国産じゃダメだった?「自衛隊の新型装甲車」が外国製になったワケ 三菱&コマツも新造したのに

陸上自衛隊が導入する新しい装甲車の配備が始まりました。これまで国産が当たり前だった分野で、なぜ外国製が選ばれたのでしょうか。そこには「20年来の実績」と用途別に「取り替え可能」な驚きの仕組みがありました。

国内メーカーに競り勝った北欧企業の装甲車

 陸上自衛隊が採用した最新の装甲戦闘車両である「AMV」の部隊配備が2025年11月から始まりました。

「AMV」はフィンランドのパトリア社が開発・製造する8輪駆動の装輪装甲車です。陸上自衛隊は2025年現在、82式指揮通信車や96式装輪装甲車、軽装甲機動車など、10車種近い装輪戦闘車両を運用していますが、そのほとんどがコマツもしくは三菱重工製で、外国メーカー製のものは、オーストラリア製の「輸送防護車(豪州名ブッシュマスター)」しかなく、その数も8両とごく少数です。

 対して、「AMV」は810両の調達が計画されています。なぜ防衛省・陸上自衛隊は、“日本車”ではなく“外車”の大量調達を決めたのでしょうか。乗用車だけでなくトラックも複数の企業が切磋琢磨している自動車大国の日本であれば、装甲戦闘車両もこれまでどおり開発できたのではないでしょうか。

 じつは今回の選定では、コマツや三菱重工も当初はトライアルに参加していました。しかし、最終的にパトリア社製車両の採用に落ち着いた理由は実績と完成度の差といえます。

 最初に試作車を陸上自衛隊に納入したのはコマツです。「装輪装甲車(改)」という名称でしたが、悪路走破性や装甲防御力が防衛省の要求水準に達しなかったため、開発中止となりました。

 これを受け、防衛省は「次期装輪装甲車」という名称で仕切り直し、これに応じたのが三菱重工とNTKインターナショナルです。前者は16式機動戦闘車の車体を流用した「機動装甲車」で、そして後者が提案したのがAMVでした。

 両者を比べた結果、防衛省はAMVの方が、基本性能や経費面で優れていると評価した採用を決定しました。

 結論から言うと、すでに複数の国々で採用実績があり、紛争地帯などにも投入されて実績のあるAMVの方が完成度が高かったといえるでしょう。とうぜん、運用データはフィードバックされ、都度改良されてきています。加えて実績に裏づけられた信頼性もあります。

 コマツや三菱重工の車体は「これから作る」車両、対してAMVは「すでに大量生産され実績のある」車両となります。性能とコスパ(コストパフォーマンス)を天秤にかけた結果、今回は後者に軍配が上がったというわけです。

 加えて、AMVの特徴のひとつとして、ユニークな車体構造も挙げられます。

レゴブロックのような「モジュラー設計」が強み

 悪路走破性や装甲防御力に優れた外国製の装輪装甲車両というだけなら、AMV以外にも多々あります。

 それらと比べてAMVが持っている大きな特徴といえるのが、用途に応じて車体構成を入れ替えられる「モジュラー設計」です。

 イメージは「レゴブロック」。タイヤ付きの共通プラットフォーム(車体)に、人員輸送用、救急車型、偵察仕様、火力支援など用途別の“モジュール”を載せ替えるだけで、低コストかつ簡便に派生型を作り出すことができます。

 これだと、用途ごとに別車両を新規開発する必要がなく、共通のプラットフォーム(車台)を使い回すことでコスト低減と整備性向上を両立できます。

 また、生残性にも優れています。現代の戦場で脅威となる地雷や即席爆発装置(IED)への対策が設計段階から盛り込まれ、実戦での耐久性が評価されています。

 すでにポーランドやスウェーデンなど複数国で採用され、量産効果による単価圧縮も見込めます。

 今回の判断は、「多少高くても国産を守る」から「より良い装備を実利重視で選ぶ」へと方針がシフトしたことを示すものです。国内産業にとっては厳しい面もありますが、現場の隊員にとっては世界水準の安全性と性能を迅速に確保できる最適解といえるでしょう。

 ただし、AMVは日本製鋼所でのライセンス生産を通じて国内で製造されるため、技術基盤の維持という側面も一定程度は考慮されています。

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