「最強最長」と言われた寒波の日も運行し、“最強伝説”がささやかれる夜行高速バスがあります。雪に強い理由や驚異的な輸送実績、そして筆者が昼間に目撃したバスの正体を探ります。
ある意味で夜行バスの「キング」!?
「最強最長」と言われた2026年1月の寒波の日も休まず東京と東北地方の間を運行し、“最強伝説”もささやかれる夜行高速バスがあります。強さの源泉を、本社がある地元で垣間見ました。
「キングオブ深夜バス」の異名を持つのは、西日本鉄道の夜行高速バス「はかた号」(福岡・北九州―バスタ新宿)ですが、雪の日でもしっかりと走る“最強伝説”を持つ夜行高速バスが「夕陽号」です。
夕陽号は庄内交通(山形県鶴岡市)が国際興業(東京)と共同運行し、山形県・庄内地方の酒田・鶴岡と東京を結んでいます。酒田市ではJR羽越本線酒田駅前など、庄内町では余目駅前、鶴岡市では鶴岡駅から徒歩約10分のエスモールバスターミナル、山形自動車道鶴岡ICに近い庄内観光物産館にそれぞれ停車します。
バスタ新宿と結ぶ路線が毎日1往復、渋谷・東京ディズニーリゾート(TDR、千葉県浦安市)とつなぐ路線が毎週木・金・土・日曜出発でそれぞれ1往復。所要時間は新宿線が8時間半余り、渋谷線はTDRまで乗りとおすと10時間程度に達します。
そんな夕陽号ですが、筆者(大塚圭一郎:共同通信社経済部次長)が「最強最長」と言われた2026年1月下旬の寒波に鶴岡市の停留所でバスを待っていると、真っ昼間なのに黄色い車体に「夕陽」と記したバスが入ってきました。「早朝と夜にしか立ち寄らないはずの夕陽号がなぜ!?」と一瞬驚きましたが、それにはワケがありました。
地元でも知れ渡る? 最強伝説
1月下旬の訪問時は、大雪の影響によってJR東日本の白新線と羽越本線を通る特急「いなほ」(新潟―酒田・秋田)など一部列車のダイヤが乱れたり、全日本空輸(ANA)羽田―庄内線の一部便が欠航したりし、筆者は東京に戻れないのではないかと疑心暗鬼になっていました。
立ち寄った鶴岡市のレストランの店員に状況を話すと、「高速バスならば、この雪でも絶対に走るはずですよ」と耳打ちしてくれました。それが夕陽号のことで、“最強伝説”は地元でも知れ渡っているようです。
確かに筆者がその日に雪の積もった鶴岡市内を移動した時も、庄内交通の赤く塗られた車体のいすゞ自動車「エルガミオ」の路線バスも、白色と黄色のツートーンをまとったトヨタ自動車「ハイエース」を使った鶴岡市内循環バスもしっかりと運行していました。
筆者ならばハンドルを握るのが恐ろしくなる雪道も安定して走り、安全運行で目的地の停留所まで送り届けてくれました。このため夕陽号が雪の日にも強い一因は、雪道での走行にも慣れた運転手の技量なのだと認識しました。
「最後に運休したのいつですか…?」
東京に戻っても筆者の脳裏に焼き付いたのが夕陽号の“最強伝説”です。事実確認のため庄内交通に後日問い合わせたところ丁寧に答えてくださり、筆者の想像を超える驚きの結果が浮かび上がりました。
なんと夕陽号は「最強最長」の寒波が襲来した2026年1月も含め、26年に入ってから「運休なし」ということでした。それどころか、25年は1年間を通じて運休が皆無の“皆勤賞”だったのです。
それでは、直近の運休がいつだったのでしょうか。この点を質問すると「2024年8月11~12日で、台風5号の影響で運休しました」と教えてくれました。
すなわち、2024年8月13日以降は1年半余り運行し続けているのです。自然災害が後を絶たず、冬には雪が深い東北地方と結ぶ長距離バスとしては驚異的で、“最強伝説”が伝えられるのも納得です。
輸送人員にも表れている「最強伝説」
夕陽号の酒田・鶴岡からの運行経路は、国道112号「月山道路」区間を含めた山形自動車道、東北自動車道を通って都内に入ります。ただし、東北自動車道の一部が通行止めになるなどの事態が発生することもあります。
庄内交通によると、そのような場合には「関越自動車道に迂回する場合もあります」と説明しました。道路状況も把握した上で柔軟な運行をしていることも“最強伝説”の秘訣のようです。
ただ、夕陽号について教えてくれたレストランの店員は「いつも満席みたいなので、今からだと予約できるかどうかは分からない」とくぎを刺しました。
輸送人員についても庄内交通に質問したところ、この結果も驚異的でした。共同運行会社の国際興業が運行する便を含めて2026年1月に上下108便を運行し、輸送人員は2545人、すなわち1便当たりの平均乗車人数が23.6人に達するのです。
庄内交通が運行している標準的な車両は26席、国際興業の車両は27―28席のため、ほぼ満席なのが恒常化している人気路線だと言えます。
「あ、ぜんぶ“夕陽”です」
筆者が午前中に鶴岡市内を走る路線バスに乗るために庄内観光物産館停留所で待っていると、夕陽号のバスと同じように黄色い車体に「夕陽」と記したバスが入ってきました。三菱ふそうトラック・バスの大型バス「エアロエース」です。ここは夕陽号が立ち寄る停留所ですが、その時刻は新宿発が5時10分、東京ディズニーランド発が5時55分、新宿行きが23時半、東京ディズニーリゾート行きが23時です。
すると、到着したのは仙台駅前行きとの案内があり、高速バスの酒田・鶴岡と仙台を結ぶ路線だと分かりました。この路線は夕陽号や酒田・鶴岡―山形線とともに庄内交通の主力高速バス路線となっており、庄内観光物産館からも20人近い利用者が乗り込みました。
庄内交通は「高速バス車両の共通デザインとして、黄色地に日本海に沈む夕日をイメージしたデザインを使用しており、『夕陽』の文字は地元の書道家の作品です」と説明してくれました。すなわち夕陽号は東京線を指しますが、「夕陽」と言うと庄内交通の高速バス全体を指すのです。なお、夕陽号は座席が3列独立シートの夜行バス仕様なのに対し、昼行の仙台線と山形線は座席が4列で定員40人です。どちらもトイレを備えています。
夕陽号は現在、乗車日によって大人で7800―9300円に設定されています。しかし、2026年4月1日水曜出発便からは変動運賃(ダイナミックプライシング)を導入し、その便の需要に応じて6500―1万5000円の範囲内で変わります。
運賃改定後、上限は現在より5700円値上がりします。2026年4月以降の出発でお得に乗るには、座席がほとんど埋まる前の早めの予約が鍵を握りそうです。