中国初の実用ジェット旅客機「C909」は、日本人にとってナゾの多きモデルです。実際の現場の評価はどうなのでしょうか。この機を運航する機長に直接話を聞いたところ、意外な回答が得られました。
インドネシア航空会社による中華製旅客機の評価
インドネシアのトランスヌサ航空は、中国の航空機メーカーであるCOMACのリージョナルジェット機C909を運航しています。この機体はかつて「ARJ21」の名称で開発され、2007年より生産が始まった中国初の実用国産ジェット旅客機です。ただこのモデル、機体自体が飛来することもない日本では“ナゾが多い旅客機”ということができるでしょう。実際の評価は、どのようなものなのでしょうか。
近年、COMACは中国の航空機メーカーとして注目を集めていますが、海外での商業運行に必須な欧米の形式証明(TC)を取得していないため、同社の機体を運航しているのは中国国内の航空会社が主体であり、トランスヌサ航空はその中でも珍しい航空会社といえるでしょう。
2026年2月にシンガポールで開催された「シンガポール・エアショー2026」において、トランスヌサ航空は自社のC909を会場に持ち込んで、機内公開をおこなっていました。
今回、筆者はその機内公開に参加し、同時にトランスヌサ航空の機長からC909についての意見を聞くことができました。
トランスヌサ航空機長にC909の評価を聞いたところ、真っ先に指摘したのはこの機体の操縦が容易なことでした。機長は、C909以前にはボーイングの737-500という1980年代に開発されたクラシック・ジェットを操縦していたそうです。
コックピットは現代機基準の装備
C909は操縦装置が電気信号と油圧アクチュエーターで動作する「フライ・バイ・ワイヤ(FBW)」が採用されており、操縦桿の操作感覚は「FBWのおかげで、操縦桿の動作は軽くてソフトで操縦しやすい」(トランスヌサ航空機長)とのこと。また、コックピットも大型モニター中心のグラスコックピット化されており、パイロットの運行上の負担もずっと少ないそうです。
FBWやグラスコックピットは最近の旅客機では珍しいものではありませんが、737-500のような古い機体を運行していたパイロットにとっては操縦のし易さが改善し、運航全体での大きな負担軽減だといえます。
また、比較対象の機体が古すぎるようにも思えますが、トランスヌサ航空のような海外の小規模な航空会社では、機齢も高いクラシック機を主力機とすることは決して珍しいケースではありません。そうした航空会社のパイロットにとっては、C909が先進的な機体であるという評価は妥当といえるでしょう。
さて、中国製品のイメージとして真っ先に思いつくのは「安さ」です。しかし、C909のコストについて機長に聞くと、その答えは単純に安いというシンプルなものではないようです。
「コストを737と比較した場合、機体自体は安いでしょうが、運用コストについては同じくらいだと思います。燃料消費量は1時間あたりで1800~2000kgで航続距離はC909の方が上ですが、客室の座席数は89席で、これは737-500よりも少ないです。その結果1人あたりの運賃は高くなります」(トランスヌサ航空機長)。
また、C909は新造機ゆえに機械的なトラブルも少なく、その点も運航上の大きな利点になっているそうです。「私がかつて操縦していた737は第2世代のクラシック・ジェットであり、その古さのために整備上の問題が多かったです。それと比べればC909はトラブルが少なく、信頼性も高い機体だといえます」(トランスヌサ航空機長)。
比較対象が737-500ということも除いても、機長のC909に対する評価は、リージョナルジェット機としては一定の水準にあることは間違いないといえるでしょう。
特に座席数の少なさによる運賃の上昇は認めつつも、導入コストの安さと新造機としてのトラブルの少なさは、航空会社の運用機としては評価されているといえます。
中国が国際的航空機メーカーになるための最初の一歩?
トランスヌサ航空の機長は高い評価をしているC909ですが、現実問題として同社のように海外の航空会社がこの機体で商業運航するのは簡単なことではありません。
そもそも、トランスヌサ航空の導入自体が、中国政府の支援やCOMACとして最初の海外カスタマーの実績造りとして、特例的に行なわれた部分もあります。
また、トランスヌサ航空はCOVID-19パンデミックの影響による業績不振から、2020年に一度運航を停止しましたが、その後は中国資本の投資会社から支援を受けて事業を再開。形式証明(TC)についても、中国のCAAC(中国民航局)の型式証明を元にインドネシア運輸省(DGCA)が自国審査を行なう形式で行なわれていますが、これは両国間の経済協力の深まりが影響したと考えられます。
C909の導入は、純粋に同機の性能だけで決められたものではなく、こうした会社や政治的な背景も後押ししたといえるでしょう。
COMACは現在、リージョナルジェット機のC909と、中型旅客機のC919を生産しており、さらに大型の300席クラスのC929の開発も進めています。ただ、ボーイングやエアバスのような大手航空機メーカーと比較すると、国際的な商業運航は形式証明(TC)の問題から不可能であり、機体構成部品の多くを海外企業に依存するサプライチェーンの問題も指摘されています。
しかし、それら問題点を理由に停滞することなく、中国の国内航空会社への販売で製造ラインを回し、政治や経済的なコネクションを活用して海外カスタマーを増やす姿勢は、中国企業らしい攻める姿勢であり、その積み重ねがCOMACの今後の成長に繋がっていくといえます。仮に今後10年、20年でCOMACが世界的な企業に成長した場合、トランスヌサ航空のC909の導入は「最初の一歩」として大きく評価されるかもしれません。