「ダントツで世界最大」の航空会社が米で誕生へ? “ビッグ3”ユナイテッドのアメリカン合併提案 “野心家CEO”の素顔とは

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アメリカの航空大手トップが同業大手との合併案をトランプ大統領に直訴したと報じられました。実現すれば断トツで世界最大の航空会社が誕生します。合併案に駆り立てた背景には納得の理由がありました。

「いま攻勢に出ている」ユナイテッド 言葉通りに?

 アメリカ航空大手のユナイテッド航空および持ち株会社ユナイテッド航空ホールディングスのスコット・カービー最高経営責任者(CEO)が2026年2月25日にドナルド・トランプ大統領(共和党)と会談した際、アメリカン航空を抱える持ち株会社アメリカン航空グループとの合併の可能性をアメリカ政府高官に提案したとロイター通信が報じました。ユナイテッドは既に有効座席キロ(ASK)で世界最大の航空会社で、合併すれば世界で断トツに大きい航空会社が誕生します。

 企業の合併・買収(M&A)は「時間をカネで買う手法」とされ、事業規模を一気に拡大したり、経営を効率化したりするのに有効だとされます。これまでにアメリカの航空業界はM&Aを繰り返し、主要航空会社は“ビッグスリー”とされるユナイテッド、アメリカン、デルタ航空の3社に集約されました。

 ロイターによるとカービー氏は、トランプ政権がアメリカの貿易赤字を問題視していることを踏まえ、ユナイテッドとアメリカンが合併すれば航空の国際線でより強力な競争力を持つと訴えかけました。そんな合併構想が浮上した背景には、トランプ氏に関係した点も含めて納得の理由があります。

 カービー氏は2026年3月20日に従業員へ宛てた書簡で「ユナイテッドはいま攻勢に出ており、最後には大きな成果が期待できるのではないかと思ってしまう」としたためましたが、「攻勢」の文言に潜んでいたのが野心的な合併案でした。

 ユナイテッドとアメリカンは日本にも乗り入れており、ユナイテッドは全日本空輸(ANA)と、アメリカン航空は日本航空(JAL)とそれぞれ提携関係にあります。合併には高いハードルが待ち受けているものの、実現した場合には日本も巻き込んで航空業界の勢力図を塗り替えることになりそうです。

名前はユナイテッド デザインは旧コンチネンタル

 合併を提案したカービー氏が率いるユナイテッド航空ホールディングスは、2010年10月に旧ユナイテッド航空と旧コンチネンタル航空が経営統合して発足しました。合併後の社名に「ユナイテッド航空」を採用した一方、航空機の垂直尾翼に描かれた地球儀のデザインは旧コンチネンタルから継承しました。

 ユナイテッドはアメリカ東部ニューヨーク近郊のニュージャージー州ニューアーク、首都ワシントン近郊の南部バージニア州ダレス、テキサス州ヒューストン、西部コロラド州デンバー、カリフォルニア州のロサンゼルスとサンフランシスコ、中西部イリノイ州シカゴにハブ(拠点)空港を構えています。2025年時点でアメリカ国内の231空港、外国の153空港に旅客便を展開しています。

カービー氏の標的は「もと身内」

 これに対し、アメリカン航空グループは、旧アメリカン航空と旧USエアウェイズが2013年12月に経営統合して誕生。社名および航空機のデザインは旧アメリカンから受け継いだ一方、アメリカンとアメリカン航空グループのロバート・アイソムCEOを含めた幹部は「USエアウェイズ出身者が目立つ」(航空関係者)と言います。

 ハブ空港はシカゴ、ロサンゼルス、首都ワシントン近郊のバージニア州ロナルド・レーガン空港、ニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港、東部ペンシルベニア州フィラデルフィア、南部ノースカロライナ州シャーロット、テキサス州ダラス・フォートワース、フロリダ州マイアミ、西部アリゾナ州フェニックスです。世界60か国を超える計350超の都市を旅客便で結んでいます。

