防衛省は令和8年度予算案に、護衛艦「いずも」型の改修費285億円を計上しました。この費用には調査研究費も含まれており、その成果は「いずも」型だけでなく、将来の新型艦艇の計画にも活用される可能性があります。
いずも型改修の知見を何に活かすのか?
防衛省は令和8(2026)年度予算案に、海上自衛隊の運用するいずも型護衛艦の改修費として285億円を計上しました。
いずも型護衛艦は航空自衛隊が導入を進めているF-35B戦闘機を必要に応じて運用するため、艦首の形状変更やGPSを用いる精密着陸(着艦)艦誘導装置「JPALS」の追加装備などの改修が行われてきました。F-35Bの運用試験などにより得た知見を基に、艦内配置などの調整に伴う改修の方針を示しており、令和8年度予算案に計上されている285億円の大部分は、この改修に伴う工事費や器材の調達費などに充当されます。
他方でこの285億円の中には、いずも型の改修により得た知見や教訓事項を取りまとめて整理する調査研究のための費用も含まれています。
防衛省・海上自衛隊は、いずも型のF-35B搭乗員の待機区画などの整備について、既にF-35Bを運用しているアメリカ海兵隊などの協力を得て、実際にF-35Bを運用する際の航空機や人の動きの実証試験を行った上で、改修内容を決める必要があるとしています。となると、令和8年度に行われる予定の調査研究で得られる成果は、いずも型の能力向上だけでなく、海上自衛隊や日本政府が導入を検討している2つの新型艦艇の計画策定にも活用されるのではないかと筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は思います。
その一つが、おおすみ型輸送艦の後継艦でしょう。同型は1番艦「おおすみ」が3月で艦齢28年、最も新しい3番艦の「くにさき」も、2月で艦齢が23年に達します。23~28年という艦齢は、諸外国の海軍の平均からすればそれほど古いとは言えませんが、万が一島嶼部に侵略を受けた際、それを奪還する水陸両用作戦の中核となる艦としては、大きさなどの能力が不足している感があることは否めません。
おおすみ型輸送艦は、いずも型護衛艦のような全通飛行甲板を備えています。このため一見すると航空機の運用能力が高そうに見えるのですが、艦内に航空機の格納庫や整備施設などはなく、見かけほど航空機の運用能力が高いわけではありません。
おおすみ型の後継艦に載るのは「F-35?」 それって空母じゃ…?
2019年11月に開催された防衛総合イベント「DSEI Japan 2019」で、造船企業のジャパンマリンユナイテッド(JMU)は、おおすみ型の後継を視野に入れて研究が進められている「Future Landing Helicopter Dock」(FLHD)という艦のコンセプトを発表しています。
FLHDはおおすみ型と同様、艦尾に舟艇やAAV7水陸両用車などの発進・回収に用いられるウェルドックを備えていますが、同時におおすみ型にはない航空機の格納庫や舷側のエレベーターなどが追加されており、航空機の運用能力を大幅に向上させた艦として構想されていました。
この時JMUが展示したFLHDのコンセプトCGには、陸上自衛隊の運用しているV-22「オスプレイ」の搭載例が描かれていましたが、おそらくおおすみ型の後継艦には、F-35Bを搭載して空母としての役割を果たすことが求められるのではないかと考えられます。
たとえばイタリア海軍が運用している強襲揚陸艦「トリエステ」は、同海軍唯一の空母である「カブール」が修理などで使用できない時、臨時に「カブール」の艦載機であるF-35Bを搭載して空母としての役割を果たします。こうしたこともあり、令和8年度に行われる調査研究の結果は、おおすみ型の後継艦を構想しているJMUをはじめとする造船企業にも共有される可能性が高いと筆者は見ています。
また、この調査研究で得られるであろう成果は、F-35Bのような「STOVL」(短距離離陸・垂直着陸)機ではなく、F-35Cのようなカタパルトを用いて発艦し、アレスティングフックを使用して着艦するCTOL(通常離着陸機)を運用する、より本格的な空母の導入に向けた検討にも用いられるのではないかと筆者は思います。
ずーっとくすぶり続けている「本格空母」導入論
いずも型の改修経費に調査研究の費用が含まれることは、2025年8月に発表された令和8年度予算の概算要求の時点で明らかにされており、同年11月8日号の「週刊東洋経済」は、調査研究の成果が本格的空母の導入に活用されるのではないかとの見方を示しています。
そもそも、いずも型の改修は2018年末に閣議決定された「防衛計画の大綱」(30大綱)で決定したものです。ただ、いずも型の改修とF-35Bの導入という結論に落ち着くまでの過程で、内閣総理大臣官邸や国家安全保障会議、自由民主党国防部会では別案が俎上に載せられていました。前に述べたFLHDのような航空機の運用能力の高い強襲揚陸艦や、当時は日本が単独開発すると考えられていたF-2後継機(将来戦闘機)の艦載機型を開発し、カタパルトを備えたより本格的な空母を新規に建造する案です。
いずも型の改修とF-35Bの導入という結論に落ち着いたのは、空母や強襲揚陸艦を保有することに対する国内外の批判への配慮や、厳しい財政状況への考慮など複合的な理由によるものですが、当時筆者は高位高官ほど、本格的な空母の導入に前のめりであったという印象を受けています。先の「週刊東洋経済」もやはり、本格的な空母の導入について、「高官ほど乗り気」であるという関係者の話を紹介しています。
日本の財政状況は30大綱策定時より悪化していますので、本格的な空母の導入は現実的ではないとも筆者は思いますが、その一方で日本を取りまく安全保障環境は、当時より厳しさを増しています。この厳しい安全保障環境が飛躍的に改善されない限り、おそらく本格的な空母を導入すべきという考え方は、高位高官の中にくすぶり続けるのではないでしょうか。