【ロンドン時事】英国で電気自動車(EV)に対する優遇策の見直しが波紋を広げている。ロンドン中心部での「渋滞税」が来年1月にEVにも適用され、2028年には走行距離に応じた課金も始まる。財政難による「特権剥奪」が響き、業界からは「EVの維持費が増え、需要が減る」(販売店)ため、普及にブレーキがかかると懸念の声が出ている。
ロンドン市は深刻な渋滞対策として、03年から中心部に乗り入れる車に課金。08年には大気汚染の改善を目指し、排ガス基準を満たさないトラックなどから通行料を徴収し、乗用車にも対象を広げた。
政府は30年にガソリン車とディーゼル車、35年にハイブリッド車(HV)の新車販売を禁止する。ロンドン市はEVを渋滞税、排ガス規制の対象から外して普及を促進。25年3月時点のEV登録台数は同市全体の5.3%に当たる14万0166台と、排ガス規制導入時の19年から4倍超に増加した。30年には100万~140万台に膨らむ可能性があると予測している。
一方、環境車が増えたことで渋滞は解消せず、EVにはかからない燃料税の税収不足にも直面。ロンドン市が来年1月2日から新たにEVを対象とする渋滞税は、1日当たり13.5ポンド(約2830円)を課金し、ガソリン車などは15ポンドから18ポンドに引き上げる。
さらに政府は燃料税収の減少を補うため、28年からEVに1マイル(約1.6キロ)当たり3ペンス(約6円)の「走行距離税」を課す方針だ。リーブス財務相は「すべての車が道路損傷の原因になっている」と、負担の公平性に理解を求める。ニュージーランドやアイスランドは昨年、走行距離税を採用した。
ただ、EV優遇策の縮小が割安なガソリン車などへの乗り換えを促し、走行距離税導入から3年でEV販売が計44万台減るとの試算もある。英自動車工業会(SMMT)は「EV普及の新たな障壁にならないようにすべきだ」(ホーズ会長)と訴えている。
〔写真説明〕「渋滞税」の対象エリアとなるロンドン中心部に入ることを示す標識=3日
〔写真説明〕ロンドン中心部で充電中の電気自動車=1日