「欧州の戦車大国」さらに“新型戦車”を開発へ? 進まない「国際開発のスゴい戦車」までの“中継ぎ”、その姿とは?

ドイツが仏との合面企業に対して、新型戦車の開発を容認しました。最新鋭戦車レオパルト2A8の増備と同時に、フランスと新型主力戦車「MGCS」の開発プログラムを進めるドイツに、その「中継ぎ戦車」が必要との見方があります。なぜでしょうか。

「欧州の戦車大国」で新たな戦車開発計画が?

 ドイツの連邦カルテル庁は2025年12月15日、同国の大手防衛企業であるラインメタルと、同じくドイツの大手防衛企業であるクラウス・マッファイ・ヴェクマン(KMW)がフランスの防衛大手ネクスター(Nexter)と合弁で設立したKNDS(KMW+Nexter Defense Systems)の両社に対して、合弁事業の範囲拡大を承認したと発表しました。あわせて、この承認によりラインメタルとKNDSによる「新型戦車」の開発が可能になったことも明らかにしました。

 ドイツでは公正な競争を保障するため、単独企業による独占や、少数企業による寡占を防止する目的で、連邦カルテル庁が企業の合弁や協同に様々な規制を設けています。連邦カルテル庁の承認に基づき、ラインメタルとKNDSは歩兵戦闘車「プーマ」の開発と製造を行うための合弁企業「PSMプロジェクトシステム&マネジメント」を設立し、ドイツ連邦陸軍に同車を供給してきましたが、PSMの業務範囲はあくまでプーマの開発と製造に限定されていました。

 この枠組みを拡大し、PSMが新型戦車を開発できるようになった背景には、何があるのでしょうか。

 ドイツは、レオパルト2戦車の最新仕様「レオパルト2A8」の導入計画を進める一方で、フランスとの間ではレオパルト2とフランスのルクレール戦車を後継する戦闘車両を中核とする陸上戦闘システム「MGCS」(Main Ground Combat System/陸上主力戦闘システム)の開発を進めています。

 レオパルト2A8をドイツ陸軍は123両発注済みで、さらに75両の追加調達も検討されています。仮に追加発注が行われたとしても、ドイツ陸軍への納入は10年程度で完了する見込みです。

 一方、MGCSは当初、2030年代に実用化される予定で計画が進められ、本来ならばレオパルト2からMGCSの中核となる戦闘車両へスムーズに移行できるはずでした。しかし、MGCSの開発は難航を極めており、実用化目標時期が2030年代から2045年へ繰り延べられています。

 このため、レオパルト2A8の配備からMGCSの戦闘車両が実用化されるまでのギャップを埋めて、ロシアへの抑止力となる「中継ぎ戦車」が必要だという意見が強くなっていました。

「最新戦車」と「将来のスゴすぎる戦車」の間に横たわる“溝”

 MGCSの開発が難航している主な理由として、求められる能力の最適な答えを見つけることが難しい点が挙げられます。MGCSは単なる新戦車の開発ではなく、複数の有人戦闘車両とUGV(無人車両)を組み合わせた陸上戦闘システムの開発プログラムです。そのため、その中核となる有人戦闘車両については、求める能力の最適解を見つけるのが難しいようです。

 筆者(竹内修:軍事ジャーナリスト)は、2022年6月にフランスで開催された防衛装備展示会「ユーロサトリ2022」で、MGCSの開発を主導しているKNDSに取材していますが、同社の担当者もそのような見解を示していました。

 特に難しいのは、攻撃力に関する最適解だと思われます。

 ユーロサトリ2022では、ドイツ政府がラインメタルに開発資金を与えた130mm滑腔砲弾の発射が可能な砲を装備する新型MBT(主力戦車)KF51「パンター」と、ネクスターがKMWとの合弁企業設立前から研究開発を進めていた140mm滑腔砲「ASCALON」が展示されていました。

 KNDSの担当者は、130mm砲、140mm砲の両方ともMGCSの中核となる有人戦闘車両に主兵装として採用される可能性があるものの、ドイツ、フランス両陸軍の砲に対する運用要求の差は大きく、それがどちらの砲を採用するかを決定するにあたっての問題点であると認めていました。

 MGCSに関しては、実用化想定時期までの猶予が20年近くあるため、将来の戦闘様相の変化をにらみつつ、独仏両国で意見のすり合わせをしていけば良いように思われます。しかし、ドイツが単独で「中継ぎ戦車」を開発するのであれば、それほど長い開発期間とコストはかけられないと筆者は思います。

 そこで、中継ぎ戦車はレオパルト2A8、もしくはドイツ陸軍への配備は決まっていないものの、KF51をベースとする可能性が高いと考えられます。

それは「レオパルト3」か「KF51改」か

 最も手っ取り早いのは、レオパルト2A8にさらなる改良を加えた「レオパルト2A9」を開発することですが、レオパルト2A8には現在搭載されている55口径120mm滑腔砲以上の大型砲や、将来の戦車には必須となるであろうUGVの指揮統制システムなどを追加装備する余地は無いと思われます。

 他方、前述したKF51は、レオパルト2の車体にラインメタルが新たに開発した、130mm滑腔砲と砲弾自動装填装置を組み合わせた砲塔システム「フューチャー・ガン・システム」(将来砲システム)を組み合わせて開発されたものです。KF51は3人乗りですが、4人分の座席が設けられており、1人分の座席にはUGVやUAS(無人航空機システム)のオペレーターの搭乗が計画されています。砲塔もレオパルト2より大型化されており、指揮統制システムを車内に追加搭載する余地は大きいでしょう。

 レオパルト2の開発にはKMW、ラインメタルの両社が関与していますが、KF51はラインメタルがその車体を活用して独自に開発したものです。過去にはレオパルト2の知的財産権はどちらにあるのかを巡って法廷闘争が行われたこともあり、それがKF51の輸出に関する障害となっていました。

 しかし、連邦カルテル庁がPSMの枠組みを利用した新戦車の開発を容認したことで、KF51の開発・生産は以前に比べると容易になったと考えられます。

 こうした事情を考慮すると、ドイツ陸軍が開発する中継ぎ戦車は、「レオパルト2A9」ではなく、KF51そのものか、KF51をベースとする「暫定レオパルト3」のようなものになるのではないかと筆者は思います。

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