「このバスの色、どこかで見たことがあるぞ…」不思議なバスが集まる“島”のなんともおおらかな世界

世界自然遺産に登録されている奄美大島で、見覚えのある塗装のバスが走っています。全体的には違う塗装、しかし確かに「見覚えがある」――そんな絶妙なバスが走る島を旅しました。

地域密着の面白い停留所名が続々…

 世界自然遺産の登録地域を擁する鹿児島県の離島・奄美大島には、島を運行することから「しまバス」と名付けられた路線バスが走っています。「しまバス」は社名でもあり、奄美市に本社を置いて路線バスのほかに観光バス、貸し切りバスも手がけています。

 筆者(大塚圭一郎:共同通信社経済部次長)が停留所で待っていると、「どこかで見た色」のバスがやって来ました。その塗装には納得の理由がありました。また、バスで島内を巡るとユニークな停留所が次々と出現しました。

 奄美大島の「空の玄関口」の奄美空港(奄美市)には、日本航空(JAL)の羽田空港線や、鹿児島空港と結ぶ日本エアコミューター(JAC)やスカイマークの便が発着しています。奄美空港から奄美市中心部の名瀬へ向かったり、島内を移動したりする足として重宝するのが「しまバス」です。

 奄美空港からは奄美市中心部へ向かうバスが6時50分から18時47分まで出発しており、日中はほぼ30分おきにあります。空港利用者には大きな荷物を抱えている旅行者が多いため、中型バスを運用していました。

 途中では、地域密着の施設名から付けられた面白い停留所名が相次いで出現します。「ばしゃ山」(奄美市)は近くにあるリゾートホテル「奄美リゾート ばしゃ山村」に、「ビッグII前」(龍郷町)はスーパーマーケット「ビッグツー奄美店」にそれぞれ由来します。ビッグII前の二つ先には「だいわ大熊店前」があり、こちらもスーパーの店舗名です。

 奄美市中心部(名瀬)でもランドマークを示す停留所名が相次いで出現し、一例として「しまバス本社前」や「奄美市役所前」、ホテルウエストコート奄美の前にある「ウエストコート前」といった具合です。奄美空港からウエストコート前までの所要時間は55分前後で、運賃は大人1100円です。

「タダ読み歓迎」のバス停も!

 奄美空港から奄美市中心部へ向かうバスは主に「こしゅく第1公園行き」ですが、朝と夕方の計4便は平田町奥又行きです。これら4便はしまバス本社前、ウエストコート前は通りません。

 奄美空港からのバスの行き先になっている「こしゅく第1公園」はどんな場所なのか気になり、筆者はウエストコート前から向かいました。このとき乗ったのは運行距離が短い市街地線で、来たのは白い車体の日野自動車のマイクロバス「リエッセII」です。行き先表示はなく、フロントガラスの運転席脇に「こしゅく第1公園」と記した紙を掲げていました。

 既に乗っていた女性客と筆者の2人が乗客席に陣取ったバスは、鹿児島県道79号名瀬瀬戸内線に出ました。しばらく直進すると、次に止まる停留所を知らせる自動音声放送が「南海日日新聞社前」と告げました。鹿児島県の主要日刊紙は南日本新聞ですが、よりローカルな奄美群島だけを発行エリアとしている地域日刊紙が南海日日新聞です。南海日日新聞社は同紙の公称発行部数が2万余りだとしています。

 右手の窓から南海日日新聞社の建物が視界に入り、県道79号沿いの反対方面の停留所沿いにはガラス付きの屋外掲示板が並んでいます。そこには何と、南海日日新聞の紙面のページが1枚1枚、丁寧に貼られていました。この停留所の乗降客は、新聞の「タダ読み歓迎」という気前のいいサービスを受けられるのです。

 女性客はスーパー「タイヨー朝仁店」の前にある「朝仁タイヨー前」停留所で降り、車内は筆者の貸し切り状態に。三つ先の停留所が終点の「こしゅく第1公園」でした。ウエストコート前からの乗車時間は17分ほどで、後払いの運賃は大人200円と手ごろでした。

 こしゅく第1公園は親子連れらの憩いや、犬の散歩にうってつけな公園でした。「近所にあるよくある公園」というサイズ感で、観光名所というわけではありません。バスが折り返しやすく、公園内には公衆トイレがあるためバスが発着するのに好都合のようです。

隠しきれないバスの「出自」

 しまバスには白い車体が多いものの、車体広告を施したものもあり、さらに関西で見覚えのある塗装もありました。筆者が観光施設「奄美パーク」(奄美市)の停留所で待っていると、先頭部の下部にスカイブルー色、側面がクリーム色と屋根の下にスカイブルーのラインが入った塗装の奄美空港行きバスが現れました。

 白色があちこちに入っているところは異なるものの、色調が「阪急バス」とよく似ているのです。案の定、元阪急バスの三菱ふそうトラック・バスの1998年式中型バス「エアロミディMK」でした。

 しまバスの代名詞となっている白色で車体を塗った部分は、いずれも阪急バスの痕跡を隠していました。先頭部のスカイブルー色の上を白く塗ったのは、「H」の文字内に「HANKYU」と記した阪急バスのヘッドマークを消すためです。また、側面の白く塗った部分には阪急バスのラインと、「阪急バス」の表記がありました。これほど“かくれんぼ”をしても阪急バス時代の名残が消えないのは、阪急バスの特色が個性的なためでしょうか。

行きと運賃が違う!?

 車内は奄美空港へ向かう旅行者のほか、平日の午後だったため学校帰りの高校生も乗っており、かなりの座席が埋まっていました。

 奄美空港の手前で運賃を確認するため、フロントガラスの上に掲げられた運賃表示器を眺めました。手元の整理券番号と突き合わせてから、首をかしげました。奄美空港から奄美パークへ向かった往路は大人200円の運賃を支払ったのに対し、帰路に奄美パークから乗り込んだ際に受け取った整理券番号の「28番」は120円と表示されているのです。往路よりも80円安い計算です。

 間違いがあってはいけないと思い、下車時に運転手さんに「行きは200円だったのですが、この運賃表示器には120円と書かれているのですが」と確認しました。

 すると、運転手さんは「120円でいいです」ときっぱりと言いました。続いて運賃表示器を指さすと「ここ(運賃表示器)に間違って120円と書かれてしまっているので、それより多く取れないのです」と説明しました。

 つまり、運賃は200円に設定しているものの、プログラムミスによって運賃表示器に120円と記されるバスでは120円だけ徴収しているというのです。

 おそらくこのような珍現象は、運賃表示器のシステムを改修する際に是正されるとみられます。ただ、インバウンド(訪日客)のオーバーツーリズムが指摘されている地域で注目されている「二重価格」を、そのような地域以外で、かつ日本人旅行者でありながら体験できたのは貴重でした。

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