混雑率が“5年連続”全国ワースト!? なぜ「日暮里・舎人ライナー」はこんなに混むのか? 対策に苦戦するワケ

日暮里駅と舎人地域を結ぶ新交通システム「日暮里・舎人ライナー」は、“日本一の混雑路線”として知られています。これまで講じられてきた対策でも、抜本的な混雑解消には至っていませんが、背景にはどのような事情があるのでしょうか。

本末転倒だけど…やるしかない!

 東京の日暮里駅と足立区北部の舎人地域を結ぶ全長9.7kmの新交通システム「日暮里・舎人ライナー」は、いまや“日本一の混雑路線”として知られています。2025年12月に始まった直行バス運行の実証実験をはじめ、これまでも多くの混雑緩和策が講じられてきましたが、いまだ抜本的な解決には至っていません。背景にはどのような事情があるのでしょうか。

 2008年3月の開業以降、日暮里・舎人ライナーは沿線開発の促進によって、利用者が次第に増加していきました。

 国土交通省が毎年秋に実施している混雑率調査(朝ラッシュピーク1時間の平均混雑率)の推移を見ると、混雑率は2019年の時点で189%と高水準でしたが、まだ全国順位ではワースト5位。上には上がいました。

 ところが新型コロナウイルス感染症の流行によって、ほかの各路線では混雑率が大幅に低下。その結果、日暮里・舎人ライナーの順位が相対的に上がってしまい、2020年以降は5年連続でワースト1位になっています。

 この状況を改善するため、すでに様々な対策が講じられています。2020年3月には運行本数を1本増発し19本としたほか、輸送力も全面ロングシート化した新型車両を2022年度から2024年度にかけて追加投入することで、10%の増加を実現しました。これにより、直近の2024年のデータでは、輸送人員がコロナ前の2019年から3%増加した一方、混雑率は177%へと、わずかに低下しました。

 ところが、これ以上の輸送力増強は難しいのが現実です。日暮里・舎人ライナーは車両基地の収容能力が不足しており、車両の増備は不可能。また、編成両数を増やすことも、車両基地の拡張や駅ホームの延長に多額の費用がかかるため困難です。

 東京都交通局と足立区は苦肉の策として、江北駅前~西日暮里・日暮里駅間で直行バスを運行する実証実験の実施を決定。見沼代親水公園~江北駅から西日暮里・日暮里までの定期券利用者、シルバーパス所有者を対象に、2025年12月22日から2026年3月27日まで、江北駅前を7時00分、25分、45分に発車する3本を設定します。

 しかし、江北~日暮里間の所要時間は日暮里・舎人ライナーなら10分強ですが、直行バスでは約30分かかります。また、車両は観光バス型を使用するため、定員は3本あわせて150人程度、ピーク1時間の輸送量の1.7%程度しかカバーできません。

 そもそも、日暮里・舎人ライナーは都営バス屈指の混雑路線だった「里48系統」の代替として整備された路線であり、同線の混雑をバスによって救済するのは、まさに本末転倒です。ですが、対策はそれほどに手詰まりなのです。

対策は八方塞がりなのか?

 日暮里・舎人ライナーの整備構想は、1970年代に生まれました。当初は地下鉄の整備を目指す運動もありましたが、1985(昭和60)年の運輸政策審議会答申第7号以降は「中量軌道システム」の採用を前提に検討が進みました。これほど混雑するなら、最初から地下鉄として建設しておけばよかったのでは、と思うかもしれませんが、そう単純な話ではありません。

 都市交通機関には地下鉄、ミニ地下鉄(リニア地下鉄)、モノレール、新交通システム、路面電車、バスなど様々な形態があります。1kmあたりの建設費は、地下鉄が300億円以上、ミニ地下鉄でも200億円前後と高額です。これに対して新交通システムは、日暮里・舎人ライナーが130億円、「ゆりかもめ」が114億円と割安です。

 それでも、利用者が多ければ多額の費用を投じても地下鉄を整備すべきですし、少なければ最初から軌道系交通は必要ありません。輸送密度(1日1キロあたりの利用者数)でいえば、地下鉄は10万人以上、ミニ地下鉄(リニアメトロ)は3~10万人、モノレール・新交通システムは1~3万人が整備の目安でしょう。

 しかし、日暮里・舎人ライナーの輸送密度は約5万人です。つまり、新交通システムとしては利用者が多すぎ、逆に地下鉄を造るには足りないという、エアポケットのようなニーズの路線なのです。

 また、これだけの利用があっても、日暮里・舎人ライナーの経営は決して楽ではありません。最終黒字を達成したのは2024年度が初めてで、その額はわずか2.5億円。開業以来の繰越損失は約189億円に達しています。もし地下鉄として造っていたら黒字化は絶望的であり、神戸市営地下鉄海岸線のように、経営難に陥っていたかもしれません。

 そもそも、軌道法の特許を取得した1995(平成7)年時点での需要予測は、1日あたり10.1万人でした。その後、予測は経済社会情勢の変化で4.2万人に下方修正され、駅舎の規模を縮小するなど、事業の見直しも行われています。開業から15年以上を経て、ようやく当初の想定に近付いてきましたが、仮にさらに上を狙っていたら、計画は中止されていたでしょう。

 加えて、利用者層の偏りも問題に挙げられます。コロナ前のデータであるものの、2018年度の全利用者に占める定期利用率は、都営地下鉄平均が59%、東京メトロ平均が57%なのに対し、日暮里・舎人ライナーは69%。都市部の路線としては、トップクラスの朝ラッシュ偏重路線となっています。

 車両や駅務機器、信号保安装置など、鉄道施設の多くは朝のラッシュ時しか使用しない効率の悪い資産です。ラッシュ輸送のためだけに大規模投資を続ければ、収支の悪化は避けられません。日暮里・舎人ライナーがこれ以上の設備投資を抑制し、バスの活用など、他の対策を模索する背景には、こうした事情もあります。

 また、オフピーク乗車の促進にも限界があります。過去には東急田園都市線や東京メトロ東西線がキャンペーンを実施して一定の効果を上げてきましたが、一方でJR東日本のオフピーク定期券は思うように普及していません。短期的なキャンペーンなら気軽に参加できても、生活様式の変更を伴う恒久的なピークシフトは容易ではないのです。

 期せずして日本一の混雑路線となってしまった日暮里・舎人ライナーの苦悩は、鉄道整備がもたらす効果の大きさと同時に、その計画の難しさを物語っているといえるでしょう。

【苦悩だ…】これが「日暮里・舎人ライナー」に関するデータです(表と写真)「乗り通す人いるの?」200キロ超の長距離“普通列車”が今なお消えない理由首都圏の“電車じゃない区間”に「電車のような気動車」が突然デビュー! “白いキハ”はあっという間に消えるかも? JR八高線に乗った