 合併案が浮上した背景として、5点が挙げられます。

 一つ目は、カービー氏は2013~16年にアメリカンの社長を務めた「もと身内」のため内情をよく把握しており、合併後に束ねやすい利点があります。電撃移籍で2016年8月にユナイテッドの社長となり、2019年12月にCEOへ昇格しました。

 航空業界関係者は筆者(大塚圭一郎:共同通信社経済部次長)に対して「カービー氏は野心家でアメリカンのCEOを目指していたが、ダグ・パーカー前CEOが長らく君臨していたため当分チャンスが巡ってこないと思い、ユナイテッドに転じた」と説明しました。カービー氏の後任のアメリカン社長がアイソム氏で、2022年3月にCEOへ昇格しました。

 二つ目はユナイテッド航空ホールディングスの企業価値を示す時価総額(株価×発行済株式数)がアメリカン航空グループの4倍を超えており、合併すればユナイテッド側が主導権を握りやすいためです。LSEG(ロンドン証券取引所グループ)の2026年4月14日時点のデータによると、ユナイテッドの時価総額が約310億ドル(1ドル=159円で約4兆9290億円)なのに対し、アメリカンは74億2000万ドルにとどまります。

 利益水準の差が株価に反映されており、ユナイテッドは2025年12月期決算の最終的なもうけを示す純利益が33億5300万ドルだったのに対し、アメリカンは1億1100万ドルと大差が付いていました。

 三つ目は両社の航空機の機材構成がよく似ており、合併してもパイロットや整備士らが移行しやすいためです。両社はともにボーイングの大型機777や中型機787、小型機737、エアバスのA320シリーズなどを運航しています。

トランプ政権下でマジで実現?

 残る二つの背景は、トランプ政権が影響しています。トランプ政権とイスラエルのネタニヤフ政権によるイラン攻撃に端を発したジェット燃料価格の高騰が業績を圧迫するのと、企業寄りが鮮明なトランプ氏が競争を緩和させるM&Aに容認姿勢を示していることがあります。

 攻撃を受けたイランは対抗策として、原油の世界供給量の約2割が通航するホルムズ海峡を事実上封鎖。カービー氏は従業員への書簡で「ジェット燃料価格はこの3週間で2倍超に跳ね上がった。もしもこの価格水準が維持されれば、ジェット燃料費だけで年間110億ドルもの追加支出が発生する」と説明しています。

 企業統合についてジョー・バイデン前大統領(民主党)は競争緩和を招き、値上げにつながるとして厳しく目を光らせていました。企業競争を促し、価格を下げることをもくろんで2021年7月には大統領令「アメリカ経済における競争の促進」を発令しました。

 ところがトランプ氏は2025年8月、この大統領令を撤回しました。つまり、「バイデン前政権下では認められなかった大企業同士の再編が、トランプ政権に代わったことで認められる可能性が高まった」(企業幹部)という図式があります。

 ただし、ユナイテッドとアメリカンを合計したアメリカでの市場占有率(シェア)は3分の1余りに達します。たとえ両社が合併することで合意しても、アメリカ当局が反トラスト法(独占禁止法)に照らして審査することになり、ブルームバーグも「消費者や政治家、競合他社からの大きな反発を招く公算が大きい」と伝えています。よって、合併の道が険しいのは間違いありません。

 両社は航空連合も異なり、ユナイテッドがANAなどの加盟する「スターアライアンス」なのに対し、アメリカンはJALなどと同じ「ワンワールド」です。合併する場合には航空連合同士の激しい綱引きが予想され、離脱する航空連合の加盟航空会社は大きな打撃を受けかねません。

 カービー氏は従業員への書簡でジェット燃料価格高騰などの逆風下でも「準備は万端で、計画があり、その計画を実行し続ける」と訴え、「安心して夜眠ってほしい」と呼びかけました。しかしながら、浮き彫りとなったアメリカンとの合併案は航空業界を覚醒させ、一杯のアメリカンコーヒーのように夜眠りにくくさせそうです。