「鉄道会社が作る街」の限界 「一方的な供給」から「みんなでやろう」へ急転換 再生あの手この手!

日本の鉄道会社が115年にわたり続けてきた沿線開発のビジネスモデルが、人口減少などを背景に大きな変革を迫られています。

115年来のビジネスモデルが限界に

 日本の電鉄会社による沿線開発は、鉄道がインフラ整備と生活サービスを垂直統合することで、沿線の価値を創造し、居住者を増やして鉄道収益も拡大するという理想的なビジネスモデルを築いてきました。しかし、そのモデルがもはや成り立たなくなり、各社が危機感を抱いています。

 こうしたビジネスモデルの典型として語られるのが、阪急電鉄の中興の祖である小林一三が1910(明治43)年に創出した手法で、115年の歴史があります。

 郊外の安価な土地を購入して住宅地として開発・販売し、その住民を都心へ輸送するために鉄道を敷設して収益基盤を確立、さらに郊外に遊園地や球場といったレジャー施設を設け、都心ターミナル駅には百貨店を併設し、鉄道利用を促す――これらが一体となって好循環を生み出すモデルを、より大規模に展開した例が、東急電鉄の手掛けた「多摩田園都市」の開発でした。

 しかし、人口減少と少子高齢化により住宅需要や鉄道の輸送量は頭打ちとなり、地方部や郊外では道路整備も進んで鉄道利用者が減少しました。さらに、コロナ禍によるリモートワークの普及や若者の外出減少も追い打ちをかけています。

 加えて、開発から数十年が経過し、大規模住宅団地の老朽化と住民の高齢化による消費の縮小も起きています。鉄道事業者単独での収益確保や沿線価値の維持が困難になりつつあり、従来の開発モデルは変革を迫られています。

「一方的な供給」の限界

 そこで、これまでの「鉄道事業者による一方的な供給」から、自治体、住民、民間事業者(第4勢力)が手を取り合い、多様な価値を創出する共創モデルへの進化が進められています。

 これは地域全体で取り組むため、電鉄会社だけの利益追求にはできません。地域社会全体の心豊かな暮らし(ウェルビーイング)の向上を目指すものです。

 この潮流は、鉄道建築協会が55か所を調査研究し2024年に発表した「活力ある都市・まちづくりと鉄道・駅の役割」でも見られます。また、JRや民鉄大手が参加する沿線まちづくり研究会が、2025年6月に国土交通省都市局長へ提言した中間とりまとめ案においても、連携・共創型沿線まちづくりが提案されています。

 今までの開発モデルとの違いはいくつもあります。鉄道だけでなく自治体や大学・企業などが連携すること、駅ビルなどの建設だけでなく地域の繋がりやビジネスを作り出す見えない「ソフト」も組み合わせること、魅力的な場所が賑わいを作り、さらに魅力が増す循環を作ることです。

 これにより、鉄道や店舗は利用が増え、自治体は人口や税収が増え、市民はより豊かな暮らしを満喫できるという「三方よし」になります。器を供給するのではなく、それを利用する人を中心に進める開発モデルなのです。

組み合わせは無限 多様な展開例

 この連携・共創型沿線まちづくりは、多様な組み合わせで展開されています。

駅を「全く別の用途」に使う

 群馬県の山間にある上越線の土合駅(JR東日本)では、スタートアップ企業が駅を喫茶店にし、隣接地をグランピング場として運営しています。JR西日本は姫新線 太市駅(兵庫県姫路市)の駅舎をシンプル化し、生み出した余地を地元企業が活用。これを鉄道側の待合室としても解放しています。鉄道と地域が資産を共有する形で、駅を「まちに開かれた場所」へ転換しました。

うちの社宅を使って!

 東武鉄道の「ミノリテラス草加」はもともと同社の社宅でした。これを草加市のリノベーションスクールの教材に使い、賃貸住宅だけでなく店舗、畑を整備しました。「寝に帰るだけのまち」からの脱却を目指すとしています。

 団地が広がっていた駅前などを大規模に再開発した例が、京阪枚方市駅です。人口減や若年層減少の社会課題に対し、20分以内で生活に必要な施設にアクセスできる「20分都市」をコンセプトに再開発を進め、住宅、オフィス、商業施設、ホテルなどを集約。賃貸レジデンスへ若年ファミリー層が流入し、駅利用も5000人増えたそうです。

難しい場所に着目

 一般的に開発が難しい場所が駅間の高架下です。これを魅力的な賑わい空間にするため、JR東日本グループのJR中央線コミュニティデザインは、ホップ栽培と地ビール醸造などを通じて地域との接点を拡げています。

 東急が町田市と共同で推進した南町田グランベリーパークは、道路で分断されていた駅・鶴間公園・商業施設を、土地区画整理事業と歩行者道の整備により一体化させました。公園を中心に遊びや滞在が楽しめる場や、企業との協業で学びの場も作り、都市景観大賞や地球環境大賞など多数の賞を受賞しています。

定期券も還元!

 JR東海は安城駅や富士駅で、同社の資産と公共用地を一体利用し、駅周辺への都市機能を集約化する計画を進めます。また、UR賃貸住宅の新規入居者に対し定期券購入額の20%還元キャンペーンを実施するなど、団地再生と公共交通利用促進も進めています。

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 公平性が重要な自治体、収益に向け戦略的に進める鉄道、豊かな暮らしを目指す住民、それぞれの想いと立場と価値観は異なり、多様な主体の連携は簡単ではありません。また、大規模住宅団地のオールドタウン化など、大きな問題も残されています。地面に貼り付いている鉄道も自治体も地域からは逃げ出せず、共に手を組み地域を良くしていくしか道はありません。

(本稿は、鉄道技術展 2025 11月26日「 TAKANAWA GATEWAY CITYを起点とした新たな価値創造」~100年先の心豊かなくらしのための実験場~、27日「活力ある都市・まちづくりと鉄道・駅の役割」、12月1日開催 「沿線まちづくりシンポジウム」の講演内容などから構成しました)

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