36の開発が成功すれば、当時スウェーデン空軍で使われていたサーブ32ランセン攻撃機の任務は引き継がれるとされていました。しかし、開発費が高騰したため中止となり、スウェーデンも核兵器の独自開発と保有案を1960~70年代に放棄しました。
核兵器自体はアメリカが1945年8月に広島と長崎へ投下して以降、実際に戦場で用いられてはいません。しかし、1940年代後半からしばらくの間は、軍は巨大な破壊力に着目し長距離ミサイルのみならず、1発で多数の爆撃機を撃墜すると期待された空対空兵器も開発されました。スウェーデンのサーブ36と核装備構想は、こうした世界的な潮流を当時受けたものだったのでしょう。
また、サーブ36はエンジンにイギリスのブリストル(当時)が開発した「オリンパス」の装備を計画し、マッハ2以上の速度での飛行が考えられていました。実現すれば強力な攻撃力を持った機体になったであろうと思われます。
スウェーデンは2024年3月、長年掲げた非軍事同盟からNATO(北大西洋条約機構)加盟へ政策を転換しました。ロシアによるウクライナ侵攻の影響によるものでしたが、この判断と同じように、スウェーデンがかつて核兵器に頼らず通常戦力による国土防衛を決めたのも、「核拡散」へ与しない理性的なものだったと筆者は考えます。