「しないと違反になったのよ。はい反則金」2000円をだまし取られた高校生は”仕方ない”のか? 自転車の青切符「交通ルール誰が教えるの問題」

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自転車の反則金制度が始まり、運転者には「免許はなくてもドライバー」としての自覚が求められています。そんな中、広島県で起きた「反則金詐欺」の被害を受け、教育現場では詐欺被害防止教育の必要性も浮上しています。

交通教育は誰が主体? 詐欺被害防止教育は?

 2026年4月1日から自転車の反則金制度が導入され、広島県呉市では4日、交通ルールの知識の薄い高校生が一般人に「反則金」をだまし取られるという事件が発生しました。自転車の反則金制度の導入は、「交通ルールを誰が教えるか」という難しい問題を社会に突きつけています。

 道路交通法の罰金は、違反行為が前科や前歴として残る刑罰のひとつです。かつては自動車でも罰金しかなく、反則金制度が始まったのは1968年でした。マイカー時代到来に右肩上がりで増える違反者に「一億総前科者」という言葉が国会でも登場し、反則金制度の創設を後押ししました。

 1970年4月の衆議院交通安全対策特別委員会、答弁に立った総理府総務長官の山中貞則氏は、反則金制度を象徴的に話しています。

「一億総前科者にしないようにするという配慮で反則金制度をつくったことから考えると、反則金で済まされる人のほう、軽い違反のほうがふえてくれて重い違反が減ることを望むわけですけれども……」

 一億総前科者の議論を背景に、警察が抑制的に罰金を適用していたことは、自転車の違反に反則金制度が導入されなかった要因のひとつとなってきました。それから半世紀以上、現在の警察庁自転車反則金制度ポータルサイトには、「免許はなくてもドライバー ルールを守って責任ある運転を!」という言葉が掲げられ、運転者の責任を厳しく問う姿勢を明確に打ち出すことになりました。

 ただ、幼児から高齢者まで誰でも乗ることができる免許制度のない乗りものに対して、誰が交通ルールを伝えていくのか。この主体が明確でないまま反則金制度が始まったことに、戸惑いを覚える人もいます。

 東京・千代田区の下町で交通安全の見守りを続ける町内会の役員は、こう話しました。

「私も当番をやるまで(交通ルールを)余り知らなかったのですが、役をやらせてもらって改めてみると、自転車を運転する人は、そもそも交通ルールを知らないのではないかと思う。かえって事故が増えるんじゃないかな」

新たな反則金詐欺は、知識の薄い未成年を襲う

 運転免許の取得を制限する高等学校では、運転免許教育は教習所など警察行政が担う、という立場です。これまでは、そのため運転免許の取得を学校で制限すれば、特別な交通安全教育は不要という立場でした。ある高校教諭は次のように話します。

「学習指導要領にも、保健体育や総合的な学習時間などで交通安全教育は定められていますが、基本的に時間がない。学校は交通安全教育をする場所ではありませんから」

 ただ、自転車への反則金制度の適用は、その状況も変えつつあります。交通ルールを記載した「自転車安全指導カード」の交付で許されるのは16歳未満まで。運転制限のない自転車ですが、16歳以上は高校生でも反則金が適用されることがあります。今、誰が交通安全教育を担うべきなのでしょうか。再び聞きました。

「警察と連携した実技指導などは行っています。交通ルールは変わらないので、新たに話をするのは反則金制度についてです。この制度をきっかけに高校生が詐欺被害に遭うとしたら、これについても触れる必要があるかもしれません」

「法が変わったのよ」を真に受けるのは仕方ないのか?

 広島県警察本部は「自転車の交通反則通告制度を悪用した詐欺事件の発生」を公表して、注意を呼びかけています。4月4日、呉市内の車道を北進中の高校生が、自転車で道路を横切り歩道を走行していたところ、歩道に立っていた50歳ぐらいの男に「法が変わって、手信号をしないといけんのよ。違反だから2000円を支払う必要がある」と、反則金の名目でだまし取られた、というものです。

 自転車の運転が適法という自信が薄い中で指摘を受けると、つい心にスキができてしまいます。また、運転免許があれば、警察官から手渡された納付書で反則金を納めることは半ば常識ですが、免許教育も受けず、経験の少ない未成年には、こうした“言いがかり”を真に受けてしまうことがあるかもしれません。男からの脅迫はなかったようです。

 広島県警は、反則金納付の“常識”を次のように話します。

「今後も同種事案が発生するおそれがあります。警察官が違反者から直接、反則金を受け取ることはありません。警察官などを語り直接反則金の支払いを求められることがあれば、すぐに110番をしてください」

 反則金制度がスタートしても、自転車の違反については指導・警告が第一段階。反則金の納付をいきなり求めるケースは、悪質・危険な場合に限定されます。さらに悪質な危険性の高い飲酒運転やスマホのながら運転は反則金制度(青切符)ではなく、罰金(赤切符)になります。

 他県でも詐欺被害にあわないように呼び掛けていますが、反則金の常識が浸透しない限り、詐欺事件は今後も起こる可能性があります。

 一方、違法行為は「法律を知らなかったでは免れない」という常識があります。家庭、学校、警察、地域がどう連携して運転者としての自覚を作っていくのか、反則金制度が社会に問いかけています。