バスは渋滞や遅延の影響を受けることがあります。近年は社会の変化や、いわゆる「2024年問題」の労働規制により、遅延の影響が従来より大きくなっています。
雪だるま式に増える遅延 でも「急ぐな」
※本記事は『トコトンやさしいバスの本』(成定竜一編著、井原雄人著/日刊工業新聞社)の一部を再編集したものです。
バスは、交通集中や車線規制などによる渋滞を避けることはできません。では、実際に渋滞が起こった時、バス事業者や運転手はどのような対応を行っているのでしょうか。じつは、スマホ普及など社会の変化や、労働規制の強化、いわゆる「2024年問題」によって、バス業界は渋滞への対応にますます手を焼く事態になっています。
路線バスは、ダイヤに基づいて運行するため、遅延が発生すると乗客に迷惑がかかります。特に運行頻度の大きい路線では、いったん遅延すると、遅延がさらに遅延を生むという課題があります。
都市部などの高頻度路線では、乗客は事前に時刻表を見ずに停留所へ出向きます。前便との間隔が開くと、その分、停留所で待つ乗客が増えます。すると、車内が混雑して乗降時間が伸び、それにより遅延すると次の停留所で待つ人がもっと増え……そうやって「雪だるま式」に遅延が膨らんでいくのです。バス業界では「(遅延を)背負う」などと呼ばれます。
以前は、遅延なく運転するのもプロの腕という雰囲気も業界内にはありました。新人運転手が遅延するのは“仕方ない”一方で、ベテランが、新人の運転する次便に追いつかれるのは恥ずかしいと、プレッシャーを感じていたといいます。
当時は、バス事業者(会社)としても定時運行を重視し、遅延時にはいわゆる「回復運転」が推奨されました。停留所の停車時間をなるだけ短縮するなどして定時運行に戻すことです。しかし今日では安全が最優先とされ、たとえ遅延していても、乗客が着席するまで発進させないというような考えが定着しています。
「乗り換えに間に合わなかったじゃないか!」
さらに現在はバスロケ(バスロケーションシステム)が普及し、乗客自身がスマホ上でバスの位置や遅延状況を把握できるようになりました。これでバスを待つストレスは軽減されましたが、一方で新たな課題も生まれています。
経路検索サービスで示された到着予定時刻を前提に鉄道への乗り換えなどを予定する人が増えており、わずかな遅延でも「乗り換えが間に合わなかった」などの不満や苦情を生むようになったのです。
出勤や登校、または美容院や歯医者など予約制サービスを利用する際、ある程度は遅延の可能性を考え、余裕をもってバスに乗るのが普通です。しかし経路検索サービスにより分単位で乗り継ぎを提案されると、どうしても、その乗り継ぎが保証されたような気分になってしまいます。その通りの電車に乗れなければ、不満を感じる気持ちもわかります。
遅延をチャラにする”対策!?”
実は、多くのバス事業者で、終点直前の1区間の所要時間を長めに確保しています。法令上、定刻より早く発車する「早発」は許されないため、途中停留所の通過時刻を少しずつ早めに設定して早発を防止するとともに、最後の1区間、わずか数百メートルに数分を取ることで、終点では遅延がない(道路が極めて順調だった場合は多少「早着」する)よう工夫しているのです。「タルミ(ダイヤの弛み)」とか「捨て時分」「余裕時分」などと呼ばれます。
鉄道駅が終点である場合はそれで解決なのですが、系統の中間で鉄道駅を経由する場合や、JRの駅と私鉄の駅の両方に停車する場合など、先に停車する駅では遅延が常態化し、乗客の不満足を招いてしまいます。そこで、遅延の影響を広範囲に広げないよう長い系統を中間地点で二つに分ける事例などもみられますが、デメリットもあり解決が難しい問題です。
高速バスは遅延するともっと深刻!
路線バスよりも長い距離を運行する高速バスや貸切バスでは、主に高速道路の渋滞が“大敵”です。
なぜなら、国の規制により、運転手が連続して(休憩などを挟まずに)運転できる時間の上限が決まっているので、大きく遅延すると予定外の休憩を取る必要が生まれ、遅延がさらに拡大するからです。高速道路の渋滞は日曜日の夕方に多く発生し、乗客は(実は運転手本人も)早く帰りたいという気持ちになりますが、安全確保のためですので理解をいただく必要があります。
そうした遅延の影響は、当日だけに留まりません。運転手の休息期間(退勤時刻から次の出勤時刻までのインターバル)も国の規制があるためです。遅延により今日の退勤が遅れた運転手は、明日の出勤を遅らせないといけないケースが生まれます。
「新幹線で運転手を送り込む」羽目にならないために
2024年4月、バスの運行管理の要諦である国の告示「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(通称:改善基準告示)」が改正されました。「2024年問題」などと呼ばれ、メディアでは、1年間、1か月間の拘束時間の上限が厳格化された点が注目されました。
しかし実際には、休息期間(勤務インターバル)が「継続8時間以上」から、「継続11時間を基本とし9時間を下回らない」に拡大されたことの方が、バス業界への影響は大きかったといえます。
当然ながら、ある運転手の翌日の出勤時刻を遅らせた場合、当初予定していたシフトは誰かが乗務しなければならないため、営業所の運行管理者は、他の運転手に早めに出勤するよう電話で依頼するなど調整に追われます。
また高速バスの片道300~400km程度の路線では、従来「午後出勤で、目的地に到着後、仮眠施設で宿泊し、翌朝の便で戻ってお昼上がり」とか「早朝便で現地に向かい午後は仮眠を取った後、夜行便で戻ってくる」という「2日勤務」が主流です。東京~仙台、新潟、名古屋や、大阪~広島、松山などの路線が該当します。
改善基準告示は、運行計画ではなく実績に対して適用されます。往路が遅延した場合でも、目的地での開放時間(目的地側の車庫に入庫し勤務終了してから次の勤務開始まで)は最低でも9時間確保しないといけません。慌てて代わりの運転手を新幹線で送り込むようなケースを防ぐため、あらかじめ運行ダイヤや勤務シフトの組み換えを余儀なくされる例が相次いでいます。
特に「明け」と呼ばれる2日目は、朝または昼に仕事が終わることが多く運転手に好評のシフトだっただけに、少し残念な気もします。
なお、事業用バス(路線バス、高速バス、貸切バスなど)の運転手はいわゆる会社員ですので(法令で日雇いや派遣は禁止)、遅延した結果、拘束時間が所定労働時間や法定労働時間を上回ると、残業手当や時間外労働手当などの対象となります。