2月6日(金)に異例の早さで開幕する明治安田J1百年構想リーグ。それに向け、タイトル奪還を目論む川崎フロンターレも1月6日から始動。12日からは沖縄キャンプに突入する。ご存じの通り、長谷部茂利監督体制1年目だった昨季は8位。序盤はAFCチャンピオンズリーグエリートとの掛け持ちを強いられ、決勝進出を果たしたものの2位。後半戦は停滞し、YBCルヴァンカップも準決勝で敗れ、無冠に終わっている。
とりわけ気がかりだったのは、総失点57というリーグワースト3位の数字だ。「シゲさんはアビスパ(福岡)の時は攻撃より守備に重きを置いていて、『失点しないサッカー』を実践していましたけど、フロンターレは『守備より攻撃』のチーム。その分、昨年は失点数が多かったのだと思います」と指揮官と福岡で2年間共闘し、今季川崎Fに加入した紺野和也も神妙な面持ちで言う。
攻守のバランスを確実に修正し、「点が取れて守り切れるチーム」へと変貌できれば、百年構想リーグでの頂点も見えてくる。その請負人の一人に指名されたのが、東京ヴェルディから赴いた谷口栄斗である。1999年生まれの谷口は、ジュニア時代から東京Vに在籍。同期には藤本寛也がいる。ユースからトップに昇格した盟友とは違い、谷口は国士舘大学を経て、2022年から古巣でプロ入り。絶対的主力に君臨し、2023年のJ1昇格プレーオフ優勝・J1昇格の原動力にもなっている。この4シーズンは紛れもなく「ヴェルディの看板DF」としてフル稼働していたのだ。
そういった選手が移籍を選ぶというのは一大事。本人は先月19日の発表時に「悩みに悩んで決断しました」とコメントを出したが、胸中は非常に複雑だったという。
「ヴェルディは小学生からお世話になったチームですし、移籍のサインをした後も『自分、本当に出るんだ』という現実なのかも分からないような不思議な感覚になりました。でも、自分はもう26歳ですし、今年27歳なので、サッカー選手としての寿命はそう長くない。限られた時間の中でチャレンジしたいという気持ちと、タイトルを取りたいという思いが強かった。評価を一段階上げて、殻を破りたいと考えました。それに一人の選手、一人の人間として成長するためには、外の世界を見ることが大事。同じ環境にいると、成長曲線が限られてくると思うので、『外に出て成長したい』と感じたんです」
と本人は10日の新体制発表会の際、改めて強い決意を口にした。川崎Fにとっても、これ以上ないと言える補強である。2025年は高井幸大が欧州に移籍し、ジェジェウが退団、車屋紳太郎の現役引退という事情が重なり、DF陣は手薄になっている。故に今季は谷口や佐々木旭らを中心に最終ラインを再構築していくべきなのだ。
「失点を減らすためには、まず前の選手とのコミュニケーションが大事だと思います。中盤の選手、近い選手との意思疎通が重要ですね。チームのやり方もありますし、そこに対応することも大切になってきます。その上で、厳しさとか際の激しさを伝えていかないといけない。僕がそこをしっかりとプレーで体現できれば、チームに新しい風をもたらせると思っています」と本人も目をギラつかせた。
谷口が東京V時代以上のタフさと激しさ、空中戦のバトルを押し出してくれれば、自ずと失点は減っていくはず。そう仕向けていくことで、近い将来の日本代表入りも現実味を帯びてくるに違いない。“川崎Fの谷口”というと、谷口彰悟(シント・トロイデン)を思い浮かべる人も今も少なくないだろう。偉大な先人は2020・21年のJ1連覇によって、30歳にして日本代表定着を果たし、2022年のカタールワールドカップに参戦。現在も日の丸を背負い、2026年北中米W杯行きを射止めつつある。
そういった前例があるのだから、谷口も2026年W杯以降の新チームで初キャップを飾り、そこから2030年W杯を目指していくことは十分可能なはず。そうなるように、新天地で圧倒的なパフォーマンスを示さなければならないのだ。「谷口彰悟選手は自分が大学の時からすごく憧れた選手。比べられるのはちょっと嫌な部分もありますけど、しっかりと超えていけるように頑張っていきたいと思います。彼は守備の安定感をチームにもたらしていたと思いますし、2021年に優勝した時も最少失点だったと聞いた。僕も今季は全試合出場というのと、1試合平均1点未満の失点数を目指したいと思います」
自ら掲げた目標を達成し、さらに高い領域に到達することで、彼は誰もが認める“川崎Fの谷口”になれる。背番号3をつける長身DFの一挙手一投足が川崎Fの命運を大きく左右する。それくらいのキーマンであることは間違いない。
取材・文=元川悦子