中古の「ベスパ」が1000万円も!? 旧車バイクの価格がここまで高騰する理由とは?「結果的に自分たちの首を絞める」と専門店

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現在、二輪・四輪を問わず輸入・国産旧車の値段が急騰しています。一見、「各モデルの現役時代を知る人たちによる大人買い」の影響かと思いきや、実際にはさまざまな背景があるとか。そんな旧車高騰問題を伝説の鉄バイク「ベスパ」を中心に見ていきます。

「コンビニパンの価格が倍になった」ことと同じ現象が起きている

 バイク、クルマの歴史を振り返ってみると、多彩なモデルが登場したのは1960年代後半から1980年代前半にかけてのことです。珍車も多く存在する一方、歴史に残る名車が特に多く生まれたのもまたこの時代でした。

 これら40年以上前の乗りものは「旧車」と呼ばれますが、ここ数年で国産車・外車問わず、旧車が高騰しています。特に、いまだ根強いファンを持つベスパの鉄スクーターモデルのうち、コレクタブルな車種によっては1台1000万円オーバーで取引される例もあるとか。

 しかし、そもそもどうしてこんなに旧車が高騰しているのでしょうか。東京・亀戸にある老舗ベスパ専門店「東京ヴェスパ」に尋ねました。

 筆者は当初、「各モデルの現役時代を知る人が、比較的お金を自由に使える世代になり、『大人買い』のニーズが増えた。その一方、個体数には限界があるから高騰化が進んでいるのではないか」と思っていました。しかし、「東京ヴェスパ」のメカニック、大橋あつしさんによると、そうした単純な話ではないと言います。

「古いベスパに限って言うと、ほんの7〜8年前より個体の価格が2〜2.5倍になっています。ただ、これには理由があります。

 80年代中盤~90年代まで、スモールフレームのハンドチェンベスパは、日本だけガラパゴス状態でした。ベスパを生産するイタリアのPIAGGIO社は、世界的に生産がとっくに終了しているモデルを、日本のインポーターのオファーを受けて、日本国内だけに新車の生産と販売をしていました。こういった事情が、海外の中古車バイヤーにとっては魅力でした。また、それ以前の旧型のベスパも比較的状態が良いものが多かったことから、海外の中古車バイヤーが『日本のベスパは安い』と目をつけ、ごっそり買って自国へ持って帰るケースが増えています。

 それによって日本国内の個体数が減り高騰化が進んだことに加え、ヨーロッパを含めた海外の情報が日本でも簡単に手に入るようになり、『世界での価格(本来の相場)』になったということもあります。

 あとは、為替や物価高騰の影響もあります。7〜8年前からジリジリと『円』が弱くなって『ユーロ』が強くなっていき、そして日本国内では物価高騰もありました。その影響で、かつてなら100万円で買えた個体が、今は200万円とか250万円とかになっているというわけです。かつてコンビニで80円で買えたカレーパンが今は160円になっている、みたいなことと同じなんです」(大橋さん)

 一方、外車であるベスパに限らず、国産車はどうなのでしょうか。大橋さんによると、いわゆる「名車」と呼ばれる車両の場合、同じ現象が起きているといいます。

「みんなが知っている名車だと同じことが起きていますよね。国産車であっても、ハコスカみたいな世界中の人が欲しがるクルマだと、やはり『世界での価格』が基準になってくるので、どうしても高騰傾向は避けられないでしょう。

 また、旧車には『コレクションする』という指向と『今の交通事情に合うように、直しながら乗る』という指向の2つがあります。後者の場合、お金をかけようと思えばいくらでもかけられるわけですが、そうやってお金をかけられた個体は、どうしても高騰で取り引きされる傾向はあります」(大橋さん)

「個人売買の値付け」と「専門店での値付け」の違い

 今は個人売買サイトが浸透して、旧車の売買も盛んです。こういったことが、旧車高騰に拍車をかけていることはないでしょうか。この点についても大橋さんに伺ってみると、「旧車の高騰には直接影響はしないものの、間接的に、“旧車文化”の寿命を縮めている」との指摘が。

「まず、個人で旧車を売られる方が、『販売価格の指標』とするのは、おそらく『専門店でいくらで売られているか』だと思います。ただ、ここで『個体が少ない希少車』ということで、専門店と同等の価格をつける個人がいて、そして買う人もいる。でも個人売買にはプロ的なメンテはされておらず、それでもザックリと『専門店と同等の価格』で販売しているわけです。

