1000人以上が「座れた」!? 空前絶後の“オール2階建て”通勤電車はなぜ消えていったのか 今の時代はもう無理?

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通勤距離が長くなるにつれて高まっていった「着席通勤」へのニーズ。この声に応えて1992(平成4)年に登場したのが、空前絶後の「オール2階建て通勤車両」であるJR東日本の215系電車でした。

「試作型」を投入しながら開発

 1980年代から1990年代頃、電車通勤の距離が長くなるにつれて「着席通勤」へのニーズが高まっていきました。そんな中1992(平成4)年に登場したのが、空前絶後の「オール2階建て通勤車両」であるJR東日本の215系電車です。

 JR東日本が発足した1987(昭和62)年以降、東海道本線では中距離通勤の需要が増え続け、「湘南ライナー」(現・特急「湘南」)などで有料着席列車の座席数確保が求められていきました。

 これを受け、JR東日本は通勤用2階建て車両の研究に着手。1991(平成3)年には、2階建て通勤電車の試作型として415系1900番台を1両製造し、常磐線に投入しました。

 この車両は、2階は2+3列で座席間隔1490mmのボックスシート58席、1階は2+2列で37席という構成。加えて、運転席の後ろと車端部には計21席のボックスシートとロングシートを備え、116人という桁違いの座席定員を実現していました。これは、例えば現在の山手線E235系の先頭車両(ロングシートで座席定員39人)などと比べても驚異的な数といえます。

 415系1900番台の試験的な運行を経て、215系は1992(平成4)年にデビューし、有料座席列車「湘南ライナー」「湘南新宿ライナー」に投入されました。同年にグッドデザイン賞を受賞したほか、日中は座席数を生かし快速「アクティー」にも使用されました。

 1993(平成5)年からは「ホリデー快速ビューやまなし」として、週末などに中央本線の新宿~小淵沢間でも運用されるようになりました(耐寒・耐雪構造でないため冬季は設定なし)。1998(平成10)年には「ホリデー快速ビュー湘南」「ホリデー快速ビュー鎌倉」にも投入されています。

配置は「詰めすぎた」ので改善! 座り心地は?

 JR東日本は215系の座席を検討する際、415系1900番台の実績を踏まえて最終的に2階の2+3列は「詰め込みすぎ」という結論を出しました。そのため215系の2階は2+2列、座席間隔1460mmのボックスシートを採用しています。

 それでもなお、トイレなしの中間車両「サハ214形」の座席定員は120人に達しました。これは、在来線1両あたりとしては最多クラスといえるでしょう。

 なお、215系の座席フレームはフランス新幹線「TGV」の座席を担当するコンパン社が作っています。片持ち式であり、座席下には荷物を置けました。また、211系などの2階建てグリーン車とは異なり、1階・2階とも座席間の上部に荷物棚も設置されています。

 筆者(安藤昌季:乗りものライター)が当時抱いた印象ですが、座席の座り心地は「まぁまぁ」といった具合でした。クッションの品質がなかなか良く、E231系などのボックスシートなどと比べても座り心地に優れていたと記憶しています。ちなみにグリーン車は、211系と同じリクライニングシートでした。

問題は「乗り降り」にあった?

 215系は10両編成で運行され、座席定員は1編成合計で1010人を誇りました。また、実現しなかったものの、当初は5両の付属編成を追加し、15両編成・座席定員1512人で運行する計画もありました。

 ところが、215系の乗降扉は2扉のみと貧弱でした。このため、特に乗客が多い東海道本線では乗り降りに時間がかかり遅延を招くことに。当初計画の15両より短い10両編成となり、停車位置が変わったことも混乱を生みました。

 これにより、215系は2001(平成13)年に快速「アクティー」から外れ、2004(平成16)年には湘南新宿ラインからも撤退。定期運用は、平日の「湘南ライナー」「おはようライナー新宿」「ホームライナー小田原」と、週末の「ホリデー快速ビューやまなし」のみに減りました。

 そして2020年には「ホリデー快速ビューやまなし」が事実上の廃止に追い込まれ、残る通勤ライナーも2021年の特急化に伴い撤退し、215系の定期運用は終了しました。

 215系は定期運用終了後、全車が廃車されました。車両限界いっぱいの車体を活かし、ジョイフルトレインなどに転用されなかったのが惜しまれます。「着席通勤」の理想を斬新なコンセプトで追い求めた215系でしたが、交通バリアフリー法が施行され、ホームドアが普及した今、このような車両はもう現れないでしょう。