8日投開票の衆院選は複数の与野党がスパイ防止法の制定を含むインテリジェンス(情報活動)機能の強化を公約に掲げたのが特徴の一つだ。ただ、高市早苗首相(自民党総裁)は国民に審判を仰ぐ「国論を二分する改革」の一つに挙げたにもかかわらず、演説でインテリジェンス強化に触れることはほとんどなかった。他の推進派の政党の演説でも言及は少なく、論戦は深まらなかった。
「(政策を)がらっと変えた。審判いただくしかない」。6日、栃木県那須塩原市で街頭演説した首相はこう強調したが、例に挙げたのは「責任ある積極財政」だけだった。「重要政策の大転換」を国民に問いたいとして、スパイ防止法制定なども例示した1月19日の記者会見と対照的だ。
自民と日本維新の会の連立政権合意書は「インテリジェンス・スパイ防止関連法制を速やかに成立させる」と明記。自民はこれを踏まえ、公約に「他国の不当な介入を阻止するため、外国代理人登録法等の関連法制を整える」と記した。
しかし、首相は公示後の街頭演説では国家情報局の設置に数回触れたのみで、スパイ防止法には6日までに一度も言及しなかった。
維新は公約で「スパイ防止法を制定し、インテリジェンス機能を強化」と提唱。国民民主党は「スパイ防止を含むインテリジェンス態勢整備推進法の制定」、参政党は「スパイ防止法を整備」、日本保守党は「スパイ防止法の制定」を盛り込んだ。ただ、いずれの党も財政政策や外国人政策を演説の柱に据え、論戦は低調だった。
首相らがスパイ防止法への言及を避けた背景には、論戦が盛り上がれば国民の不安をあおりかねないとの計算があったとみられる。自民は1985年、スパイ防止法案を提出したが、言論や報道の自由、日常生活が脅かされると反発が強まり、廃案になった経緯がある。
中道改革連合はスパイ防止法を巡る立場を明確にしていないものの、本庄知史共同政調会長は「重大な人権侵害を引き起こすリスクがある」と指摘している。共産党は公約で「国民を監視し、基本的人権を侵害する」と反対を表明。社民党は「現代版の治安維持法だ」と厳しく批判している。
〔写真説明〕衆院本会議で、スパイ防止法案の記名投票を行う議員ら。賛成多数で継続審議となった=1985年6月、国会内