ダイハツ工業が同社初の量産BEVとなる「e-ハイゼット カーゴ」と「e-アトレー」を発売しました。ダイハツが軽商用車からEV市場へ参入した背景と、モデルの特徴について解説します。
ダイハツ車ユーザーの約半数は「働く人」
ダイハツは2026年2月2日、同社初の本格的な量産BEV(バッテリー式電気自動車)となる「e-ハイゼット カーゴ」と「e-アトレー」を発売しました。「軽のBEV」という分野では後発となったダイハツですが、第1弾が商用モデルとなったのは非常に興味深いポイントです。発表会で分かった2モデルの詳細をリポートします。
これまでごく小規模にとどまっていた軽BEVの市場において、初の本格的な量販モデルとなったのは、2022年登場の日産「サクラ」です。また商用の軽BEVでは(黎明期を支えた三菱「ミニキャブ・ミーブ」などの存在もありますが)、2024年にホンダから「N-VAN e:」が発売されています。
こうしたなか、当初はダイハツもN-VAN e:と同時期か、それより少し早くe-ハイゼットカーゴ・e-アトレーを発売する計画でした。ところが直前の2023年暮れに、同社の認証不正問題が発覚。対応のため新車の発売スケジュールが見直しとなり、結果として軽BEVの投入は日産や三菱、ホンダに一歩出遅れる格好となりました。
その一方、乗用車ではなく商用車でBEV市場に参入となったのには、ダイハツならではの戦略と、同社のクルマを愛用しているユーザー層への心配りがあります。
というのも実は現在、国内におけるダイハツ車の販売比率の約半数は「ハイゼット」シリーズをはじめとする商用モデルなのです。企業イメージ向上策として効果的なことやランニングコストの安さもあり、BEVの導入は昨今、個人ユーザーよりも法人ユーザーの方が積極的です。ダイハツには業販チャネルもあるため、ビジネスユーザーとの太いパイプもあります。
またハイゼットカーゴでのBEV市場参入は、商業的な勝機だけでなく、ダイハツやダイハツ車ユーザーが環境問題に取り組んでいることをアピールできるという利点もあるでしょう。ダイハツの井上雅宏社長は発表会で、軽商用車市場にBEVモデルを投入することは「ダイハツとして最もカーボンニュートラルに貢献できる」手段だと強調しました。
使い勝手も性能も「変えない、譲らない」
前述のとおり、ダイハツにはビジネスユーザーとの太いパイプがあり、またハイゼットシリーズはこうした層から熱い支持を受けています。ハイゼットのBEV化にあたってダイハツがこだわったのは、すでに支持されているハイゼットの美点を“変えない”ことでした。
最もわかりやすいのは荷室スペースです。e-ハイゼットカーゴは、ベースのガソリン仕様車と同じ最大積載量350kgを実現しており、また荷室の寸法も一切変わっていません。荷物の載せ降ろしに影響のあるフロア地上高もそのまま同じ寸法で、バッテリーやモーターなどを床下に搭載していても、積載性能がまったく犠牲になっていないのです。
「荷室寸法を変えない」ことにこだわった背景には、もちろんハイゼットの積載能力が支持されているという理由もあります。しかし、狙いはそれだけではないとのこと。
軽商用車のユーザー層には、車内に自ら製作した棚を設置して、自身が仕事で使いやすいようにカスタムしている人もいます。荷室寸法や積載性を一切犠牲にしなかったのは、こうしたユーザーがそのままeハイゼットカーゴに乗り換えられるように配慮した結果でもあるのです。
ダイハツがビジネスユーザーに寄り添っていると感じられるポイントは、バッテリーにもあります。ダイハツが今回採用したリン酸リチウムイオンバッテリーは、安全性の高さのほか、時間経過での性能劣化が少ないのが利点です。そのため、1台を長く使用するユーザーにも優しい設計なのです。
加えて、航続距離はWLTCモードで257km、暖房を使用する冬場などでも最低140kmを確保したといいます。ダイハツによれば 、軽商用バンユーザーの8割は「1日の航続距離が100km未満」と回答しているそうなので、これなら大半のユーザーの使用形態に応えることができます。
また、近年はプライベート用のクルマも兼ねて、軽ワンボックスを選ぶ個人事業主も増えています。そうしたユーザーのニーズも掴むため、ダイハツはe-アトレーも展開します。ハイゼットの実用性はそのままに、両側パワースライドドアなど快適装備も充実しており、乗用車としても利便性の高い1台です。
ダイハツは軽商用車市場において高いシェアを持ち、またダイハツ車の購買層の多くもビジネスユーザーです。e-ハイゼットカーゴの登場によって、例えば軽BEVによるラストワンマイル輸送の発展など、ビジネスシーンにおける軽自動車の電動化が進むかもしれません。