2026年1月15日、デトロイトで開催された北米自動車ショーに、アメリカ陸軍が開発中の新型戦車、M1E3「エイブラムス」が初展示され、話題になりました。この戦車は、どのような将来を見据えて開発されたのでしょうか。分析します。
M1E3エイブラムスのサプライズ展示
2026年1月15日、自動車産業の聖地デトロイトで開催されていた北米自動車ショーに、アメリカ陸軍が開発中の新型戦車M1E3「エイブラムス」のアーリー・プロトタイプが展示されて話題になりました。
ただ、モデル名が示すとおり、パッと見は既存のM1「エイブラムス」シリーズの改良型にしか見えません。アメリカ陸軍は、この戦車を開発するにあたってどのような将来を見据えたのでしょうか。分析してみました。
M1E3が誕生する前、アメリカ陸軍は現行のM1A2「エイブラムス」SEPv3(システム能力向上改修バージョン3)の発展型となるSEPv4の研究開発を、2017年8月からスタートさせていました。
ところが2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻(いわゆるウクライナ戦争)の経過と戦訓を新戦車には反映させることが必須となります。とりわけ、ドローン攻撃の威力や、NATO(北大西洋条約機構)諸国がウクライナへ供与した「レオパルト2」などの西側MBT(主力戦車)が苦戦を強いられている事実は、SEPv4では性能不足ではないかと疑いの目を向ける格好の材料となりました。
これを受け、2023年9月に陸軍はM1A2 SEPv4の開発を正式に取り止め、新モデル、すなわちM1E3に移行することを発表しました。それから2年4か月経ち、ようやくその最初の試作車両が公開されたというわけです。
ちなみに、M1E3の「E」とは、アメリカ陸軍の評価慣行で試作/評価段階を表す「Experimental」の略であり、これが制式化されると実用化/量産化段階を意味するAへと置き換わり、晴れてM1A3「エイブラムス」となる予定です。
驚きなのは、このたびデトロイトで展示・公開された車体が、よくあるコンセプト車の先行披露ではないという点です。本来、2031年に想定されていた開発タイムラインを前倒しして、2026年内に陸軍で4両のM1E3「エイブラムス」を実地試験しながら、フィードバックを得ていく方針まで明らかにされました。
そもそも、SEPv4の狙いは個々の戦車性能の底上げでした。暗視装置を最新の第3世代型FLIR(赤外線映像装置)にして、夜間や悪天候下での視認性を向上させること。同時に各種センサーを強化して、周辺の状況をコンピュータが判断して照準に補正をかける能力も予定されていました。派手なフルモデルチェンジではなく、戦車の性能に直結する機能強化を積み上げて、戦車単体の戦闘力の底上げをゴールとしていたのです。
SEPv4からの過激な方針変更
ところが、お披露目されたM1E3が重視したのはまったく別の視点です。まずはっきりしているのが、重量と被弾生残性の再設計です。SEPv4では高性能と引き換えに重量増加が避けられません。
SEPv3の重量67tも補給や運用面で問題になっていましたが、さらに重くなるのは確実です。この点、M1E3では、装甲の再配分/能動防護(APS)統合を前提に、トップアタックやドローン攻撃、電子戦への対応を重視しています。
次が「人機統合」と乗員数の最適化です。簡単に言えば人と機械の連携を見直して、乗員を減らしても戦闘力が低下しない設計にすることです。この考えは、無人砲塔を採用して乗員を3名に抑え、車内の安全配置を強化する取り組みに反映されています。
機構面では、ハイブリッド化や新型トランスミッションの導入で、余剰電力を確保して将来の電子装置の発展に備えること。さらに各種センサーや電子戦装置は交換可能な差し込み式にして、従来型戦車のように、改修のたびに大がかりな作業やコストをかけずに済む仕組みを最初から目指しています。
このような新要素をつなぐキーワードが「Modular Open Systems Architecture」、略して「MOSA」です。日本語にすると「モジュール化開放型システム構造」と堅苦しいですが、戦車としての各種機能をオープンな規格のモジュールにして、差し替えや拡張を容易にする仕組みです。
たとえるなら、USB-Cコネクターをたくさん用意しておいて、新機能のデバイスを随時差し替えてアップデートしていくようなイメージです。SEPv4を否定するのではなく、良い点は残しつつ、より安価で迅速に、かつ段階的に着実に採り入れ可能な仕様に改めるのが狙いと言えるでしょう。
したがって、デトロイトに登場したM1E3は、完成形ではなく、これからもどんどん進化していく途中の戦車と見るべきです。そのため、ひょっとしたら1年後には新たな姿で展示されるかもしれません。