アメリカ中央軍がイランに対する「封鎖」を発表しました。一部で「ホルムズ海峡の封鎖」あるいは「逆封鎖」などと報じられていますが、誤報ともいえます。国際法における「封鎖」とは何か、今回の措置がなぜそう呼ばれないのかを解説します。
アメリカ軍による「封鎖」が開始されると発表
アメリカ中央軍は日本時間の2026年4月13日、イランに対する封鎖(blockade)を実施すると発表しました。
中央軍の発表によると、これはイランの海上交通を遮断することを目的とした措置で、アラビア湾およびオマーン湾を含むすべてのイランの港湾および沿岸部への船舶の出入りを防止するとのことです。封鎖はアメリカ東部標準時の4月13日午前10時、つまり日本時間の4月13日23時より開始されます。
日本メディアでは、これを「ホルムズ海峡の封鎖」や、イランが行ってきたことを受けて「逆封鎖」などとしている場合が多いように見受けられますが、いずれも誤りです。その理由について、そもそも封鎖とは何かを詳しく説明したうえで、解説したいと思います。
国際法上、封鎖とは「敵の領土内にある、あるいは敵が占領(管理)している沿岸部や港への船舶の入港あるいは出港を、それが敵国の船舶か否かを問わずに防止する軍事行動」を言います。封鎖は、主に敵国への船舶の出入港を防ぐことで海上交通を遮断し、敵の補給路を断って武力行使の継続を困難にすることを目的としています。
そのため、たとえば一般市民を飢えさせることだけを目的とするような措置は認められません。そして、封鎖を破ろうとする船(封鎖侵破船)に対しては、その船体および積み荷を全て没収することができるのです。
伝統的な国際法において、封鎖には宣戦布告を伴う法的な戦争が発生していない場合に認められる平時封鎖(pacific blockade)と、法的な戦争が発生しているときに認められる戦時封鎖(belligerent blockade)とがあり、それぞれ封鎖を実施している国に認められる措置の内容に違いがありました。
現在の国際法では、基本的に封鎖は国際的武力紛争(主に国家間の武力紛争)に際してのみ認められる措置で、何らの武力紛争も起きていない中で他国に対して封鎖を実行した場合には、違法な武力行使とみなされるだけでなく、その最も重大な形態である侵略行為にさえ該当し得ます。
封鎖が認められるための要件とは
封鎖は、それを実施するにあたって各種の条件が付されています。この条件が満たされない限り、先述した船体および積み荷の没収という、封鎖によって生じるきわめて強力な法的効果は生じないことになります。
まず、封鎖を行えるのは敵国の領水、その先の公海、および排他的経済水域(EEZ)に限られています。従って、封鎖を実行している国や、武力紛争の当事国ではない国の領水や排他的経済水域などでは、船舶の航行を防止することはできません。加えて、国際的な航行に使用されている海峡である国際海峡に関しても、封鎖の対象海域に含めることは基本的にできません。
また、封鎖は船舶の航行を防止するに足りる兵力(水上艦艇など)により実効的に行われる必要があり、これは「実効性要件」と呼ばれます。
学説上、水上艦艇を伴わずに哨戒機などの航空機のみによる封鎖は実効性要件を満たし得るのか、という論争もありますが、アメリカなど主要国の海軍では封鎖に使用される兵器の種類に細かな制限を設けていないことから、少なくとも実務上は措置の実施を水上艦艇に限定することは支持されていないように思えます。
さらに、封鎖を行うという宣言および他国への通告が必要とされており、これは「宣言告知要件」と呼ばれます。この宣言・告知とは、封鎖を行う地理的範囲、措置の開始日、並びにとられる措置の内容を公的に発表することを指します。封鎖はきわめて強力な措置のため、武力紛争の非当事国船舶が封鎖を回避することを可能にするために設けられた要件です。
これらを踏まえると、おそらくアメリカ軍はペルシャ湾およびオマーン湾に海軍艦艇や航空機を展開し、イランの港湾に出入港する船舶を監視するとともに、封鎖侵破船に備えることになると思われます。
「ホルムズ海峡封鎖」は誤り! その理由とは
それでは、冒頭で今回の措置を「ホルムズ海峡封鎖」と表現するのは誤りだと言いましたが、それはなぜでしょうか。
まず、「ホルムズ海峡封鎖」という表現は、おそらくイランがこれまで実施してきた、ホルムズ海峡における船舶の通航妨害とアメリカによる措置とを同じものと捉えているために用いられていると考えられます。しかし、そもそもイランによるホルムズ海峡での通航妨害は、前述の国際法上の封鎖の定義に当てはまらない、いわば「通峡阻止」とでもいうべき措置で、民間船舶を無差別に攻撃するなど、国際法上は合法とは言い難い行為です。
一方で、今回アメリカが発表した措置の内容を見てみると、まず措置の目的はイランの海上交通の遮断で、措置の対象となるのはイランの港湾や沿岸部に出入りするすべての船籍の船舶とされています。さらに、ホルムズ海峡における航行の自由は確保されるとも説明されており、さらなる詳細な情報は今後封鎖が実行される前に公式発表される、としています。
このように、アメリカの措置は、先述した国際的武力紛争(今回はアメリカとイラン)における封鎖の定義に当てはまるもので、しかもホルムズ海峡においてはイランに向かう、もしくはイランを出港した船舶以外には措置を実施せず、航行の自由を確保するとしています。とすると、この措置は「ホルムズ海峡封鎖」ではなく、「対イラン封鎖」と呼称するのが正確でしょう。
ところで、こうしたアメリカによる措置について、「アメリカは違法にイランを攻撃したのだから、これも国際法上違法ではないのか」といった意見がおそらく噴出するかもしれません。たしかに、2月28日に開始されたイランに対する軍事攻撃は、その国際法上の根拠を見出しがたく、合法な武力行使とは言い難いと筆者(稲葉義泰:軍事ライター)も思います。
しかし、発端となった軍事攻撃が違法であるとしても、そこから開始された武力紛争で適用される法である武力紛争法は、攻撃国か被害国かを問わず、当事国全てに平等に適用されます。そのため、アメリカによる封鎖措置は、海上における武力紛争に際して適用される海戦法規に従ったものである限り、合法な措置となります。
このように、とくにロシアによるウクライナ侵略を契機として注目を集めるようになった国際法は単純なものではなく、当事国がどの国か、ということにとらわれず、発生した現象を整理して分析する物差しのような存在です。したがって、ある出来事に関する国際法上の評価は冷静に行われるべきと、筆者は思います。