 一方、『販売価格の指標』とされた僕らのような専門店は、買ってくれたお客さんが困らないようにメンテなどをしっかり行った上で、それらのコストも価格に乗せて販売しているので、本来は個人売買と同じ価格であるはずがないんです。

 そういうギャップがある中で、専門店並みの価格での個人売買が盛んになると、結果的に買った人が扱い続けられなくなったり、処分したりすることもあるので、個人的には旧車文化全体としては寿命をどんどん縮めていっているように感じることはあります」(大橋さん)

 ちなみに冒頭で触れた「ベスパ1台1000万円オーバー」は、1946(昭和21)年に市販化されたベスパ98に対し、ヨーロッパのコレクター間で実際にあった取り引き価格だそうですが、この場合に限っては、よくある個人売買とは異なる性質があると大橋さんは言います。

「圧倒的にモデルの個体数が少なくて、『映画に出た』などのなんらかのストーリーを持つベスパの場合は、個人売買の域を超えていて、所有者の言い値で取り引きされることが多いです。こういった個体は、僕らのような専門店にはまず入ってこなくて、コレクター間で取り引きされます。なので、ここで言う『個人売買の値付け』とはまた違う性質のものではあります」(大橋さん)

ベスパの値付けはかなり慎重…!「ときに赤字でも販売する」理由とは

 大橋さんによれば、ヨーロッパから古いベスパを輸入・販売する際、値付けに注意して、ときには涙を飲んだ価格設定をすることもあると言います。

 本来、乗せるべきコストをそのまま乗せた金額で販売すれば、現状の販売価格以上の金額になることがあるそうですが、そのことで前述のような個人売買相場まで上げてしまうと、結果的に自分たちの首を絞める格好にもなるからだそうです。

「たとえば、うちで200万円で販売しているベスパの中には、ヨーロッパでの購入価格がすでに200万円を超えているものもあるんです。それを費用をかけて輸入し、メンテなどの手間をかけて販売するわけですが、本来なら掛かった分に儲けを加えて売りたいところです。でも、それをしないで、あえて赤字で販売することもあるんです。

 その個体にかかったコストをそのまま乗せてしまうと、個人売買も含めて市場全体の相場を上げることとなり、結果的にベスパ文化を後退させ、結果的に自分たちの首を絞める結果にもなりかねません。そのため非常に慎重に価格設定を行い、モデルによっては赤字で販売することもあります」(大橋さん)

 赤字にも関わらず販売をして、得られるものとは一体なんなのでしょうか。大橋さんに聞きました。

「要は、販売させていただいた車輌の維持費で収益に繋げられればと思う一面と、できるだけ市場での価格高騰を抑えることで、新規のお客さまに対しても、価格的に「なるべく入りやすい趣味」として、日本でのベスパ文化を絶やすことがないように、とも考えています。

 どんな商売でもウハウハと儲けられる時代ではないですから、せめて僕らが長年培ってきたベスパで、『ご飯を食べられるくらい』稼がせてもらえれば良いなと思っています」(大橋さん)

 旧車高騰の今の理由をようやくわかった気がしましたが、この時勢を受け、大橋さんは「クラシックベスパに関しては今は過渡期だ」とも言います。

「個人売買によって、『扱えないから処分する』みたいに、結果的にベスパの個体が減っていく心配がありますが、そうならないよう、うちで販売するベスパには、より一層お客さんのサポートを行っていくべきだと考えています。結果的にそれが自分たちの食い扶持になり、ベスパ文化の継承になりますから。

 その一方、たとえば若い世代でベスパのことをまだよく知らなくても『カッコ良いな』と思う人にも、より間口を広げる時期だとも思っています。僕が若かった頃、ベスパを好きになって乗り始めたわけですけど、トラブルが起きた際、お店に修理に出すと相応の費用がかかります。でも、若くてお金がないから修理に出せなくて、色々調べたり先輩に教わったりしながら、必死に自分で修理をしたものです。

 そういった経験があるから、今も若いお客さんが修理依頼に来ると『お金ないんだろう。自分の持ってる工具を全部店に持ってこい。教えてやるから、自分の工具を使って自分で修理してみなよ』と、無償で教えることもあります。

 現在、古いベスパに乗っている従来のファンへのサポートだけでなく、ベスパに慣れない若いお客さんに対しても間口を広げて、『ベスパに乗る、ベスパを維持すること自体を楽しむ』といったことを、改めて伝えていく時期にきているとも思っています」(大橋さん)