韓国メディアの「朝鮮日報」英語版は3月3日、UAE(アラブ首長国連邦)が韓国製地対空ミサイル「M-SAM ブロックII(天弓II)」を実戦で使用し、イラン製ミサイルを複数撃墜したと報じました。
イラン攻撃の渦中で初使用 韓国製パトリオットの正体とは?
韓国メディアの「朝鮮日報」英語版は3月3日、UAE(アラブ首長国連邦)が韓国製地対空ミサイル「M-SAM II(天弓II)」を実戦で使用し、イラン製ミサイルを複数撃墜したと報じました。この報道を裏付けるUAE軍やアメリカ軍からの公表発表はありませんが、この報道が事実だとすれば、これは韓国製地対空ミサイルにとって初の実戦デビューであり撃墜実績ともなります。
M-SAM ブロックIIは韓国の防衛開発庁(DAPA)が開発したもので、ミサイル本体をLIG Nex1、レーダーをハンファ・システムス、発射機とそれ以外をハンファ・エアロスペースが生産している韓国製地対空ミサイルです。最初のモデルであるブロックIは2015年から韓国空軍で運用が始まり、ブロックIIは韓国空軍の他にUAEに輸出され、さらにイラクとサウジアラビアでの導入が決まっています。
発射機は4軸式トラックに輸送起立発射機(TEL)で8発のミサイルが搭載されています。ひとつのミサイル中隊に4両~6両のミサイル車両が配備され、これにAESA型多機能レーダーを搭載したレーダー車両と、射撃指揮を行なう交戦統制車、それに数量の補給車が同行します。
ミサイルはデータリンクによる中間誘導とアクティブレーダーホーミングによる終末誘導で目標を攻撃し、航空機やミサイルだけでなく、高高度から飛来する弾道ミサイルに対する迎撃能力も持っているのが特徴。最大射程は航空機に対して約50km、弾道ミサイルに対して約20kmとなっています。
M-SAM ブロックIIはアメリカ製で日本の航空自衛隊も導入しているパトリオット防空システムと性能・任務が類似しているため、両者が比較されることが多く、海外メディアなどでは韓国版パトリオットミサイルなどと呼ばれることもあります。
しかし、驚いたことに、その開発過程ではアメリカのライバルともいえるロシアの技術が使われていました。
開発に深く関わったロシアなのなぜ?
「なぜロシアの技術を韓国が?」という疑問の答えは1990年にソビエト連邦が崩壊しロシア連邦が成立したことにさかのぼります。
この時代、ロシアは韓国に対して約14億ドルもの債務があり、その返済のために軍事資産の売却を行ないました。T-80U戦車、BMP-3歩兵戦闘車、イグラ歩兵携行地対空ミサイル、Ka-32ヘリコプターなどがロシアから韓国に売却され、T-80UやBMP-3は現在でも韓国陸軍において仮想敵部隊として運用され続けています。
2000年代には兵器ではなくそれを構成する軍事技術そのものを提供するようになり、ロシアの防衛企業アルマズ・アンテイ設計局は、地対空ミサイル9M96ミサイル(S-350やS-400地対空ミサイルシステムに使われている)の技術を提供し、それを元に韓国の国防科学研究所(ADD)と国内防衛企業によってM-SAM ブロックIは開発されました。
M-SAMに採用されたロシアの技術は外見からでも分かります。ミサイルが発射されたときに、ミサイル本体が点火されずに発射機から打ち出され、空中で点火してから飛翔していきます。これは「コールドローンチ方式」と呼ばれるもので、本ミサイルのベースとなった9M96ミサイルも同じ方式で発射されるため、これらが同系統の設計思想を持っているというのが分かります。
今回の報道が明らかにした韓国製兵器の強み
現在はアルマズ・アンテイ設計局との協力関係は終了していますが、M-SAM ブロックIに関するすべての技術は韓国企業によってローカライズされており、M-SAMシリーズは韓国製国産兵器として自由に改良・生産し、さらに輸出までが制約なく可能となっています。
今回のM-SAM ブロックIIのUAEの活躍は、ミサイル自体の性能を証明しただけでなく、海外マーケットにおける韓国防衛産業の強みも同時に証明したといえるでしょう。それは韓国兵器の納入・運用開始までの速さです。
UAEがM-SAM ブロックIIの導入の正式契約を結んだのは2022年。そして、実際にUAEに納入されたのは2024年で、その後UAE軍は運用部隊の訓練を開始しました。つまり、約4年という短い期間で国内に部隊組織させ、それによって今回のイラン危機においては防空システムとして実際に機能させることができたのです。
ロシアによるウクライナ侵攻以降、欧州を中心に実戦に備えた軍備拡張の流れが起きていますが、現在の各国の防衛産業の生産能力はそれに対して不足しており、導入を決めても配備までに時間が掛かっているのが実情です。
近年、韓国製兵器の兵器輸出が好調なのは、兵器の安さや性能だけでなく、こうした国際的な兵器需要に対して比較的早い速度での納入されることであり、今回のUAEのM-SAM ブロックIIの実戦記録は、兵器そのものだけでなく、韓国防衛産業全体にとっても大きな影響を与えると思われます。