日本が誇る飛行艇「US-2」なぜ空中消火に使わない? 過去にはテストまでしたのに… “最大の壁”とは

不動産売却ニーズ高まる 背景は

山林火災が多発する季節。海外では飛行艇や改造飛行機が空中消火で活躍しています。一方で、なぜ日本の飛行艇「US-2」は消防機として使われないのでしょうか。そこには日本の山火事に潜む “特殊すぎる事情” が影響していました。

高性能な国産飛行艇が消防飛行機にならないワケ

 日本では、冬から春にかけての季節に山林火災が増え、近年では件数こそ減っているものの、2025年に岩手県大船渡市で発生した火災のように大規模化する傾向があります。

 海外の山林火災においては、旅客機を改造した大型の消防機や消防飛行艇が空中から広範囲に水や消火剤を撒くなどして活躍していますが、日本が誇る高性能な飛行艇US-2は消防機として使えないのでしょうか。実現できない背景を調べてみると、日本ならではの事情が関係しているようです。

 日本でも消防飛行艇を採用しようという動きがなかったわけではなく、1970年代後半にはUS-2の先祖にあたるPS-1対潜哨戒飛行艇の試作1号機(5801号機)を消防機に改造し、東京消防庁が複数年にわたって実験をした記録があります。消防庁はPS-1のほかにも、1974年にカナダからCL-215消防飛行艇を呼び、茨城県の水戸射爆場(現:ひたちなか海浜公園)で空中消火の実験を実施しています。

 また、US-2においても消防飛行艇に改造した場合の特性を調べるため、JAXAの風洞で模型を使った試験まで行っています。しかし、いずれのケースも消防飛行艇は不採用となりました。

 なぜ、PS-1やUS-2を消防飛行艇にすることができないのでしょうか。理由のひとつには、コストパフォーマンスの悪さが挙げられます。

 US-2の1号機(9901号機)が初飛行したのは2003年のことです。その後、各種試験を経て2007年より部隊運用が始まりましたが、2026年3月現在で9機しか作られていません(2025年度予算で10号機を発注済み)。およそ2~4年に1機のペースでしか作られておらず、製造コストの高い機材となってしまっています。

US-2ならではの理由

 また消防飛行艇として運用するには、胴体内に消火剤タンクや着水している時にタンクへ水を汲み上げるポンプを装備する必要があります。ただ、これらを装備すると、それだけで胴体内部はいっぱいになってしまい、救難飛行艇と兼務することは事実上不可能になります。

 では、PS-1の1号機のように、新造機と入れ替わりに退役する機材を改造する、という形ではどうでしょうか。海上自衛隊における現在の調達ペースが変わらなければ、2~3年に1機ずつ消防飛行艇に改造が可能となり、新造するよりはコストが圧縮できます。

 すると今度は、運用面での問題が出てきます。前述したPS-1を改造した消防飛行艇の実験では、実験主体は東京消防庁だったものの、飛行艇のパイロットが在籍していないこともあり、運用は海上自衛隊が担当していました。

 現在、US-2を運用している海上自衛隊の第71航空隊では、訓練時間などを確保するため、かつては小笠原諸島などでの急患輸送を目的として、神奈川県の厚木基地に常に1機派遣していた体制を改め、すべて山口県の岩国基地で対応するようになっています。飛行艇のパイロット養成や技量維持の訓練は時間がかかり、これに消防飛行艇の任務をプラスすることは、難しいといわざるを得ません。

 US-2は、外洋でも離着水できる優れた性能が持ち味です。しかし海水は塩分が植物を枯らしてしまうため、山林火災での空中消火では周囲の植生に悪影響を与えないよう、なるべく淡水であることが望まれます。

 ところが日本の湖沼を見渡してみると、大型の飛行艇であるUS-2が安全に離着水できるような広い湖は数えるほどしかありません。せっかくの高性能を持て余してしまう可能性が高いのです。

消防機の運用を阻む日本の山林火災の特殊事情

 US-2を消防飛行艇とすること以外にも、通常の輸送機に空中消火キットを積み込んで消防機とする方法があります。ロシア軍やアメリカ軍では、輸送機に搭載する空中消火キットが存在し、Il-76輸送機やC-130輸送機などが山林火災の消火活動に活躍しています。

 アメリカ軍が採用しているものは「モジュラー型空中消防システム(Modular Aerial Fire Fighting System)」の頭文字をとって「MAFFS」と呼ばれ、タンク内に3000ガロン(約1万1300リットル)の消火剤を入れることが可能です。

 また、空中消火を担当する民間会社も存在し、旅客機を改造して消火剤タンクを装備した消防機が世界各地の大規模山林火災に出動しています。

 代表的なものには、DC-10の胴体下部に消火剤タンクを取り付けた10タンカー・エアキャリア社(アメリカ)の「エアタンカー(タンク容量9400ガロン=約3万5600リットル:最大放水能力約4448リットル/秒))」、ボーイング737の胴体内に消火剤タンクを装備したクールソン・アビエーション(カナダ)の「ファイアライナー(タンク容量4000ガロン=約1万5000リットル:最大放水能力8328リットル/秒)」などがあります。

 しかし、これら大型の消防機は、日本の山林火災には向いていません。この記事の冒頭で「日本では」と書きましたが、実は海外における山林火災の多発シーズンは春~秋で、とくに高温と乾燥に見舞われる夏が発生のピークとなっています。外国と日本を比べると、我が国の山林火災は「特殊」なのです。

 総務省消防庁や林野庁の統計データによると、日本の山林火災は6割ほどが「人為的な失火」が原因とされています。焚き火やタバコの火の不始末、さらには野焼きの炎が想定より大きく燃え広がってしまうケースが多く、海外のような高温や乾燥、落雷などによる自然発火は「まれなこと」だといいます。

日本特有の集落事情も

 人為的な失火が原因ということは、火災が発生する山林も人家に近い場合が多く、いわゆる「里山」と呼ばれるような場所で起きているのが、日本の山林火災の特徴といえるでしょう。2025年に発生した大船渡市の山林火災も、集落内の火災が山林へと燃え広がったものでした。

 燃えている山林と人家や農地が近接している状況は、大型消防機による空中消火を難しくさせます。

 ただでさえ数百km/hで飛行している機体から、積載する消火剤が毎秒4~10t近い勢いで投下されると、地上に落ちる際の衝撃はかなりのものになります。民家に当たると屋根を破壊する危険がありますし、田畑の作物にも悪影響を与えるでしょう。

 そのうえ小回りも効きませんから、近接する集落を避けつつ消火をすることも困難です。大型の消防機は、広範囲に広がった山林火災において大きな消火能力を発揮しますが、日本では集落が近いぶん、性能が過剰になってしまうのです。

 集落近くで発生することが多い日本の山林火災では、地上から消防車がホースを繋いで消火できるという利点があります。地域外の消防隊にも応援を仰ぎ、人海戦術で消火活動をするのが実情に即しているのかもしれません。

 なお、空中消火については、ヘリコプターに吊るした大型のバケツ(製造メーカーの名前から「バンビバケット」とも)で、ピンポイントに狙って消火する方が向いているといえるでしょう。

 大規模な火災の上空では強烈な上昇気流が発生し、ヘリコプターがホバリングしながら飛行するのは難しいのですが、防災・消防ヘリや自衛隊のパイロットたちの高い操縦技術で空中消火活動を実現しています。

 こうした理由から、日本では、独自開発した高性能な飛行艇があるにもかかわらず、国産の消防機は生まれていないのです。