「針路を変えよ。さもなくば重大な事態を招く」。昨年12月中旬、快晴の南シナ海で南沙(英語名・スプラトリー)諸島のサビナ礁に向かっていたフィリピン沿岸警備隊の巡視船は、中国海警船から無線で警告を受けた。前方を横切る危険な妨害もあり、サビナ礁行きを諦めざるを得なかった。
中国が領有権を主張して周辺諸国への威圧を強め、緊張が続く南シナ海。12月11~15日の5日間、同海域で活動する比沿岸警備隊の巡視船「ケープ・エンガニョ」に乗船し、「日常茶飯事」となりつつある中国の威嚇行動を目の当たりにした。
12日早朝、一帯で操業する漁船への補給任務に当たる全長44メートルのケープ・エンガニョが相対したのは、倍ほどの大きさの海警船3隻。約2時間にわたり追尾され、「中国の管轄海域に入った」などと繰り返し警告を受けた。針路のわずか300メートル先を海警船が横切る場面もあり、サビナ礁行きを断念。乗組員の一人は「乗員を危険にさらす事態や船への損傷を避けるためだ」と嘆息を漏らした。
ケープ・エンガニョが針路を変える1時間余り前、サビナ礁周辺では中国海警船がフィリピン漁船に放水銃を使用する事案が発生していた。漁民が放水を受けるのは初めてで、船は損傷し3人が負傷した。「罪のない漁民の命を危険にさらす行為だ」。比当局は中国を非難する声明を出した。中国側がケープ・エンガニョを執拗(しつよう)に阻んだのは、フィリピン側の救援活動への嫌がらせだったとみられる。
翌13日、被害を受けた船を含む漁船団は補給やけが人の治療のためサビナ礁東方のボンベイ礁に集まった。駆け付けたケープ・エンガニョは周囲に中国の海警船に加え、普段は漁業活動に従事するが、必要に応じて軍の指揮下に入る「海上民兵」と海軍の艦船3隻を確認。上空には航空機2機も旋回していた。
中国が南シナ海への進出を強めるのは、一方的に設定した「九段線」に基づき、同海域の権益の大部分の所有を主張しているため。フィリピンは対決姿勢を鮮明にし、両国間の対立は深まるばかりだ。
フィリピンは2026年、東南アジア諸国連合(ASEAN)議長国を務める。マルコス大統領は南シナ海での紛争回避のための「行動規範」策定に向け、ASEAN首脳会議に中国の習近平国家主席を招く方針。ただ、習政権の覇権主義的傾向を踏まえると、策定にこぎ着けるのは難しいとの見方が大きい。南シナ海がかつての「なぎ」を取り戻す日は遠そうだ。(南シナ海洋上・時事)。
〔写真説明〕フィリピン沿岸警備隊の船(左)と漁船=2025年12月、南シナ海
〔写真説明〕南シナ海でフィリピン沿岸警備隊の巡視船と並走する中国海警船=2025年12月